聖騎士団からの2
「え……いえ、待ってください。貴方達は捜査をしていたはずでは?」
「そこを見込まれたみたいでして。これも捜査の一環……ということらしいです」
「随分とまあ……」
溜息をつくイリスに、イルゲアスも苦笑する。他にも何も知らない聖騎士よりも動きやすいとか信頼を得やすいとかまあ色々あるのだが、要は一番他の仕事に影響がないからである。
第七分隊長のエリオットが混ざっているから雑魚を送ったとも言われないだろうし、女性に配慮ということで女性騎士を混ぜれば「精鋭」を送り込んだ事実の完成というわけだ。
「全部で三人か」
「あ、はい。それ以上を割くのはやはり難しいとのことです。なにしろ最近、小さなトラブルが頻発しておりまして……聖騎士団としては、住民の安全を軽視するわけにもいきません」
「御託は要らん。つまり、三人で同様の暗殺事件が起こっても防げると判断したということで良いのだな?」
「なんとかしろというのが命令です」
「ふむ」
まあ、確かにそれが限界ではあるだろうとセラトも思う。
暗殺未遂事件は聖都を揺るがす大事件ではあるが、だからといって何十人もの聖騎士をカナメとイリスの為に割けるかといえば、それは別の話だ。
なにしろカナメはこの聖都では旅行者の一人に過ぎないし、イリスも神官長に推薦する予定とはいえ現時点では一介の神官騎士だ。
そんな相手を大仰に護衛すれば、あらぬ誤解を招く可能性だってある。
そう、たとえばだが「聖騎士団は町の安全よりも権力者が大事だ」……などと言われるわけにはいかない。
実際がどうであれ、一度そういう噂がたてば聖騎士団の求心力低下につながるだろう。この辺りは聖騎士団が聖国の問題よりも自分達の体面を優先したという話ではあるのだが……この辺りは自由に動ける神官騎士と組織としての動きを重視する聖騎士団の差とも言えるだろう。
「了解した。だがまあ、やはり心配だ。こちら側の人員は残しておくことにする。構わんな?」
「え? えーと……まあ、はあ。僕がどうこうと言う権限があるかと言われるとアレなんですけども」
「よし、ならば決まりだ」
「報告! 聖騎士団のサラサと名乗る騎士が入室許可を求めています!」
セラトがゴリ押しをしている間にも、先程名前を聞いた女性騎士が到着したらしく神官騎士が声をあげる。
そうして流れる棒切れ亭に入ってきたのは、青髪のキツい印象の女性騎士であった。
身長は高めで、体格的には細め。後ろで纏めたロングヘアが尻尾のように揺れているのがなんとなく特徴的ではあるだろうか。
「聖騎士団第九分隊所属、サラサ・フェルグレット。聖騎士団より命を受けて参上しました」
「うむ、ご苦労。フェルグレット家というと……確か帝国の貴族だったか?」
「それは本家です。私の祖先は英雄王の時代に連合に渡っており、英雄王より改めてフェルグレットの名を頂いていると伝えられております」
「ああ……英雄王か。そうか」
それで全てを納得してしまったのか、セラトはそれ以上何も言わずに黙り込む。
話題に触れるのが嫌なのかも分からないが、恐らくはカナメと同郷であろう彼が何を仕出かしていたのかは気になるところではある。
「しかし、そのフェルグレット家のご令嬢がどうして聖騎士団にいる?」
「個人的な事情ですが、お聞きになりたいのであれば」
「いや、いい。婚約話が云々という話であれば聞き飽きた。貴族令嬢の「個人的事情」でそれ以外を聞いた覚えがない」
なるほど、確かに定番だとカナメが人知れず頷くのをエリーゼとアリサが不思議そうな顔で見ているが、それはさておき。
サラサはセラトの背後のカナメ達を見ると、順番に視線を移し……一瞬嫌そうな顔をした後、すぐに元の表情に戻る。
「そちらの男が「カナメ」という冒険者ですか?」
「ああ、そうだ……が」
何事もなかったかのように話し始めるサラサだが、当然セラトが先程の表情を見逃すはずもない。
「先程の表情は何だ。レクスオール神殿の妙な噂を真に受けてでもいるならば帰ってもらうぞ」
「あ……いえ。少し個人的感情が出てしまいまして……」
「個人的感情? それはアレか。君の婚約者に彼が似ているとかかね」
「そう、ではないのですが……」
言いにくそうに呟くと、サラサはカナメをじっと見る。
「なんだかこう、周りの女性陣と比べると頼りなさそうで……連合は英雄王のハーレムに憧れるアホが多いものですから、その類の自分じゃ何にも出来ない欲だけは一丁前の男なのかな……って、つい」
なるほど、確かに男一人に女性三人。何処かに消えているがルウネを含めれば四人。
壁で背景みたいになっているハインツを加えれば男二人に女性四人だが、まあ言いたいことはカナメも分からないではない。
アリサが好きで、エリーゼが好きで、イリスが好きで。
ハーレムの主を気取っているわけではないが、そう言われても仕方のない状況ではある。
おまけについこの前までまともに読み書きも出来なかった情けない男だ。
「カナメ様、あの手の偏見は気にしないのが一番ですわ」
「いや、でもエルもなんか似たような事言ってたような……それに全部違うってわけでも……」
「何言ってんの。世の中男と女の二種類しか居ないってのに。性別で分けたがる奴こそが本当の差別主義者なんだからね?」
「そうですよ、カナメさん。それにカナメさんは頑張ってると思いますよ?」
「やっぱりハーレム……」
「よし、君は黙れ。あるいは帰れ。護衛対象にダメージを与えてどうする」
青筋を立てるセラトにサラサはヒッと声をあげ「すみません」と慌てて頭を下げるのだった。
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