聖騎士団からの

 聖騎士団との「ちょっとした揉め事」の後……背後の壁際に立つ神官騎士の視線にどうにも居心地悪い気分を味わいながらも、カナメ達は少し早めの昼食をとっていた。

 いつもと同じなのはエルが出かけている事。

 いつもと違うのは、セラトが一緒にいる事。

 レタスとハムのシンプルなサンドイッチも、この空間ではどうにも味がしない。


「どうした。食が進んでいないな」

「いえ、なんていうか。セラトさんはお仕事いいのかなって」

「良くはない。だが少なくとも、この後の聖騎士団の対応を見ておかねば片手落ちだからな」

「えっと……それって」


 セラトはお茶を一口飲むと「つまりだな」と説明を始める。


「俺は聖騎士団に「お前等は街の平和を守れん無能だ」と遠回しに罵ったわけだが」


 その言葉にイリスが何か言いたげな顔をするが、口にサンドイッチを詰め込む事でなんとか言葉を飲み込んだようだ。

 実際遠回しどころか思いっきり無能という単語を使っていた気がするのだが、余計な事は言わずにカナメは頷いてみせる。


「当然、聖騎士団はこれに対し何らかの対応を迫られる。その「対応」がどうであるかが問題なのだ」


 たとえば、一番「失格」なのは抗議だ。

 我々が適切に重点的な巡回をやるから神官騎士を引かせてくれ、とか……そういう事を言ってくるようであれば無能を通り越して害悪だとセラトは判断する。

 そんな阿呆な事を恥ずかしげもなく言うようであれば、聖騎士団の再編を視野に入れるべきだし下手をすると聖騎士団内に暗殺未遂犯の仲間がいる可能性すらある。


 逆に、一番「合格」に近いのは人員派遣だろう。

 我々が対象を保護する……などと言ってくるようならまあ、一応合格だ。

 あとは人員と計画が適切であるかを見極めれば事足りる。

 要は聖騎士団がこの件にどの程度本気かを測る布石であるとセラトは説明し……カナメはなるほど、と頷く。


「でも、聖騎士団としては俺ばかりにかまけて聖都内で他の事件を招く……っていうのも当然危惧してるんじゃ?」

「そうだな。だから「合格に近い」と言った。足りない人員に関して神官騎士に一時的な協力を要請してくるようなら……俺は連中を真の聖都の守護者と褒め称えてもいい。だがまあ、そうはならんだろう」


 聖騎士と各神殿の神官騎士の間の仲の悪さは簡単に修復できるようなものではない。

 聖騎士は自由奔放で自分の神殿の教義のみを信じる神官騎士が大嫌いだし、神官騎士は四角四面で融通が全く利かない聖騎士が大嫌いだ。

 どちらも聖国の為に動いているはずなのだが、この辺りは互いのプライドの問題だ。

 

「たとえばだが、武器を所持した凶悪犯が居たとしよう。五人で囲んでいたとして、慎重に包囲を狭め取り押さえるのが聖騎士。全員で飛び掛かって抵抗しなくなるまで殴るのが神官騎士だ」

「蛮族だね」

「恐れられて当然ですわね」


 アリサとエリーゼのツッコミにイリスがうっと唸るが、仲間の所業に思うところがあるのか自分に覚えがあるのかは……カナメは怖くて聞けない。


「ヴェラール神殿のもそうなんですの? 他の神殿と比べると紳士的な印象がありましたわ」

「いや。ヴェラール神殿は天秤の神を奉じる神殿。その行いには礼節が求められるが故に、どちらかといえば聖騎士団や各国の騎士団に近い。少なくとも蛮族と揶揄されることはないだろう」


 まあ、確かに外に居る神官騎士も……後ろに立っている神官騎士も動きが統一され洗練されている。

 ハインツのそれにも似ている気がするが、同じヴェラール神殿の系列なので当然と言えば当然なのだろう。


「……まあ、その辺の話はともかく。聖騎士団の対応とやらが明日以降になったらどうするんです?」

「ふむ」


 アリサの至極真っ当な疑問に、セラトは頷き顎を撫でる。


「その場合は……失格だな。今夜にも何かが起こるかもしれないという状況で「とりあえず」の回答もないようでは、即応性があるとは言えない。そんなようでは……」

「失礼します!」


 セラトの言葉が終わるより前に、入口の前に立っていた神官騎士がドアを開け敬礼する。


「報告! 聖騎士団より来訪者あり。入室許可を求めています!」

「噂をすれば、か。通せ」


 セラトの言葉に従い聖騎士団の鎧を着た男が一人流れる棒切れ亭の中へと入ってくる。

 その人懐っこい顔にカナメは「あ」と声をあげ……男もまた「こんにちは」と笑いかけてくる。


「一人か?」

「いえ、あと二人来る予定ですセラト神官長殿。第三分隊のイルゲアス、聖騎士団からの命を受けて参りました」


 そう、それは事情聴取の時に訪れた聖騎士、イルゲアスだ。相変わらず優し気な印象だが……どことなく困ったような笑顔を浮かべてもいる。


「ならば三人で来ればいいものを」

「はは……申し訳ありません。何分捜査中だったものでして、先に連絡のついた僕が先行して参上した次第です」

「先行して……ということは、まさか」

「はい、その通りですイリスさん」


 イルゲアスはイリスにそう言って頷くと、ガチャリと鎧を鳴らして敬礼をする。


「聖騎士団第三分隊イルゲアス、暗殺未遂事件の重要証人の護衛の任を賜りました。続けて第七分隊より分隊長のエリオット、第九分隊より女性騎士のサラサが到着する予定です。期間に関しては現時点では未定。本日中には追加命令がくる予定です」

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る