急報4
「邪魔するぞ」
カナメ達の食事中、そんな挨拶と共にやってきたのは……ヴェラール神殿の神官長セラトと、そのお供のメイドナイトであった。
前回会った時もそうではあったが、更に険しい顔のセラトの様子にカナメも自然と食事の手を止める。
フォークが皿に触れるカツンという音が響き……それと同時に、セラトがカナメの正面に座る。
「食事中にすまないな」
「い、いえ。おはようございます」
いったい何事かは分からないが恐らくは自分に用事なのだろうと身構えるカナメに、セラトは黙って視線を向ける。
たっぷり数秒はたった後……セラトは「その後、何かあったか?」と切り出してくる。
「その後っていうと……」
「そこの神官騎士の暗殺未遂事件については聞いている。その後、何かあったかと聞いている」
「えっと。いえ……あ、まさか今日は、その話で?」
「いや、別件だ」
そしてセラトは低い……しかしよく通る声でそれを告げる。
「……聖都に向けて帰還中であったレクスオール神殿の調査隊が、行方不明になった。神官長も同様だ」
「なっ……」
「それは確かなのですか!?」
立ち上がりかけたカナメが霞む勢いで立ち上がったのは、少し離れた場所に座っていたイリスだ。
それも当然だろう。なにしろ神官長の帰還を一番待ち望んでいたのはイリスだ。
神官長の帰還が事態の動く契機になると考えていたのが、その神官長の行方不明ということになれば当然の反応だ。
「早めに呼び戻そうと思って手の者を派遣していたんだがな……」
「一体……一体どうしてそんな。神官長達がそう簡単にどうにかなるとは」
レクスオール神殿に限らず神殿の調査隊とは、決して観光気分の団体などではない。
神殿によっては戦うのが苦手な神官も混ざるが、必ずその神殿でも腕利きの神官騎士が護衛に混ざる。
場合によっては冒険者を多数雇って護衛につける徹底ぶりであり、「金を持ってそうな神官を襲おう」などと考えている輩を返り討ちに出来る程度の戦力は有している。
更に恨みを買いやすいレクスオール神殿の調査隊……しかも神官長直々の部隊ともなれば、それは騎士団の討伐隊にも匹敵する攻撃力や堅牢さを誇っていたはずだ。
それが行方不明になるというのは……正直に言って、信じがたいにも程がある。
「俺もありえんと思っていた。しかし事実、行方不明となっている。今後事態がどう推移するにせよ、君達にも多少の影響が出てくるだろう」
「神官長の行方不明……となると、副神官長が実権を握る事になるんですの?」
レクスオール神殿のタカロ副神官長がカナメを偽物扱いしたのは記憶に新しい。
その副神官長が実権を握るのならば、カナメのことをレクスオール神殿に認めさせるのは難しいだろう。
そうなると、これ以上聖国に滞在する意味もなくなってくる。
そんな意味を込めたエリーゼの問いに、セラトは考えるように少し黙り込む。
「……あくまで他神殿の話ではあるし、あまり前例のない話だから予想にはなる、が。普通神官長が職務を長期に渡って遂行不能と思われる状態に陥った時は、次の神官長を選出する事になる」
そう、たとえば非常に重い怪我や病気などで動けない状態になる事だってありえない話ではない。そうした際に、そんな神官長に祭事や神殿内の事を取りしきれというのは無理がある。
そうした場合「神がもう充分働いたからお休みになるように仰られている」などという理由をつけて神官長を職位としては飾りの「権神官」として大神殿所属とし、新たな神官長を選出するという形がとられることになっているのだ。
そして今回の場合は「生死不明」である為、恐らくはその方法がとられるだろうとセラトは予想している。
「念の為、レクスオール神殿の動きを見張らせているが……もし神官長選出ということになった場合、恐らくは副神官長の一人勝ち、とはならないだろう」
そもそもレクスオール神殿では神官長は神官騎士から選出する。
だから副神官長が神官長になるといったような事態にはならないし、副神官長派の神官騎士がいきなり神官長になる……といったような事もない。
何故ならば、神官長に選出されるような神官騎士には条件がある。
「そうだろう? 高位神官騎士……「天弓騎士」イリス」
「……確かに。今仰った条件であれば、私もまた新たな神官長の条件に当てはまります。しかし、それは」
「ああ」
イリスが言いよどんだソレを、セラトは迷いもせずに言葉にする。
「君の暗殺未遂が、神官長について知っている者の犯行だとすれば……色々と見えてくる。というよりも、一人しか居ない」
「それって、まさか」
ここまでくれば、カナメにだって話が見えてくる。
つまりイリスの暗殺騒ぎの時にはすでに神官長の行方不明について把握していて、尚且つそれによってイリスが邪魔になるような人物。
「そうだ」
カナメの考えを肯定するかのように、セラトは強く頷く。
「レクスオール神殿副神官長タカロ。証拠こそないが、俺は奴を一番怪しいと考えている。故に、気を付けろ。何が起こるかは分からんが……確実に、何かは起こる」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます