ヴィルデラルト7
「ん……ここ、何処?」
「うえ!? アリサ!?」
「あら」
何度目かになる、ヴィルデラルトの居る場所。
そこに居たカナメの隣に立っていたのは、イリス……だけではなく、アリサもだった。
今日の「出現場所」はどうやら何処かの建物の中のようだったが……もはや、そんな事はカナメにとって大した問題ではない。
アリサが此処に居て、イリスが此処に居る。そしてイリスはどうすれば此処に来れるのか知っている。
それは、つまり。
「カナメさんてば……アリサさんを選んだんですか? 意外、いえ。順当でしょうか?」
「あ、いや。えーとですね。これには長い説明が要るっていうか色々と違わないけど違うんです!」
「ていうか、此処何処さ。私は寝てたはずなんだけど」
「やあ、今日は騒がしいね」
建物の奥から、そう言ってやってきたヴィルデラルトは……一人増えたカナメ達を見て目を丸くする。
「これはこれは……」
「あ、いや。これはなんていうか!」
「彼女が闘神の「なりかけ」か。成程……」
闘神という単語にアリサは迷わずイリスを見るが、イリスから「アリサさんのことですよ」と言われてアリサはカナメに視線を向ける。
「カナメ。アレは誰で此処は何処? 神様呼ばわりされる謂れはないんだけど」
「あー……俺もうまく説明できないんだけど。あれは神様で此処は神様の領域……らしい」
「運命の神ヴィルデラルトだ。よろしく、お嬢さん」
「運命の神ィ?」
アリサは胡散臭そうなものを見る目でヴィルデラルトを見て……しかし、すぐに肩をすくめる。
「運命の神とかってのは聞いたことないけど。只者じゃないのは確かそうだ」
「ハハハ。僕は地上での戦いには参加してなかったからね。仕方ないよ」
ヴィルデラルトはそう言って笑うと、アリサに視線を向ける。
「闘神というのは、君達の言う
「ふーん」
アリサはカナメにチラリと視線を向けると……「そっか」とだけ呟く。
「私はその話聞いてないけど。いや、聞いてないってことは「治療法はない」って考えていいのかな?」
「僕は知らないというだけさ。何しろ破壊神と戦う為に人が作った最終手段だ。魔力を混ぜる事による対処療法以外は当時、存在しなかったはずだ」
君みたいな「なりかけ」の事例も見たことはないしね、と言うヴィルデラルトにアリサは「なるほどね」と頷く。
その物怖じしない様子にカナメはハラハラするしイリスも不敬ではないかと思いつつもヴィルデラルトが何かを言う前に諫めるのも間違っているのではないかと何も言えない。
「ていうかさ、神様。地上からこっちに来れるんなら、こっちから地上にも行けるんでしょ?」
「うん?」
アリサの言う意味が分からなかったのか首を傾げるヴィルデラルトに、アリサは指を突きつける。
「あんたが地上に来れば、今カナメが抱えてる問題は解決するんじゃないの?」
「え、あ。ちょ、アリサ!」
「いくらなんでも不敬……っ」
「まあまあ」
流石に止めようとするカナメとイリスをヴィルデラルトは手を振って制すると、アリサへと笑顔を向ける。
「カナメ君の抱えている問題、というのは?」
「強いて言うならカナメを取り巻く全て。でも今一番切迫してるのは、カナメの弓を本物と認められる奴が居ない事。あんたが神様なら、簡単に解決できるでしょ?」
「なるほど」
ヴィルデラルトは頷き……しかし、「でも、無理だね」と答える。
「僕が地上に赴く事は可能だが、それには決して低くないリスクを伴う。それと、僕の降臨がカナメ君の問題解決に繋がるとも思えないな」
何しろ僕は地上じゃ知られてないマイナーな神だからね、とヴィルデラルトは笑う。
なるほど、確かに誰だか分からない神様が「この者の身分を保証する」などと言ったところで神殿としても「その神様のことはどう証明するのか」という悩みを抱える事になる。
何しろ魔力が強かろうと凄い事が出来ようと、それが「人の域を超えた凄い魔法士」ではないと証明する術がない。
あくまで神殿は過去の記録を元に「恐らく神である」と証明することしかできない。
知られていない神を「神である」と判断する術など持ち合わせてはいないのだ。
「この辺りを僕の怠慢と言われれば反論のしようもないけど、そもそも僕達は信仰される為に破壊神と戦ったわけでもないからね」
「……まあ、そうだろうね」
「そういうことさ。それに出来れば、人の世界の問題は人の手で解決するのが望ましい。僕達に頼る心を育ててしまっては、いつかの危機にも対抗できないだろうしね」
そう、ヴィルデラルトが神であると神殿が……聖国が認定したとして、その問題が付きまとう。
地上を離れて久しいと言われている神々の一人の降臨。
それは他の神の帰還を願う熱狂的な祈りを産むだろうし、事あるごとに神であるヴィルデラルトに頼ろうとする風潮も育ってしまうだろう。
それはいわば問題解決能力の放棄であり、自主性の喪失でもある。
「自主性、ね」
「そう、自主性さ。それだけが、君達を救うのだからね」
そう言うと、ヴィルデラルトはアリサへと笑いかける。
「それにしても。運命の神なんてのは名前だけ、だけど。流石に僕も「運命」とかいうやつを感じざるを得ないな」
「は?」
疑問符を浮かべたアリサにヴィルデラルトが口を開くより、前に……アリサ達の視界は暗転していく。
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