癒えない傷痕2
落とし穴、仕掛け弓、その他諸々。
幾つかの罠には漏れなく保存の魔法がかかっており、その全てをアリサとノーデンは突破していく。
過剰なくらいに周到な罠は、盗賊団が相当年季が入っている事を二人に教えてくれる。
山に籠る盗賊団は多いが、要塞化している盗賊団となると然程数はない。
それは単純に金がかかるという問題もあるが、目をつけられて騎士団に本気で攻められたらおしまいだからだ。
故に、盗賊団は大抵場所をこまめに移動しており、要塞化という手段は通常とらない。
それでも要塞化するのは、そこでやっていけるという自信の表れに他ならない。
「ヘッ……とんだクソ野郎共が潜んでたもんだぜ」
ベアトラップの罠を弄っているノーデンの呟きに「ああ、そういえばコイツはこの辺の出身だったっけ」などとアリサは思い出す。
この周辺の町の細工屋の次男だか三男だか……いや、四男だっただろうか。
覚えてはいないが、とにかく家を継ぐ目もなく冒険者になったんだと話していたのを覚えている。
そんな始まり方ではあっても、実家に愛がないわけでもないだろう。
実家の近く……という程近くはないが、ともかくこんな「本格派」の盗賊団が潜んでいたとあっては、気が気ではないはずだ。
「うし、無効化完了。ざまあみろってんだ」
ニヤリとした顔を浮かべるノーデンにアリサは溜息をつきながら、「早く進もう」と声をかける。
「罠の解除に熱心なのはいいけどさ。あんまり時間かけてると着いた時に全部終わってたってことになりかねないよ?」
「別にいいじゃねえか。盗賊共の首の数で報酬が決まるわけでもなけりゃ、俺たちゃ
「信頼の話でしょうが。サボってた寄生虫野郎だって噂されるのは御免だよ?」
「そりゃいいな。こんな騎士様の尻拭きを二度と押し付けられなくて済むってもんだ」
アリサが軽く小突くと、ノーデンは「冗談だよ」と言って笑う。
「罠がどんどん高価になってきてやがる。すぐ其処だぜ」
「……ん」
そう、踏んだ者の足をギザギザの牙のような鉄具で捕らえるベアトラップの罠は……しかも保存の魔法のかかったものは、かなり高価だ。
そんなものを無尽蔵に仕掛けられるはずもなく、設置場所は自然と本拠地の近くに絞られているはずだ。
ならば、この先は。
「……ヘッ、やっぱりだ。見ろよ、要塞化してやがる」
そう囁くノーデンの視線の先にあるのは、木々を切り倒して作ったのであろう壁。
この場所からは見えないが、おそらくは何処かに見張り台付きの門もあるはずだ。
「特に戦闘音が聞こえないってことは、もう終わったか……」
「一番乗りか、だな。ああやだね、どっちもロクでもねえや」
軽口を叩くノーデンはひとしきり嫌がって見せた後に「どうするよ」とアリサに問いかけてくる。
この場で他の仲間が攻撃をかけるまで待っていてもいいが……もし「終わっていた」場合は、最悪置いてきぼりをくらう可能性もある。
更に最悪の可能性としては、盗賊の斥候に見つかり先制攻撃をくらうのが一番まずい。
最悪の役立たずとして冒険者ギルドの噂になるのだけは、なんとか避けたいところだ。
「よし、決まった。一撃かまして突っ込もう」
「マジかよ」
「マジだよ」
そう告げると同時に、アリサは手の平に魔力を集めていく。
そう、この程度であれば……長ったらしい詠唱なんか、必要ない。
「
立ち上がると同時にアリサの投げた炎の弾が木の壁に衝突し、爆音とともに破片を辺りへと撒き散らす。
同時に広がる怒声や混乱の音は、僅かな時間もかけずにアリサが
当然だ。あんな爆音の音源を探すことなど、子供でも出来る。
「居たぞ! 冒険者共だ!」
「お前等は回り込め!」
「タダで済むと思うんじゃねえぞ!」
「あー、はいはい」
今時英雄譚に出てくる悪役でも言わないような台詞を叫びながら迫ってくる盗賊達を半目で見ながら、アリサは掌に魔力を込める。
「
「ガアアアアアアッ!?」
アリサの放った、爆発するかのような豪風に盗賊達の何人かが文字通りに吹き飛ぶ。
殺してこそいないが、吹き飛ばされ身体を強く打ち付けた盗賊達は唸って動けなくなってしまう。
「き、気を付けろ! 魔法士だ……! おい、早く呼んで来い!」
「おいおい、魔法士いるみたいだぜ? どーすんのよ。つーか近くに居るの俺達だけ?」
「どうもこうもないよ。腹括りなよ、ノーデン!」
「うっげえ……マジかよお」
言いながらもノーデンは取り出したナイフを素早く投げる。
投擲用に作られたそれらは盗賊達の手に突き刺さり、痛みで武器を取り落とした者を狙いノーデンは素早く短剣でトドメを刺していく。
「生かしとくのは、そこに倒れてる連中だけでいいな!?」
「偉そうなのがいたら一応生かしといて!」
「努力はするよ! 俺が死なない範囲でな!」
言いながら、アリサとノーデンは盗賊のアジトの中へと突入していく。
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