帰ってきたイリスと夜中の出来事4
「ともかく、今日はこのくらいですわね。あまり想像で語っても仕方ありませんわ」
「まあ、そうだな」
パン、と手を叩いて議論の終了を宣言したエリーゼにカナメも頷き、考え込んでしまったイリスも僅かに頷く。
「あ、そういえばエリーゼ。明日の事なんだけど……」
「ええ、明日彼等が来るのですわよね? 延期ということで構いませんわ」
「そっか……ごめん、こんなドタキャンみたいなことになって」
「ドタキャン、というのが何方の事かは存じませんけど。気にすることはありませんわ。仲間の一大事を救ったカナメ様の事を素晴らしく思いますもの」
「そ、そっか。そう言ってもらえると嬉しいよ」
「はい。ではお休みなさいませ」
そう言って微笑むとエリーゼは階段を昇っていき……隅に控えていたハインツの姿がすっと消えていく。
相変わらず忍者みたいな人だ……と見ていたカナメは、背後からかけられたイリスの声に振り向く。
「どうしました?」
「いえ、その。今回はカナメさんにもご迷惑をおかけしたなあ……と思いまして」
「え? いえ、そんな! 俺の為に色々動いてくれていたってダルキンさんにも聞いてましたし。ねえ、ダルキンさ……ってアレ? いない!」
いつの間にかカウンターから姿を消していたダルキンもハインツに負けず劣らず忍者のようだが、気付けばルウネも居なくなっている。
「カナメさんを守る騎士であると誓った私が逆に守っていただくとは、実に本末転倒で情けない限りです」
「え、いえ。そんな! イリスさんにはたくさん助けてもらってます!」
「だといいのですが。けれど、今夜助けられたのは私。ならば今度は、私が必ずこの恩を返しましょう」
今すぐではなくとも、必ず。そう宣言するイリスにカナメは困ったような顔をして「仲間じゃないですか。普通の事ですよ」と答える。
「……そうですね。何処にいるかも分からない仲間の為に街中を
「え、いえ。それは……あ、あはは」
「けれど、
まさかそのアリサをイメージして使っているしヴィルデラルトの居る場所に行った時には盛大に失敗したとも言えず、カナメは「えーと……あはは」と言って誤魔化す。
「ああ、なるほど。アリサさんをイメージしたんですね。確かにそれは有効な手段です」
「えっ」
心の中を読まれたかと驚いたカナメに、イリスは苦笑する。
「そんな顔しなくても、心なんか読めませんよ。魔法の制御力はイメージ力ですから、弟子が師匠の魔法をイメージすることもよくあるんです。そうすると、魔法の性質も自然と似通ったものになりますし想像した発動をしやすいです。つまりは、そういうことなんでしょう?」
「え、ええ……まあ」
カナメの
それはもう、隠しても仕方がない。
「アリサみたいに自由自在に、とはいかないんですけどね……」
「あれは熟練の域ですから。何故他の魔法を使わないのか私には良く分からないんですが……人のこだわりに口を出すのもどうかと思いますしね」
「あ」
そういえば、ミーズ防衛戦の時……アリサがアレを言っていた時にはすでにイリスは壁の下に行ってしまっていたのだとカナメは思い出す。
「アリサは「まともな魔法はほとんど使えない」って言ってましたけど」
「え?」
カナメの言葉に、イリスは驚いた顔をして……すぐにその表情が真剣なものに変わる。
「……それは、確かですか?」
「え? あ、はい。ミーズ防衛戦の時に、そう言ってて……」
「……」
カナメの返答にイリスは「そうですか」と答え、黙り込んでしまう。
その様子にカナメは不安にかられ「イリスさん?」と声をかけ……イリスはそれに反応したかのようにカナメに視線を向ける。
「……アリサさんと一番付き合いが長いのはカナメさんですよね?」
「そこまで長いって言う程じゃないですけど……まあ、一応」
「アリサさんが
「杖みたいなの……
「それは含みません」
「なら、ない……です、ね」
「そうですか」
イリスは腕を組み、指でトントンと自分の腕を叩き……やがて、真剣な表情でカナメへと顔を向ける。
「アリサさんが自分でそれを公言しているということは、恐らくは隠す事ではないと思っているのでしょう」
「え? それってどういう」
「しかしカナメさんが未だそれについて詳しく知らないということを鑑みると、私から話していいのかは躊躇われます」
恐らくエリーゼは「カナメはすでにアリサから聞かされている」とでも思っていたのだろう。
しかしカナメの反応からすると間違いなく聞いてはいない。
恐らくアリサのことだから、カナメを心配させまいと思っているのだろうが……しかし、これは知っておいた方が良い事だ。
アリサが話さないのであれば、イリスから話すしかない。
「……アリサさんは、後天的な魔力放出障害の可能性があります」
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