帰ってきたイリスと夜中の出来事2
「目的って……イリスさんを殺すのが目的だったんじゃ?」
「それはそうなのですけど、大切なのは「殺した先にある何を見据えていたのか」ということです」
そう、大切なのはそこだ。全ての物事には理由があり、暗殺にも理由がある。
イリスを殺す事で何処かの誰かに何かの利益があり、それ故に暗殺は実行されている。
その「利益」が何であるかを推測することが、犯人に繋がる手立てとなるのだ。
「最初に考えるべきは個人的な恨みですけれど……
「そうなのか?」
カナメの問いかけに、エリーゼは「あれは対人間の魔法ですもの」と言って頷く。
そもそも
しかし、この魔法の元を辿ればダンジョンから発見された魔法であり
対処法としては魔力や気配、息遣いなどを読むことだが……匂いや音に敏感な獣や、鋭いモンスターなどは騙せない事が早々に分かっている。
ヴーンを騙せる程度の魔法では役に立つとはいえず、「見ている分には便利そうだったのに」を体現する魔法な扱いになってしまっている為習得する冒険者はほとんどいない、のだが。
実は人間相手であれば役に立つとあって、犯罪に利用される事例も後をたたない。
今では使用を禁止する危険な魔法である「禁呪」の認定を受けてはいるが、モグリの魔法屋などで習得する犯罪者も多い。
当然、
故に、そんなものを人数分揃えているとなるとただ事ではない。
犯罪を目的とした集団、という可能性も考えなければならくなるのである。
「犯罪集団、か。となるとイリスさんじゃなくて「レクスオール神殿の人」が目的だったとか?」
「可能性はありますわね。レクスオール神殿の神官騎士の「緑の神官服」は有名ですもの」
「……ですが、彼等は私が今日非武装であることを知っていました」
「それが何か?」
首を傾げるエリーゼに、イリスは少しの無言の後に口を開く。
「レクスオール神殿の神官騎士が武装しているか否かは、実はとても判断しづらいのです」
「あー……」
言われてみると、確かにそうだとカナメも頷く。
たとえばレクスオール神殿で会った神官はメイスをぶら下げていたが、イリスにはそれは無い。
目立つものといえば盾くらいのものであり、それも武器というよりは防具に見える。
しかし実際には盾と……神官服の下、具体的には肩につけたモノは
故に、非武装であるか否かなど見た目では中々判断がつかないのだ。
「彼等は私が素手だと断言しました。つまり、見た目では分かりにくい
「一定の範囲って……」
「神殿関係者。自分の仕える神ではない神殿を回る時に非武装であるのが最大の礼儀であるということを知っているような……そういう相手です」
神殿関係者と聞いて、カナメの頭の中には副神官長が浮かんで……しかし、すぐにそれを振り払う。
まさか……いくらなんでも、それはないだろう。
そう考えて、しかし振り払いきれずにカナメは恐る恐るそれを口にする。
「えっと……あの副神官長っていう可能性は」
「タカロ副神官長ですか。現状で彼が私を狙う理由はあまりない気がしますが……」
「現状、ということは将来的にはあるんですの?」
エリーゼの疑問に、イリスは少し考えた後に「直接はありませんが、場合によっては」と答える。
「そもそも単純に将来の進路という点のみで考えた場合、神官と神官騎士は大きく異なるんです」
たとえば、他神殿では神官騎士とは神官の中でも特殊な位置にある。
神官でありながら騎士であり、言ってみれば神に仕える騎士だ。
祈りだけではなく武をも神に捧げているが、指揮系統としては一応「神殿の指揮下」とされている。
しかし実際には神殿騎士長は神官長と同等の権限とされており、どちらが上とか下とか見做せるようなものではない。
そしてアルハザール神殿やレクスオール神殿では、少しばかり事情が違う。
戦いの神であるアルハザールの神殿では「武を捧げる」のは聖なる事であり、それ故に神官長も副神官長も神官騎士から選出される。
しかし、それだけだと少々問題がある為「神官長補佐」や「副神官長補佐」、そして「祭司長」といった役割を設定し、それらを神官から選出するという伝統がある。
これ等の役職についた神官が武に偏りがちな神官長達の儀式を補佐したり、あるいは代理で行ったりするのだ。
「そして、レクスオール神殿ですが……これはアルハザール神殿とも、少しばかり違っているんです」
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