ルウネとお出かけ4
「なんか、たくさんあるんだな……」
入った喫茶店らしき店は大通りの丁度角にあり、テラス席からは町の風景を圧迫感なく見れるように設計されていた。
まだ時間が昼には早いせいか客も少なく、また見目麗しいメイドナイトであるルウネと一緒に居たことも幸いしたのだろう。テラス席でも一番良いと思われる席に案内されたカナメ達は、店員が持ってきたメニュー表を見ている最中だった。
「えーと……これ、全部パンケーキなんだよな……?」
プレーンのパンケーキに季節のオススメフルーツのパンケーキ……まではいい。
フルーツ別のパンケーキはあるし、何やらベーコンや卵やらをのせたパンケーキや、チーズを乗せたパンケーキまである。
「ジュースもあるですよ」
「あ、そっか。ここからは飲み物なのか……」
メニューを四苦八苦しながらカナメは読むが、なんとか読めていることに安堵する。
しかし、どれがいいのかはサッパリ分からない。
「ルウネはプレーンのにするです」
「え、それでいいのか? もっと色々あるのに」
「なんだかんだで、普通が一番好きです」
「まあ、無難ではあるけど……俺もそうしようかな」
注文してしばらくすると、まずは紅茶に似たお茶が運ばれてくる。
名前はセイルティーというらしいが……香りも似ているので、ひょっとすると同じものかもしれない、などとカナメは考える。
早速一口飲んでみようとして、しかしカナメはルウネの視線に気づきカップを机に置く。
「どうしたんだ?」
「カナメ様の顔、見てたです」
「顔って。そんな見ても面白いものじゃないだろ?」
少なくとも、ルウネと並んだら地味だのなんだのと言われる程度の顔だ。
そんなに面白味のあるものでもないと思うのだが……ルウネの視線はずっとカナメの顔に固定されたままで、それがなんともむず痒い。
「カナメ様は、どちらかといえば連合風、です」
「……アリサも似たような事言ってたな」
「といっても。連合にカナメ様に似た人がたくさんいる、ということではないです」
「ん?」
「連合は、様々な人種が混ざり合ってるです。今ではほとんど居ない普人以外の人種もいる、です。だから「どんな人」が居てもおかしくない、です」
普人。そういえば、その言葉をカナメは何度か聞いている。
モンスターからの人間への呼び名か何かだと思って、深く考えてはこなかったが……。
「普人以外、っていうと」
「戦人、魔人です」
戦人、普人、魔人。人類はおおよそ、この三種に分けられるのだという。
戦人とは、その名のとおり戦う能力に長けた種。
その身体に特徴的な何かを備えており、獣人や竜人などと違う呼び名で称されることもあるという。
「あー……」
言われて、カナメはその姿を何となく思い浮かべる。
この世界に来てからそういう人達に会ったことはなかったが、やはり居るらしい。
「で、魔人は魔法に長けてるです」
種族特徴としては総じて長命であり、色白。
魔法を扱う能力に長ける代わりに、あまり体力は無い者が多いらしい。
小さく空を飛ぶ者が有名で代表格とされるが、しかし身長は他の種族と同じ程度で耳長の者もいるという。
また太古の昔に「妖精」と呼ばれていたこともあり、そのせいか
「それだけ聞くと、凄いたくさん居るように聞こえるけど……なんで少ないんだ?」
「神話の時代に、ほとんど絶えたと聞いてるです」
神話の時代。つまり破壊神ゼルフェクトとの戦いでそうなったのであろうことはカナメにも想像はついた。
ひょっとすると「もう一つの大陸」は彼等の大陸で、その生き残りが細々と暮らしているのかもしれない……とカナメは考えて。
「戦人と魔人は、神々と共に種族をあげて戦った結果、そうなったとされてるです。だから、彼等は自分達が「珍しい」ことを誇りに思ってる、です」
「うっ」
憐れむな、という言外の忠告であることに気付いてカナメは反省する。うっかりそういう態度を出してしまえば無知だけではなく、彼等への侮辱にも繋がってしまうのは間違いない。
「……あれ。でもそれなら、普人は?」
普人はあちこちに居るし、ほとんどがそうであるようにカナメには見える。
実際、普人ではない人になどカナメはまだ会っていない。
ここだけがそうなのか、それとも全ての地域でそうなのか。
カナメの疑問に、ルウネはポツリと呟くように答える。
「……諸説、あるです」
一説には、普人は特徴がない代わりに増える能力に長けていたという説。
一説には、普人で最大の国がたまたま被害を受けずに生き残ったせいだとする説。
そして、一説には。
「普人は戦うことを恐れ、神々の元に参集したのは少なかった……という説も、あるです」
「……」
「本当はどうであるか、どこも教えてはいないです。でも事実がどうであろうと、過去は過去。記憶の隅に、留めておくだけの話、です」
「そう、だな」
けれど、そうだとすると。
きっと戦人も魔人も、普人の事をよく思ってはいないだろう。
それとも、そういう過去を乗り越えて今を誇りを持って生きているのだろうか。
カナメには、分からない。論じる資格があるのかすらも分からない。
同じ空の下で生まれてすらいない、カナメには。
「パンケーキ、おまたせしましたー!」
「ん、きたですね」
「おいしそうだな」
運ばれてくるふわふわのパンケーキを前に、カナメは気持ちを切り替える。
溶けるバターと、分厚いパンケーキ。
その味はどこか懐かしくて。カナメは、ほんの少し寂しさに似た何かを感じたような……そんな気が、した。
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