ルウネとお出かけ2

 ドットーレ旅装店を出た二人が次に向かうのは、武具店だ。

 

「そういえば、ダンジョン前にも武器屋並んでたけど……あそこじゃダメなのか?」


 確かエルが「売れるものを売っている」と言っていたな……と思い出しながらカナメが言うと、ルウネはチラリと隣のカナメに視線を向ける。


「ダメではないです、けど。大仰なものが多い、です」

「大仰? でっかいってことか?」

「むしろ小さいものの方が多い、です」


 それは単純にダンジョンの中では大物は取り回しにくいから小さいものの方が好まれ売れるというだけの話だ。

 外で活躍する冒険者は攻撃力を求める為大きい武器が売れるが、ダンジョンではそれとは逆だからだ。

 しかし、ルウネの言いたい事はそういうことではない。


「無駄に装飾つけたもの、とっても多いです」

「装飾……って、宝石とかだよな」

「彫刻もです」


 たとえば剣であれば、柄に大きな宝石をつけたりドラゴンの紋様を彫りこんで金で装飾してみたり。

 刀身以外が金銀宝石でギラギラに飾ったような剣は流石に少ないが、所謂「持っているとカッコいい」とか「センスがいい」と思われるような物が非常に多い。

 杖の場合も同様で、魔法石が大きかったり意味ありげな紋様が刻んであったり。

 斧やら槍やら、棍棒の類までその調子である。

 

「えーと……なんでそんなことに?」

「何か成し遂げた時に、絵になる武器を持ってたほうがカッコいいから、です」


 これは出かける前にアリサ達と話していた事と根本は同じだ。

 つまり、「カッコいい、あるいはセンスの良い装備をしていると噂になりやすい」のだ。

 アイツは出来る奴なんじゃないかと思われるし、実際に「やった」時には一割増くらいでよく思われやすい。

 上手くいけば吟遊詩人が詩にするかもしれないし、それで二つ名でもついた日には有名冒険者への道が確定する。

 しかし、ボロボロの装備では実に絵にならない。「実力はあるんだけどな……」などと言われてしまっては、浮き上がる目もないというものだ。


「あー……エルがなんでああいう恰好なのか、分かった気がした……」

「アレはまだ地味な方です。ちゃんと実用性、考えてるですから」


 如何にも英雄っぽいエルの恰好にもちゃんと意味があったらしいと理解して、カナメは今更ながらに感心する。

 まあ、マネしたいとは思わないのだが。実際、アリサも派手な格好はしていない。

 エリーゼは少しばかり……いや、相当に派手だが、まあ王族なのだから仕方ないだろう。


「カナメ様は、そういうのは好みじゃない、と思ったですけど」

「ああ、うん。まあ……カッコいいとは思うけど自分で着ようとは思わないかなあ」

「だったら、武具店です」


 そういう装飾のついたものではない、実用性重視のものを売るのが一般的な武具店だ。

 勿論ダンジョン前で売っているようなものもあるにはあるのだが、それは儀礼用として別のカテゴリで売っているらしい。


「で、此処がそうです」


 そう言ってルウネが示したのは「マルドゥーク武具店」と書かれた店だ。

 ショーウィンドウにはピカピカに磨かれた銀色の全身鎧が一式飾ってあり、赤い宝石をあしらった派手な剣を抱えているのが印象的だ。


「値段は……げっ、金貨三十枚!?」

「何か魔法かかってるですね。たぶん魔力銀製です、から。値段だけは妥当と思うです」

「はは……どんな人が買うんだろうなあ」


 言いながらカナメとルウネが店の入り口を潜ると、如何にも気難しそうな大柄の男が「いらっしゃい」と告げてくる。


「メイドナイト連れたあ珍しいな。どんなものをお求めだい?」


 やっぱりそこから入るのかと思いつつも、カナメは「弓が欲しいんです」と告げる。

 すると店員……いや、主人であろう男は「弓か」と言うと難しそうな顔をする。


「それは、あー……冒険で使うってことでいいんだよな」

「え? あ、はい」

「そうか。いや、弓を欲しがる客は最近珍しいからな」

「そうなんですか?」

「おう。誰の影響か知らねえが、最近の連中は「弓を買うなら狩猟用品の店だ」とか言いやがる。おかげで置いても売れやしねえ」


 なるほど、確かに弓を使うというと狩人のイメージが浮かぶ。

 おそらくは、そういう方向性の有名人か何かがいるのだろうな……などとカナメが考えていると、店の主人が一本の弓を持ってくる。


「こいつはどうだ。エギルオークの木で作っているが、頑丈に出来てる」


 エギルオークなる木がどんな木かカナメには全く想像がつかないが、渡された弓をカナメは軽く引いてみる。

 その様子を見ていた店の主人は「ふむ」と頷くと、カナメから弓を受け取る。


「なんか違うな。もっと別のモノのほうがいいかもしれねえ……こいつはどうだ」


 渡された弓は、今度は金属製で、しかも何やら正面にリング状の円盤にも似た何かがついている。


「えーと、これって……?」

「おう。弓と盾の合体を目指してみたんだけどな。どうだ?」

「えーと……普通のお願いします」

「んだよ、つまんねえなあ……」


 渋々といった感じで「盾付きの弓」を店の奥へと片す店の主人を見ながら、カナメは大丈夫かなあ……とコッソリ呟く。

 結果として選んだものはルウネに渡されたのと同じ金属補強付きの弓だったのだが……店の主人から面白くないと渋られつつも、なんとか購入して店を出たのである。

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