ルウネとお出かけ

 さて、実際に街に出てみると……アリサの言うことが一言一句間違っていないことをカナメは思い知らされる。


「メイドナイトだ……」

「すげえ、メイドナイトだ」

「隣の男、地味だな……あれなら俺のほうが」


 何やら酷いことも言われているが、とにかくフル装備のルウネがそれだけ目立つということなのだろう。

 太くゆるく編んだ紫の髪と、眠そうな紫色の瞳。

 濃紫のメイド服と、胸元を覆う銀色の胸部鎧。

 口調はいつも通りのルウネでありながら、そこには凛とした雰囲気が漂っている。

 それはおそらくは歩き方であったり、ちょっとした所作であったりするのだろう。

 しかし、ただそれだけの事で道行く人のほとんどがルウネに注目してしまう。

 カナメのことなど、本当に誰も見てはいなかった。


「ここが冒険者向けの服、扱ってるです」

「あ、じゃあ入ろうか」


 ルウネに言われてカナメは「ドットーレ旅装店」と書かれた店に入る。

 中に入ってみると、其処にはカナメの着ているような厚手の服だけではなくローブやマント、用途の良くわからない装飾品まで様々なものが並べられているのが見えた。


「いらっしゃいませー! ってうわっ、メイドナイト!?」

「こちらの方に合う服を探してる、です」

「こちらの……?」


 対応に出てきた女性店員はそう言われて初めてルウネが一人ではないことに気付いたようで、視線を移動させてカナメに気づき驚いたように後ずさる。


「う、うわあっ!? お客様、いつからそこに!」

「え、最初から居たけど」


 そんなに存在感がないだろうか、とカナメは少しばかりヘコむが……まあ、今日に限ってはいいことだろうと前向きに考え直す。

 しかし女性店員の方は今の失態をもう無かったことにしているようで、満面の営業スマイルをその顔に浮かべる。


「服をお探しとの事でしたが、どのようなタイプをお求めでしょう? 当店では通常のものから戦闘に特化した高級品まで多数取り揃えております!」

「え……そんなに種類があるの?」

「はい! 軽くご説明いたしますね!」


 店員によると、旅装には複数種類あるという。

 まずは一般的な厚手の布の服。通称「旅人服」とも呼ばれていて、魔法のかかっていないものなら最安値の品となる。

 しかし一般的には「清浄」の魔法のかかった少し高い品を買っていくのが普通だ。

 カナメが持っているのもコレで、古着として売る時にも清浄の魔法がかかっていれば、かかっていないものよりも大分高値で買ってもらえる資産価値のあるものだ。


 次に、厚手のローブ。これは主に魔法士で、旅の間でも魔法士としての装いを崩したくないという要望から多く作られるようになったのだという。

 この聖国では旅に出る神官が購入することも多く、色々とバリエーションも多い。


 そして、仕込み服。これは旅人服と似てはいるが、もう少し装飾が多いのが特徴だ。

 裏地や服のあちこちに何かを仕込む為のものがあるのが特徴で、旅の商人や罠士などの細かい道具をすぐに取り出せる場所に置いておきたい職業の冒険者にも人気だ。

 モノによっては鉄板などを仕込んだものもあり、簡易的な鎧としても使われている。


「逆に最近は、強い糸を使って破れにくくした薄手の服も人気なんですよ。少し肌寒いですから厚手のマントが必須になりますけど、馬車で旅するようなオシャレを楽しむ余裕のある方には人気です。そもそもの始まりですが、王族や貴族の方々が気品を保つ為に開発させたというのが……」

「欲しいのは旅人服、です。最低条件が、清浄の魔法です」

「はい、承りました!」


 もう充分と判断したルウネの注文で店員は即座に解説を中止して「こちらです」と案内をし始める。


「……なんか、旅装っていうのも奥が深いんだな」

「色々言っても、結局一番人気は旅人服です」

「それは否定できませんねえ」


 店員もアハハと言って笑うが……まあつまり、長年使用されてきた常識と実績の賜物というやつなのだろう。

 そうして案内された場所に並んでいたものは、しかしどれも代わり映えのしないデザインの服ばかりだ。


「色も……なんか似てるな」

「どうしても旅人服は目立ちにくい事を優先されるお客様が多いですから。職人もそういう方向性で作ってしまうんですよね」

「ふーん。まあ、サイズが合ってればいいかな」

「どれどれ、ではお測りしますね」


 そう言うと、店員は目盛りのついた紐のようなものを取り出してカナメの首回りや胴体を測り始める。


「ふむふむ。えーと、サイズで言いますとこのあたりになりますね」


 そう言って店員が差し出してきた服は、以前アリサと店で買ったものとほぼ同じ大きさだ。


「清浄の魔法は勿論かかってますし、耐久性も保証付きです。しかもお値段はお安めで、一着で銀貨十枚になります」

「ん……どうかな、ルウネ」

「安いかはともかく、妥当な値段と思うです」


 ルウネの返答にカナメは頷くと、笑顔を女性店員へと向ける。


「えーと。二着買ったら銀貨十五枚になったりしませんかね?」

「エグく値切ってきますねー。銀貨十九枚なら泣く思いでお値引きできますけど」

「……銀貨十六」

「十九です」

「銀貨十六枚と銅貨で五十」

「……銀貨十八枚と銅貨九十なら考えます」


 笑顔で睨み合うカナメと店員を、ルウネは楽しそうに見守る。

 そして結局のところ、二着を銀貨十七枚と銅貨五十二枚で購入して二人は店を後にするのだった。

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