広間にて4
「なん、だ……!? 弓は壊したはず……っ!」
両腕ごと上半身を巨大なリングで拘束されたドガールは、それでも下半身を動かしカナメへと振り返り……黄金の弓を構えるその姿に絶句する。
「新しい弓だと……何処から……いや、その弓。なんだそれは、私の中の何かがざわめく……!」
「タフィー、離れてて。できればエルと一緒に遠くに」
「は、はい!」
タフィーは倒れたままのエルを引きずるようにして何とか離れていき……その間にも、カナメとドガールは睨み合う。
カナメにとっては思い出深いお守りのようになっていたナイフだが……ここで使うのに躊躇いはなかった。
「これでもう、剣は使えないな」
「それがどうした! お前にも弓は使わせん!」
「使うさ」
ドガールの叫びと同時に
ドガール自身も腕が使えずとも足は使える。
カナメを蹴り砕いてやるつもりで迫るが……カナメは彼等のその眼前で「
イメージするのは、アリサ。その跳ぶ姿をイメージしたカナメは高く、遠くへと跳ぶ。
自然と、その姿はドガール達の眼前から掻き消えて。
「
そうして、落下しながら
放たれた
自分を微塵に砕かんという光の群れの中で
「うおおおおおおお!」
剣に魔力を込め、襲い来る光の群れを迎撃する。流石のドガールとて光に勝てるほど速くは動けない。
動けないが……致命傷を防ぐ程度は出来る。
気を抜けば致命傷になる数秒を耐えきったドガールはカナメの着地するであろう地点へと目測で飛び出し……しかし、それ故に気付かない。
「
「……!」
それは、意識からも記憶からも消し去っていた剣士……エル。
大剣を構え突っ込んでくるエルの力は魔法で強化され、防ぐ為に突き出した……脆くなっていたドガールの片腕を容易く砕く。
「この雑魚が……!」
放った蹴りは大剣に防がれ、その勢いのままにエルは吹っ飛んでいく。
……そして、その一瞬が命取り。
自分を貫く黒い光にドガールが気付いた時には、もう遅い。
「ぬ、あ」
荒れ狂う。ドガールの中で、狂おしいまでに凶暴で、しかし何処か崇拝にも似た愛おしさを感じる力が荒れ狂う。
それはドガールを動かす魔力を壊し、身体を壊して。あらゆる全てをバラバラにしていく。
死。そのイメージが明確になったその瞬間、ドガールの身体から黒い光が溢れ出る。
「……そうか、ようやく分かった。お前、は」
その言葉が終わる前に、ドガールの身体はパーツごとにバラバラになって床に転がり落ちる。
そして、その身体は消えていき……後に残されたのは盾と、宝箱と……カナメ達だけだ。
「か、勝った、んですか……?」
「ここから復活してくるってのじゃなけりゃ、ね」
息を吐きながら腕をおろすカナメの姿に、タフィーは力が抜けたように座り込み……起き上がってきたエルが、よろよろとしながらも宝箱の元へと歩いてくる。
「ちぇっ、あの野郎……どうせなら剣置いてきゃいいもんを」
どう見ても値打ち物の剣が消えてしまったのを見てエルはそう呟くが、盾は残っているし……宝箱も此処にある。
この階には本来発生しえない宝箱の中身が手に入るというなら、これだけ苦労した価値はあるだろう。
「どれどれっと……お、生意気にカギかかってやがる。罠、は……たぶんねえな。あったらお手上げだけどよ」
宝箱を膝に置いてガチャガチャと鍵穴を弄り始めたエルを余所に、カナメは杖を拾ってきてタフィーへと渡す。
「あ、ありがとうございます」
「お礼を言うのは俺のほうだよ」
「へ!? い、いえ。私は何も……」
ぶんぶんと首を横に振って否定するタフィーに、カナメは「そんなことない」と答える。
「タフィーが気を引いてくれなかったら、逆転はできなかった。矢を撃つ前にやられてたよ」
「い、いえいえ! 私が何をしなくてもカナメ、さ……」
言いかけて、タフィーは急に黙り込みカナメをジロジロと見始める。
全身を嘗め回すようなその視線に、カナメは思わず後ずさりながら「な、なに?」と問いかける。
タフィーはそれを追うように立ち上がると、カナメの周りをぐるぐると回りながら突いてみたり撫でてみたりという事を始める。
「た、タフィー? ちょっと」
「あ、すみません。あれだけやられてたのに傷がないなあ、と……」
「ああ。アイツが言ってた
「え、いえ。ていうか、知ってて使ってるんじゃないですか?」
「いや、知らない」
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