広間にて3
壁に叩きつけられたカナメは、痛む身体を起き上がらせる。
斬られた、と思ったが服以外は斬られていない。
一体どういう理屈なのかは分からないが、これならまだ戦える。
ドガールが何かを言っていたのが聞こえたが、ふらつく頭には届かず……カナメは立ち上がる。
「
「不可思議だ」
カナメが矢を作り出すより前に、ドガールがカナメの眼前に到達し壁へと盾で殴り飛ばす。
「がっ……!?」
「不可解だ。斬り傷がない」
ずり落ちるカナメの胸倉を掴み軽く放り投げると、ドガールは落ちてきたカナメに強烈な蹴りを入れる。
声も出ないままに床に転がるカナメを見下ろし、ドガールは呟く。
「そして、これだけやっても怪我一つない。防具の加護ではない、となると」
起き上がろうとするカナメを踏みつけ、ドガールは剣を逆手に構える。
「……確かめてみるか」
言うと同時に、剣をカナメへと振り下ろす。何度も、何度も、何度も……執拗に、形を留めぬ何かにするかの如き連続の突き。
その恐ろしい光景に、タフィーの詠唱は止まり……エルも気絶してしまったか起き上がっては来ない。
断続的に響く叩きつける音にタフィーはぎゅっと目を瞑り。しかし、違和感に気付く。
刺す音ではなく、叩く音。
それが何かと理解するその前に、カナメの声が響く。
「
「ぐおおおおおっ!?」
吹き荒れる暴風と、重たい金属質の何かが壁に叩きつけられる音。
タフィーが目を開いたそこには、荒い息を吐きながらも立ち上がるカナメの姿があった。
「……馬鹿な。お前、今……弦を引かずに発動させたな!?」
「ああ、させたさ。それがどうした」
カナメの矢は、矢に見えて矢ではない。その真実は魔力を凝縮させたカナメの魔法であり、「矢という形をとる魔法」なのだ。
だからこそ、弦を引き絞らずとも撃つ事ができる。
無論想定した正しい効果も威力もそれでは発揮されないが、暴風を巻き起こす
「
「させるかあ!」
ドガールの投げた盾がカナメの弓を砕きながらカナメごと弾き飛ばす。
床に転がるカナメはすぐ立ち上がるが、そこに接近してきていたドガールの蹴りが入る。
「カナメさん!」
「つくづく規格外の人間だ。そして確信したぞ。お前……
「なんの話だ……!」
「無意識で使っているのか? だとするとその脅威、見逃すわけにはいかん」
そこからアレンジした魔法もあるにはあるが、基本的にはこの二つだ。
故に、
だが、その正体が何であるにせよ……ドガールの意識は、完全にタフィーから外れている。
「……」
床に落ちた剣を……エルから預かったまま、一度も使っていない剣をタフィーは握る。
高威力の魔法はカナメを巻き込むから使えない。
こんな普通の剣では、あのドガールの防御を貫けない。
だが、タフィーにはある。この剣では一度が限界だが、通じるかもしれない手段がある。
エルが気絶し、カナメが弓を失った今……戦えるのはタフィーしか居ないのだ。
「ここに言葉在り。我、これを持ちて火を熾さん。始まりの炎よ、我が灯す火に炎の名を分け与えたまえ」
剣に、魔力が伝わっていく。元々金属は魔力の伝導率でいえば木よりも高い。その分、瞬間的であり馴染みにくく壊れやすくもあるというのが難点であり……専用の加工を施していないものだと、一回で壊れてしまうこともある。
だから、こんな普通の剣でこの魔法に耐えられるのは一回だけ。
そして、チャンスも一回だけ。ドガールの意識がカナメに向いている、今だけだ。
タフィーは剣を構え、走る。
「我は此処に偉大なる始まりを以て醜悪なる終わりを告げよう。汝の名を憤怒と呼び変え、我が敵を焼き尽くそう。願わくば、その不敬を赦したまえ」
剣が、鳴る。これ以上は耐えられぬと。早く解き放てと叫ぶ。
……だが、そうはしない。
「
「む……!?」
剣が、赤く染まる。焼けた鉄のような、燃えるマグマのような、瞳を焼く太陽のような……そんな鮮烈な「赤」を持たされた剣を、タフィーは振りかぶる。
いかに防御しようと、絶対に無傷ではすまない。
必殺の剣をタフィーが振り下ろすその瞬間、タフィーの眼前に
「な、んで……」
必殺の剣は
そしてその向こうには、無傷のドガール。
「今のは、少しばかり危なかった。返礼に、そのくだらん詠唱をする頭を命ごと砕いてやろう」
言いながら、ドガールは呆然とするタフィーに拳を向けて。
「……
背中に命中したカナメの矢から湧き出るようにして生まれた金属のリングに、その身体を拘束された。
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