広間にて2
「
カナメの
しかし、そんなカナメでもエルと至近距離で打ち合う
必中の
「ハハハッ、どうしたどうした! 攻めねば勝てんぞ!?」
「うっ……るせえ!」
大剣を盾のように構えながら
おそらくは未確認であろう強力なモンスターを眼前に、エルは素早く計算を働かせる。
逃げる選択肢は、無い。無理だ。逃げ切れる確証はないし、万が一他の強力なモンスターと遭遇すれば確実な死が待っている。
戦うにしても、勝てるか否か。エルの手札には確実といえるものはない。
タフィーの魔法はどうか。二つ名を持っているという事は何か「武器」はあるのだろうが、「信頼」するには少々不安か。
カナメの矢はどうか。こちらは、恐らくいける。少なくとも
……なら、時間さえ稼げれば。
「
「……ほう?」
苦し紛れの時間稼ぎも、しかし効果は覿面であったようで
騎士道とは程遠い性格をしている
ともかく、息を整えるチャンスにエルはバックステップで距離をとると素早く呼吸を繰り返し……グッと自分を指し示す。
「エルだ。そのうち英雄になる男だ、覚えとけ」
「なるほど、名前か。ならば私は今からドガールと名乗るとしようか」
「……しようか、って。なんか思い入れでもあんのかい」
「無いな。強いて言えば、ここよりも下の階層で会った連中の名前がそうであったらしい」
「そうかい……!」
恐らくは、それも死んでいるのだろう。それに今更何かを感じる事は無いが、エルは冷や汗をかき始める。
エルとて弱いつもりは無い。むしろ強いつもりだ。だが、目の前にいる程の相手と相対した経験はない。
その上位種であろう
先程の剣戟は、単純にドガールが遊んでいた程度に過ぎない事はエルが一番理解できている。
今この瞬間に斬りにこないことが、ドガールが本気でやっていない何よりの証拠だ。
ならば、それは何故か。
それは恐らく、先程の「ひょっとしたら生き残れるかもしれないという望みを抱いて死ね」という台詞に起因しているに違いない。
「よし、名乗り合いは終わったな?」
「待てよ、慌てんなよ。あんた、宝箱の中身の回収とやらはいいのかよ。アンタが此処で俺達を殺すのは、ルール無用になっちまうんじゃねえの?」
「そうだな」
言いながら、ドガールは剣を構える。
「だがまあ、問題なかろう。この宝箱は私が然るべき階層へと持っていく。それよりも、未だに希望を瞳より失わぬお前達を絶望と死に浸す事の方が我が神の意に添う」
ぞわり、と。全身を這い上るような悪寒が包む。
殺気、殺意、剣気。如何に表現したものかは分からないが、とにかく「ヤバい」という考えしか浮かばなくなるような、そんな威圧。
「……ヘッ、ここからは本気だってか?」
「ああ」
返答と同時に、ドガールはエルの眼前へと移動している。
「ここからは、お前達の希望を少しずつ削っていってやろう」
バグン、と。何処か間の抜けた音とともにエルの身体が空中へと吹き飛ぶ。
それを為したのは、ドガールの盾。武器として使われた盾はエルを殴り飛ばし……遅れて響いたエルの大剣が転がる音が響く頃には、ドガールはすでにカナメの眼前へと迫っている。
「……っ!」
カナメの放った
「軽いな。犠牲を恐れたか、惰弱が」
ドガールの剣が、振るわれる。
魔力も纏わないままに剣圧のみで風を切り裂いて、カナメを両断すべく横薙ぎに。
「カナメさ……!」
タフィーの叫びが届くより前に、ドガールの剣はカナメに到達している。
真っ二つになったカナメの惨状を想像し、タフィーは息を呑み。
その視線の先で……カナメの身体が、横へと吹き飛ばされる。
「がっ……!」
弓を離さぬままに、広間の端の壁へと叩き付けられたカナメにタフィーは「死んでいない」と気づきホッとする。
見えなかったが、恐らくは剣の腹で殴ったのだろう。
すぐには殺しはしないというメッセージなのか……しかし、そうなると次は自分の番だと気づきタフィーは膝を震わせながらも杖を構える。
今なら多少の威力の魔法でも味方を巻き込まない。間に合うかどうかは分からないが、せめて一矢。
覚悟の元に詠唱を始めるタフィーにしかし、ドガールは反応しない。
呆然としたように、立ち尽くし……やがてゆっくりと、カナメへ首を向ける。
「……なんだ、今のは。何故斬れていない。お前……一体、何をした?」
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