下級灰色巨人との戦い
「へっ、バーカ! デカブツ! ざまあみろ!」
言いながらエルは走り、追おうとした
「エル、早く!」
「分かってる……っと!」
カナメの背後へと走り抜けたエルは少女を下ろし、ニッと笑う。
「ちょっと待っててくれよ。すぐにアレぶっ倒すからよ」
「あ、あああ、あの」
「大丈夫。任せろ」
そう言ってエルは少女の頭に手を置き……振り返り大剣を構える。
「カナメ、一応聞くけどジェリーの時のすげえ矢は使えるか!?」
「たぶんいけるけど、アレに効くのかは分からない!」
「よし、じゃあ効かないって前提でいく! とりあえず今の足止め連続でやってくれ!」
言いながらエルは走り出し、その背中にカナメは叫ぶ。
「おい、足止めって……どうすんだよ!」
「任せとけ、俺は女の子の前では最強だ!」
「……ああ、もう!
言いたい事はあるが、もうエルは突っ込んでしまっている。
カナメは
「当たるかバーカ!」
だが、カナメの
ふらつく棍棒はエルとは離れた床を叩くだけに終わり、それでも凄まじい轟音を立てカナメの背後に座り込んだままの少女に小さな悲鳴をあげさせる。
そうしている間に、エルは
しかし突然顔面を襲った火球に視界を塞がれ、火傷の熱さにもがく。
「……そっか。ああいう矢か。
そう、今の矢はカナメの放った
文字通り火球を発生させる矢であったらしいソレは
「……
全身を魔力が覆い、エルの身体能力が強化される。効果としてはそれ程大きいわけではない、が……エルの詠唱は続く。
「
腕を更に魔力が包み、腕の力が強化される。先程唱えた
「グッ……グオオオオオ!」
「遅ぇええええ!
大剣を頭の上に水平に構え、エルは跳ぶ。
下から上へ。その単純な動きはしかし
そして、
「おおおらああああああああ!!」
「ギアアアアアアアアアアア!?」
下から上へ。天井まで届かんというエルの大ジャンプ斬りは
放すまいとしていた棍棒はそれでも離さず、しかし
深く……とても深く切り裂かれた傷はどう見ても致命傷であり、体力自慢の巨人といえど立ち上がる事などできない。
「名付けて飛翔斬……ってな」
言いながらエルは振り向き、カナメに親指を一本立ててみせる。
「ナイスフォローだったぜ、カナメ」
「いや……凄い必殺技だったよ、エル」
「だっろお!? ハハッ、ざまあみろってんだ
そう言ってガッツポーズをとると、エルは少女へも笑みを向け歩み寄る。
少女の眼前でしゃがみ、エルは少女と同じ視線で笑いかける。
「さ、もう安心だぜ。
呆けたような顔でエルを見ていた少女はその言葉にポロポロと涙を流し始めると、唸るような声で泣き始める。
「う、うう……うううっ……ううー!」
「ああ、うん。怖かったよな。もう大丈夫だ」
少女を軽く抱きしめるようにしてエルが背中をポンポンと叩いていると……少女の泣き声は、号泣へと変わっていく。
「みんな……皆死んじゃった! 死んじゃったの! 私も、私もあんな風に……!」
「ならねえよ。俺達が倒した。お前は生きてるだろ」
「でも、でも! 私だけ、私だけ……ひぐっ」
「いいんだ。生きててもいいんだ。生きてなきゃ、次はねえ。俺達はそういう商売なんだ」
エルは諭すように、安心させるように少女の背中を叩いて。
少女はエルにしがみついたまま、小さな声で泣き続ける。
その姿を、カナメは静かに見つめ……少し、目を逸らす。
自分なら、こうは出来なかった。
きっと、オロオロするだけだったかもしれない。
その事実がカナメを僅かに苛み……しかし、目指すべき理想形を、また一つ固めた。
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