ダンジョンを進もう2
「……はあー」
「んだよ、カナメ」
「いや、エルって凄かったんだな」
カナメが本気で感心した顔でそう言うと、エルは少し照れたように笑う。
「あー……いや、それ程でもあるけどよ。ま、こんなもんは修練でどうにかなる範疇だろ」
「それが凄いと思うんだけどな」
「うーるせえ。男に褒められたって嬉しくねーよ」
言いながら、エルは剣を品定めするようにジロジロと眺めまわす。
「……普通の長剣だな、何の魔力も感じねえ。ま、多少の値はつくか」
そう言いながらエルは自分の荷物袋から大きめの布を取り出し、グルグルと剣を包み込む。
鞘もないのだし、抜き身で持って歩くわけにもいかないのだから当然の処置ではあるが……その用意の良さにカナメは頷き頭の中のノートにメモする。
ああしたものをさり気なく出来るのも、きっと冒険者の技能であろうと考え……自分もサッとできる男になろうと考えているからだ。
エルは長剣を荷物袋に入れて……流石に入りきらず出てしまっているが、それを背負って「よし」と頷く。
「さて、どっちに進むかな……っと」
「左はどうだ?」
「お、なんか根拠あんのか、カナメ」
振り向くエルに、カナメは頷きエルの横に並ぶ。
「さっき、聖騎士の人が通っただろ。あれって、左の方に奥に進むルートがあるからじゃないかなって思ったんだ」
地図を持った聖騎士が巡回をしているなら、恐らく無駄なルートは通らないはずだ。
この無駄なルートというのはこの場合、ほとんど人が通らないルートを指すが……巡回をする以上、そうした「冒険者が通らないかもしれない」ルートよりも「確実に多くの冒険者が通る」ルートを通った方が効率的だ。
何しろ全ての道を回っていては騎士の巡回も長くなる一方であるだろうし、警備ではなく見回りという意味の巡回であれば人が多い……つまり冒険者同士のトラブルが発生しやすい道を通るのが合理的というものだ。
ならば、騎士の来た方向が正解の道である可能性は高い。
「……なるほどな、もっともな理屈だぜ。そんなら左に行ってみっか」
頷くエルは左へと進み、カナメもその後を追う。そうして進んだ先にはまた分岐があるが、今度はエルが勘で選び……その次はカナメが勘で選ぶ。
それが正解かは分からないが、最初から答えが分かっていてはつまらないとエルは笑う。
「つーかよ。あの露店の中に地図屋あったの、お前気付いてたか?」
「え、地図屋!?」
驚きながらも、カナメは何処か納得してしまう。
この聖国のダンジョンは聖国が管理し、聖騎士が巡回している場所だ。
毎日中の構造が変わるというのであればともかく、先程の聖騎士の様子を見るにそれはない。
となると、地図が売られているのも当たり前だ。
「それなら買えば……っていや、「答えが分かってたらつまらない」んだったか」
「おう。まあ、これもお前とのお試しだから出来る事だけどな」
そう言って、エルはカラカラと笑う。
本格的に仲間と組み始めれば、安全と時間重視で個人のこだわりがどうのと言っていられはしない。
エルがカナメと今回組んだのも、そうしたこだわりを持って探索しても許されるからであるし……それが出来る最後の機会であるからだ。
「さてっと……どうせなら三階層まで行きたいけど、そこまで行く前に帰る事になるかもなあ」
「一瞬で地上まで帰れる機能とかあればいいんだけどな」
「あったら逆に怖えよ。どういう魔法だそれ」
カナメの台詞を冗談と受け取ったエルが笑った、その時。何処かから、悲鳴のような甲高い声が聞こえてくる。
「エル……!」
「ああ、行くぜ!」
頷きあうと、カナメとエルは走り出す。
ダンジョンの壁で声が反響してはいるが、続けて響いてくる悲鳴でなんとなくの方角は分かる。
走って、走って。とにかく全速力で二人は走る。
「……たぶん右!」
「おう!」
確実ではない。声の聞こえてくる方向から推測し……あとは勘だ。
それでも、この道こそが正解だと信じて走って。
「みぃつけたあ!」
天井まで届かんという灰色の巨体の大男と、その足元で座り込み震えている少女を発見する。
杖を抱いたまま震える少女はエルの大声に振り向き、しかし腰が抜けているのか立てないまま……涙を流し叫ぶ。
「助けて! お願い、たすけ……」
「任せろ! うおらああああああ!」
走り出すエルの雄叫びに灰色の巨体の大男……
そのままエルに向かって走り出そうとして……しかし、突然自分の顔面を襲った強風に押されよろける。
「グウ、アアアアアアア!」
だが、それでも棍棒を取り落とす事はしない。ジェリーをも吹き飛ばした
当然、
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