エルの帰還3
「てめコラ、カナメ! お前そんな羨ましいパーティ作っといて不満でもあんのかおい!」
「無いよ! エルこそなんだよ、伝説がどーのって言ってたのは何処行ったんだよ!」
「伝説にはヒロインが必要だろバーカ!」
「ヒロインとかエルこそ英雄譚の読み過ぎだろバーカ!」
「うっせバーカ!」
頭をゴンゴンとぶつけ合う二人にアリサは肩を竦め、エリーゼは止めるべきかと手を伸ばしてはやめるのを繰り返す。
ハインツは動かないし、ダルキンは何事も無かったかのようにグラスを棚に片している。
「大体お前、男ばっかりのパーティとかあれだぞ!? 何処行っても男祭りだし女の子の目がねえからって基本猥談だしあらゆるもんが大雑把だしよお! トドメに臭えんだよ、匂い気にしないからよお!」
「清浄の魔法はどうしたんだよ!?」
「お前は身体に清浄の魔法かかってんのかよ!?」
「服じゃなくて体かよ! 洗えよ!」
「言って聞くんなら苦労しねえんだよ!」
ガン、と一際鈍い音を立てた後にエルはよろけ、「いってえ……」と言いながら頭をさする。
「お前頭硬すぎだろ。あんだけやったらゴツい奴でも引くってのに。ハゲるんじゃねえの、近いうちによ」
「いや、普通に痛いから。まったく……」
言いながらもカナメも頭をさするが、瞬間は確かに「痛い」と感じるもののダメージが残っているわけではない。
まさかこの世界に来て頭部が強化されたわけではないだろうが、アリサが以前言っていた「魔力の扱いが上手くなってきた」影響だろうとなんとなく考える。
「でも、だとするとエルは女の子とだけ組むのか?」
「んー、それも現実的じゃねえんだよなあ」
難しい顔で腕を組むエルに、カナメは何が問題なのだろうと疑問符を浮かべる。
カナメが知っているだけでも、強い女の子はたくさんいる。
戦士でいえばアリサに、帝国騎士のダリア。
魔法士ならエリーゼ。
神官騎士のイリスもそうだし、ルウネだって相当に強いはずだ。
この世界では「魔力」という身体をサポートできる力のおかげで、見た目と強さには然程の因果関係はない。
勿論身体が大きく筋肉があれば強いだろうが、それを超える魔力で身体を強化している人がいれば、そんな身体の差はアッサリ逆転されるだろうとカナメは思っている。
いつだったか、アリサが
だというのに、何が現実的ではないとエルは言うのか。
そんなカナメの疑問がそのまま顔に出ていたのだろう、エルはカナメを呆れた顔で見る。
「あのな、カナメ。お前はそんな性格の良い子に囲まれてるから分からねえだろうけどよ。女の子ってのは基本的には男より怖ぇんだぞ?」
「え?」
意味が分からないという表情を返すカナメに、エルはゆっくりと首を左右に振る。
「いいか。女の子ってのはな、ズボラな俺ら男より繊細なんだよ」
「まあ、そりゃあ」
「しかも女の子一杯のパーティを現実に組むとだな。確実に男は弾かれるか奴隷さながらの扱いになる」
分かってんのかお前、と言うエルにカナメは頬を軽く掻く。
流石にエルの被害妄想が入っているのではないかと思うのだが……つい今まで女の子一杯のパーティを組みたいと言っていた男の台詞とは思えない。
「だったら男女バランスがいいパーティにすれば」
「いいと思うだろお? そうじゃねえんだよ。男の中に格差が生まれるんだよ! 知ってるか。基本的に女の子の方が強ぇんだぞ!」
選ばれなかった男は悲惨だぞ……と言うエルにカナメは「実体験かな……」と思いつつも口には出さない。
「……だったらどうするんだよ?」
「だから言ってんだろ。性格の良い女の子と夢いっぱいのパーティを組みたい」
「そっか……頑張れ」
そんなに性格の悪い女の子なんて早々居ないだろうにとカナメは思うのだが、カナメとてこの世界の女の子と全員話して回ったわけではないし、なんとなくエルの言う事も理解はできる。
この世界にも確かに悪意はある。今のところカナメに向けられたそれは男のものばかりだが、女の子が皆綺麗でふわふわとしたものだという幻想を持っているわけでもない。
「ていうか、私等と組むっていう選択肢はないわけだ?」
「え? ねえな」
興味半分といった感じで聞くアリサに、エルはあっさりとそう答える。
「だってお前等、此処拠点に活動する気はないんだろ?」
「無いね」
「だろ? だからだよ」
やはりアッサリと答えたアリサにエルは苦笑し、「俺はしばらく聖国を拠点にするつもりだからよ」と続ける。
「そっか……じゃあしょうがないよな」
「んだよカナメ。お前、俺と組みたかったのかよ?」
言われて、カナメは考える。
エルと組んでの冒険。それは……なんというか。
「……面白いかも、とは思う」
「マジか」
エルは大笑いしながらカナメの肩をバシバシと叩き、カナメはそれにムッとした顔を返す。
「なんだよ、もう」
「ハハ、悪ィ悪ィ。いや、俺も面白そうだとは思うぜ?」
エルはそう言うと、人差し指でカナメを指し……そのまま指を自分へと向ける。
「だったらよ。俺とお前でダンジョン、ちょっと行ってみるか?」
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