レクスオール神殿2
「は!? 偽者!?」
いきなり偽者呼ばわりされたカナメが抗議の声をあげると同時に、カナメ達の周囲を複数の神官達が囲む。
それは先ほどまでタカロ副神官長の背後に居た神官達であり、その手には腰に吊るしてあったメイスが握られている。
物々しくも物騒なその態度にアリサもエルも思わず剣に手をかけ、ハインツがエリーゼを守る位置に陣取る。
「タカロ副神官長! 一体どういうおつもりですか!?」
アリサ達に武器を抜かないように手で制しつつ、イリスはそう抗議の声をあげる。
如何に暴力的な噂が多いレクスオール神殿とはいえ、武器を抜くのは最終手段に近い。
刃のないメイスといえど構えるというのはその最終手段そのものであり、基本的には「やってはいけない」部類に入る。
それを初手でやるというのはただ事ではないし、いきなり偽者呼ばわりも論外だ。
だが、その禁じ手をやってなおタカロ副神官長の冷静な態度は崩れない。
「どうもこうもない。神官騎士イリス、君の報告書は読ませてもらった。その上で言おう。その弓は偽物だ。勘違いならまだいいが、そこまで似ている弓を持っている以上は意図された偽物であり偽者だ。そんなモノをこの神殿内に入れる事は許さん」
ここまで聞けば、バカでも理解できる。
つまりカナメの弓を「レクスオールの弓」の偽物だと言っており、カナメが誰かの策略でそれを持たされた男だと言っているのだ。
周囲に居た他の神官達もそれを理解したのだろう、ヒソヒソと囁き合う声が聞こえてくる。
「なんということを言うのですか! あの報告書を読んで出てくるのが、そんな判断なのですか!?」
「読んだからこそだ。レクスオールの弓を持ち、その力を振るうレクスオールの如き者。そんな神話の如き方の実物がコレとなれば、誰でも同じ判断を下すだろう」
コレ呼ばわりされたカナメはムッとするが、下手に口出しするのが悪手であるということぐらいは分かる。
実際口も足も出るアリサですら黙っている現状が、カナメに状況を冷静に考えさせる事を可能にしていた。
「その現場の調査の為に貴方の代わりに神官長が出向いておられるのでしょう? それを待たずして偽者呼ばわりとは!」
「現場も証言も幾らでも偽装できる。それらは所詮「過去」だ。現実に此処にあるものを見れば真実は明らかだ」
「ならばお判りでしょう! この弓が全てを物語っています!」
言いながらイリスはカナメの背負った弓を指し示すが、それをタカロ副神官長は鼻で笑う。
「そうだ。その弓が全てを物語る。確かに似ている。似ているが、その弓から放たれる魔力は普通の魔力の品レベルだ。こんなモノが本物であるはずがないことくらい分かりそうなものだが……な」
言いながら、タカロ副神官長はカナメに冷たい侮蔑の目を向けてくる。
「更に言えば、そんな形だけは似ている偽物がそれらしき話と共に出現したというのが実に胡散臭い。ディオス神殿での事件を忘れたわけでもあるまい」
「くっ……」
ディオス神殿の事件、というのは聖国の神官の間では有名な話だ。
簡単に言えば魔法の神ディオスの神殿に偽物の「ディオスの杖」を持った「ディオスから啓示を受けた」と名乗る者が現れたのだが……それがディオス神殿内で実権を握ろうとした一部の神官達による仕込みだったのだ。
売り込みの為の事件やエピソードまで偽造していた為に発覚に時間がかかったのだが、そうなった一因としては、やはり「杖が世間的にそうとしている象徴ではない、伝えられる本物の姿」に酷似していたことがあった。
つまり、それと同じだとタカロ副神官長は言っているのだ。
「しかし! あの事件は「魔法」という偽装しやすいものであったからこそ、のはず! 我等がレクスオールの力がそんなまやかしで誤魔化せるものとお思いですか!」
イリスの主張に野次馬と化していた神官達が「おお」とか「それはその通りだ」などと声を漏らすが、副神官長の表情は全く変わらない。
「ああ、誤魔化せる。レクスオールの矢自体は、似た物で良いのならば我等神官にも使える者はいる。魔法で似たような現象を起こすこともできる。それは神官騎士である君自身が良く知っているはずだ」
「それは……!」
「そして。報告された他の事象……特に、空飛ぶ
別の可能性。それが何かと、ざわつく野次馬の神官達もシンと黙り込む。
「王国の権力者と、レクスオール神殿の神官の一部の者達の結託による巧妙な捏造。それによる我等を通した聖国への影響力行使。あり得ない話ではない。その場合神官騎士イリス、君がその手先ということになるがね」
「な……っ!」
「カナメさん!」
思わず前へ踏み出しかけるカナメをイリスが腕を伸ばし遮り、再びざわつき始める周囲をそのままにイリスはタカロを睨み付ける。
「……今のお言葉。取り消すも誤魔化すも今のうちですが」
「どちらも必要とは思わんな。そちらこそ、引き返すなら今の内だ。似た弓を持っている事自体は罪でもなんでもないし「レクスオールの如き者」と称されようと名乗ろうと一向に構わん。我々は認めんし、この神殿には入れないというだけの話だからな」
睨みあうイリスとタカロに触発されるようにメイスを握る神官達が一歩距離を詰め……奥歯を噛みしめる音とと共に、イリスは身を翻す。
「行きましょうカナメさん、皆さん。少なくとも今は話になりません」
そう、ここでこれ以上揉めても何一ついいことはない。
それを理解しているが故に、誰もが何も言わずイリスの言葉に従う。
納得できない気持ちも、叫びたい言葉も全て抑えて……カナメ達は、神殿の門を出て行った。
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