隊商の護衛6
隊商が出発すると、中衛班……カナメ達のやることは極端に少なくなる。
というのも、馬での警戒は前衛班と後衛班が請け負い中衛班にあまり仕事を回さないからだ。
中衛班のやることといえば、この中衛班の乗る馬車の操縦くらいなものであり……今はダルキンとハインツがその仕事中である。
この護衛用の馬車は中での寝起きも想定しているせいか、それともケチっているのか内装は何もない。
その為非常に広いのだが、前衛班と中衛班の交代要員兼連絡役を一人ずつ置いた馬車の中はそれなりに会話も弾んでいた。
……というよりも、エルが頑張っていた。
「へえ、じゃあエルはずっとソロなんだ」
「ダンジョンに全然潜ってないしなあ。それなりにやる分にはソロで充分だし、パーティに入ると中々……な」
「ああ、分かるわ。うちのパーティも冒険者って割には手堅い仕事ばっかりで。その割には「冒険団だ」って妙な気合い入れてるし。ありゃ家名狙いね」
エルにそう言って頷くのは、オフィラル所属の剣士の女だ。
「ああ、そっか。「ラル」だもんな」
「そうそう。「ラル」だからね!」
エルと女の笑いながらの言葉に馬車の中にも自然と笑いが広がるが、カナメにはイマイチ笑い所が分からず曖昧な笑みを浮かべ……そこにアリサが耳打ちをする。
「……詳しい説明は省くけど、人気なんだよ。最後に「ラル」ってつくのがね」
今回の冒険団……つまりパーティにもオフィラルとアシュラルがあるが、紐解けば昔からある大人気の冒険譚に「フレイラル」というパーティがあり、それにあやかっているのだ。
その冒険譚のパーティも物語の中で「フレイラル」という家名を授かっているが……これにあやかって「ラル」とつけるのが今でも人気なのだ。
「ふーん……」
「なあなあ、カナメのパーティって、そういやさ。なんで名前つけてないんだ?」
「あ、気になるわそれ」
「私もー!」
オフィラルの剣士とローゼンの魔法士の女性陣二人がエルに賛同するように声をあげるが、カナメとしては「そんな風習知らなかったから」と答えるのもなんだか具合が悪い。
アリサに投げようにも、一応リーダーはカナメということになっているらしいのでそれも妙に見えるだろう。
カナメは「えーと……」と呟きながら、理由を口にする。
「なんとなく、かな。そりゃ必要になったら考えるだろうけど、今はそこまで……って感じだな」
「ほおー、なんかクールな考え方してるな」
「今時はそういう事言う人はあんまり居ないから、新鮮ね」
「……そうなのか?」
「私は神官騎士ですから冒険者事情は詳しくないですが、確かに珍しいかもですね」
イリスの回答にカナメは「そうなのか……」と呟くが、考えてみればアリサが今までそれに言及していないのだ。ということは、やはり優先度としては低いのだろうと思い直す。
「ま、そういうこともあるさ。それより、エルはなんでこの仕事を? ダンジョン行かなくていいのか?」
あまり突っ込まれてもボロが出るのでカナメが話題を変えると、エルは待ってましたとばかりに膝立ちになる。
「よく聞いてくれた! それはだな、俺の輝かしい人生設計の第一歩の為……聖国で頼りになる仲間を見つける為さ!」
「え、王国内じゃダメなのか? ていうかソロで充分とかさっき言って……」
「そこだよ! カナメ、お前さっきダンジョンとか言ったけどさ、実はダンジョン潜ったことないだろ!」
エルの指摘にカナメはギクリとしつつもポーカーフェイスを貫き「俺の事は別にいいだろ」と返す。
そして実際エルもどうでも良かったらしく、大仰に嘆くようなポーズをとる。
「いいか。ダンジョンは欲望渦巻く地なんだよ。お宝探しに人生かけてる連中が死ぬほど集まってるんだからな」
「まあ、それは分かるよ。貴重なものも出るんだしな」
高く売って金持ちに……という一獲千金の夢はカナメにも理解できる。
だが、カナメの態度はエルにとっては不合格だったようで「分かってないな!」とエルは叫ぶ。
「いいか、人生かけてるんだよ連中は。何もないなら死ぬって覚悟でやってやがる。だからモンスターも狩って素材集めるんだしな」
ダンジョンの中は売店があるわけでもなく、それなりの日数をかけて潜るには物資がいる。
その物資はお金を払って手に入れるものであるし、それに見合う対価が見つからなければ赤字だ。
そして赤字が続けば、パーティ内の財政破綻はそのままパーティ崩壊にも繋がる。
「ダンジョン破産なんて言葉があるくらいだしね。実際ダンジョン探索はリスキーだよ」
「そう、それだ! アリサさんいい事言った! 分かるかカナメ、ダンジョン探索ってのはそういうもんなんだ。荒むもんなんだよ!」
まあ、確かに。「何かを見つけねば終われない」というプレッシャーは精神的にも大変だろう。
だがやはり、王国内で仲間を見つけない理由にはなっていない。
なっていないのだが……次のエルの言葉は、まさにその「理由」であった。
「聖国は違う。ダンジョン探索に補助金を出し、その結果ガツガツしてる奴が少ねえ。少なくとも、後ろからバッサリやられる心配だけは……しなくて済むんだよ」
エルは、ひょっとしたら過去に何かあったのかもしれない。
それは分からない。分からないが……不可思議な重さが、そこにはあった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます