ダリアからの
カナメがダリアの近くへ行くと、その気配に反応したかダリアは顔をあげて笑う。
「あら、どうしたのカナメ。まさか手伝いにでも来てくれたの?」
「あー、うん。そうしようかなって」
「そう、嬉しいわ。なら探すものは単純よ。私達の装備……剣に鎧一式、盾。そういうものだから」
といっても、この骨の山の中からでは相当に難しいだろうが……ダリアはその視線を竜鱗騎士達に向ける。
「アレ使って骨どかしてくれれば、それだけで済むと思うのよね。うちの連中以外はまともな装備してなかったし」
「そっか。なら……」
カナメの意思に応えるように竜鱗騎士達は一糸乱れぬ動きで駆け寄り、骨を手当たり次第にどかして積み上げ始める。
人の骨もモンスターの骨も動物の骨も全部ごちゃ混ぜであるが、粉々になっている骨の中から人の骨だけ選別する手段がない以上は仕方がない。
いや、正確には竜巨人と化したクラートテルランを構成していた骨もあるのだが、それを含めれば正確な分別には気の遠くなるような時間がかかるはずだ。
「ほんとは埋葬できればいいんだろうけど……」
「無理なものは仕方ないわ。割り切るのが……おっ、ちょっとストップ!」
カナメが竜鱗騎士達を停止させると、ダリアは骨の山の中から壊れた鎧の破片を持ち上げる。
それはすでに鎧とは言えない惨状だが、ダリアはルドガーを手招きで呼び寄せると鎧の欠片を袋に詰め込み、その近くから盾の破片を見つけるとこれも袋に詰め込む。
「なんていうか……そんなの役に立つのか?」
「私達には役に立たないわね。でも一応これって、帝国の技術の粋だから持って帰らないわけにはいかないのよ」
「破片からでも帝国の技術を再現できるかもしれませんからね。王国には渡せないということですよ」
そう説明するルドガーに「余計な事言うんじゃないわよ」とダリアがその頭を叩く。
「でもまあ、そういうことね。技術……特に軍事技術は最上位の秘匿情報よ。王国も帝国も、互いに狙いあう関係なのよ」
「……仲悪いのか?」
一通り回収が終わったのか、ダリアは腰を上げるが……カナメを手招きして呼び寄せる。
カナメがそれに素直に応え近づけば、ダリアは談笑を続けるクシェル達の方へと視線を送りカナメの耳に口を寄せる。
「……ハッキリ言えば、最悪よ。表面上は友好を結んでるけど、正直に言って大根役者の芝居より酷いわよ。テーブルの上では握手、テーブルの下では蹴り合いってやつね」
「え」
「ま、隠す事でもないんだけど。カナメ、ちょっとこの辺の骨どかして。剣が埋まってんのよ」
「あ、ああ」
返事と同時に竜鱗騎士達が動き骨をどかし始めるが、カナメは「なんでそんなに悪いんだ?」とダリアに問いかける。
後でアリサなりエリーゼなりに聞けばいいのかもしれないが、帝国のダリアの意見を先に聞いておきたかったのだ。
「なんでって。国と国が喧嘩する理由なんて、土地と利権しかないでしょ」
そういえば、ダリア達も元々ダンジョンを手に入れる為に来ていたのだということをカナメは思い出す。
まあ、それでも確か「交換」とかいう形ではあったはずだが……。
「聖国が睨んでるから戦争にならないだけで、暴虐王が色々やらかした頃とか連合分裂直後とかは結構ヤバかったのよ?」
「やらかし……えっと。暴虐王って確か英雄王トゥーロのことじゃ」
「王国じゃそう呼ぶかもしれないけど。帝国じゃアレは暴虐王よ。王国所属時代に帝国の領土を切り取って成り上がったのはアイツだもの」
思わず「うげっ」という声がカナメから出てしまう。何故そうなったは知らないが、それは恨まれても仕方がない。
「で、でもさ。それはトゥーロのやったことであって王国は」
「連合分裂後に待ち構えたように連合に攻め込んで帝国の領土だった部分を掠め取ったのは王国よ。あいつ等、自分の領土を奪い返すより先に帝国のモノを盗りやがったのよ。なんでか分かる?」
「さ、さあ……」
「すぐに聖国が出張ってくるって分かってたからよ。元々王国だった部分は、後からどうにでも出来るかもしれない。でも元々帝国だった部分はそうはいかない。だから一番美味しい所をとにかく奪って、支配を安定化させたの。「此処はすでに王国である」ってね」
「うわあ」
それは酷い。というか、今何気に聞き流してはいけない部分を聞いた気がしてカナメは「えーと」と呟く。
「俺、歴史は詳しくないんだけど……連合の成り立ちって、ひょっとして」
「暴虐王が「解放都市カタン」を中心に反王国派と反帝国派を纏めて作った国よ。詳しく知りたかったら勉強しなさい」
「あ、ああ」
「カナメくらい強かったら帝国でならすぐ成り上がれ……あ、ほらルドガー! そこ、剣!」
ルドガーが剣をヒョイと回収すると、竜鱗騎士達はその動きを止め整列する。
「便利よねー、あれ」
「材料集めは結構大変そうだけど……なあ」
「ああ、なんかドラゴンの鱗使ってたっけ。高いのよね、あれ」
笑うダリアにつられ、カナメも笑い……しかし、ダリアはその笑い声を唐突に止める。
「あんな実戦的な
「……それって」
「単なる助言。でも真剣に考えなさい。王国貴族ってのは陰湿だし、使えるものは何でも使ってくるわよ」
カナメはちょっとその辺危ないのよね……とダリアは呟いて。
そこで、カナメに正面から向き直る。
「念のためもう一回聞いとくけど、私達と帝国に来る気はある? 今回の戦いだって王国では評価されないだろうけど、帝国でなら評価される。悪い案じゃないと思うわ?」
「……ごめん。それはやっぱり、今は考えられない」
「そう……なら仕方ないわね」
ダリアはそう呟き、申し訳なさそうな顔をしているカナメの頬を突く。
「別にそんな顔しなくていいわよ。でも、気が変わったらいつでも帝国に来ていいわよ」
「ん、ああ」
「じゃあ、とりあえず町に戻りましょうよ。私達は帝国行きの馬車探さないといけないし」
笑うダリアにカナメは頷き、アリサ達にも声をかけるのだった。
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