そういえば
「……って、あれ? そういえばエリーゼはなんで来てないんだ?」
冷静になってみれば、エリーゼの性格からすると置いて行かれる事を良しとするとは思えない。
そう気付いたカナメがアリサを見ると、アリサはあからさまにサッと視線を背ける。
「え……っと? ひょっとして置いてきたとか?」
「私がやったんじゃないし。そこの赤いのが悪い」
「赤いのって」
赤の竜鱗騎士の事を言っているのだろうが……そこでカナメは再び首を傾げる。
「いや、ちょっと待って。なんでソレが此処にいるんだ?」
当然だが、カナメはこの場所に来るように命令などしていない。
つまり赤の竜鱗騎士が此処にいるのはおかしいのだが……今のアリサの言いようからすると、赤の竜鱗騎士がアリサ達を連れてきたかのように聞こえてしまう。
「……イリスさん。説明お願いします」
「ハイロジア王女の話を一通り聞いた後に、アリサさんが「カナメの所に連れてけ」って庭に立ってたアレを蹴り始めまして。そんなので動くはずないんですが、どういうわけか起動しちゃいました」
「どういうわけかって」
「で、アリサさんを抱えて飛ぶもんですから、その足に掴まって私も来たわけです」
イリスの説明に、カナメは「えーと」と呟いて額に手をあてる。
アリサが赤の竜鱗騎士を動かしてやってきた……ということで合っているのだろう。
「んーと、なんていうか。動いてよかったねでいいのかな」
「良くないですよ?」
しかし、イリスはそう言って首を横に振って否定する。
まあ、確かに他人が勝手に動かせてしまうというのは宜しくないだろうが……とカナメが考えていると、イリスは全く予想外の言葉を口にする。
「私、カナメさんとアリサさんがそういう関係だったって初めて聞いたんですが」
「へ?」
「てっきり……ああ、いえ。こほん。別にお付き合いする予定の方とか、そういう人がいるものと」
「いや、え、そういう関係って何?」
そういう関係という単語を聞いてカナメが想像できるのは一つしかないのだが、当然カナメとアリサはそういう関係ではない。
だからカナメは「まさか」と思いつつも聞き返し、イリスはカナメの顔をじっと見ながら「それ」を言葉にする。
「遠回しに言うなら、恋人関係のことですが」
「いや、まさか。そういう関係じゃないし……そもそも全然遠回しじゃないよね」
恋人だと動くというのもロマンチックな起動理由だが、なんとなく「そうではない」というのもカナメは想像がついている。
しかし、それは絶対にないと断言できるから……カナメは何かを考えているイリスが余計な事を言う前に先回りする。
「……ほんとに何もないからね?」
「そうですか。ちなみにカナメさん基準ではどの辺りまでが「何もない」扱いに」
「俺基準とかじゃなくて、ないから。何も」
やはり「そういう」事かとカナメは顔を赤くしながら否定する。
あまり人前でするような話題でもないように思うのだが、この世界では違うのだろうか?
まあ、確かにアリサは綺麗だ。
全体としてのプロポーションもそうだし、顔立ちもそうだ。
男としては少しばかり認めがたいものはあるのだが、アリサのサッパリとした性格にも憧れに似た感情がある。
そうなりたいとも思うし、そんなアリサの近くにいるのは安心できる。
一緒に居て気持ちがいい相手、というのが一番近い表現な気もするのだが……「そういう関係になりたいのか」と聞かれたならば、即答はできない。
そういう関係になったところがまず想像し辛いし、そうなったら今の関係が壊れてしまうのではないかという恐怖もあるのかもしれない。
あるいは、もっと別の何かがあるのかもしれないが……そんなカナメの思考がまとまる前に、イリスは「おかしいですね」と呟く。
「そうなると、本当にどうして動いたんでしょう」
「……そもそも、どうして俺とアリサがそういう関係だとソレが動くんだ?」
「魔力が混ざりますから。生き物の発する魔力には個体差があって、それを判別する機能が
肉体関係と言うと生々しいが、手を繋ぐなどではそうならず……一番多いのはキスなどによる事例であり、それがアリサが先程から視線を逸らし一度も口を挟まない理由であったりする。
そう、アリサには「魔力が混ざる」ような行為には心当たりがあった。
それはあの日のプシェル村でカナメが倒れた時。あの時、アリサは魔力薬の小瓶の中身をカナメに口移しで飲ませた。
少ない魔力薬をアリサとカナメで共有する程度の意味しかなかったが……まあ、確かに結果に至る工程を抜いて考えればキスと言えないこともない。
人命救助であるが故にキスとは断じて違うが、互いの肉体を魔力が混ざるレベルで接触させたか否かと問われれば「否」とは言えない。
竜鱗騎士でなんとかカナメに追いつこうとした時にはそこまで考えていなかったし、そういう学説なんてものがあるとは流石にアリサも知らない。
そもそも、そんな学説にどれ程の信憑性があるというのか。気合で動いたという説だって、捨てきれないではないか。
「そんな合ってるかどうかも分かんない理屈はいいよ。私はカナメの為に動けと言って、ソレはカナメの為に動いた。それでいいじゃない」
「……ん、まあ。その方がお話として綺麗なのは認めますけど」
「じゃあ、それでいいじゃない。そもそも、カナメのソレが普通の
そう言われてしまうと、イリスにもその通りだと思えてきてしまう。
そもそもの作り方からして普通ではないのだ。普通の
「まあ、そうですね。それにカナメさん、真面目っていうか不器用ですし」
「明らかに
「あー、分かる」
いつの間にかクシェルまで混ざってカナメの話になっているが、カナメとしてはそこまで言われる筋合いも無い気がする。
するのだが……言えば怒涛の反撃をされそうで何も言えない。
「カナメさんと対極的っていえばアレですよね。英雄王」
「あれって、最終的に妻が何人居たんだっけ。吟遊詩人によって人数結構違うんだよね」
「聖国でも把握できてませんよ。手あたり次第って感じだったらしいですから」
英雄王トゥーロ……確か本当の名前はタロウだっただろうか。
ひょっとすると同じ世界の同じ国の出身だったかもしれない誰かの所業にカナメは「そうはなるまい」と密かに決心しながら、ダリア達を手伝いに向かった。
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