アリサの一般常識講座3
ルシェル聖国は王国、帝国、連合の丁度真ん中……具体的には大陸のど真ん中に位置する国だ。
いつから存在していたのかは不明だしどの国でも教えてはいない……というよりアリサも興味ないので知らないのだが、とりあえず特殊な国である。
どう特殊なのかというと「国土が狭い」「保有する戦力が少ない」「一般国民の数が異常に少ない」といった点があげられる。
「えーと、それって……つまり?」
「要は一般的な国としてお金を稼ぐ手段が非常に少ないし防衛力も一般的に見れば低いってこと」
それでもルシェル聖国が国として成り立っているのは、聖国が全ての神々の神殿の本殿が集う地であり……そうした神官達が動かす国であるからだろう。
聖国を攻めるという事は神々に牙を剥くも同然であり、「神に認められた」王権の正当性を自ら否定することにもなりかねない行為である。
更に言えば神々に祈りを捧げる民衆からの支持も大きく失う事にも繋がりかねないし聖国が神殿を撤退させれば色々なものが滞る程に「神殿」は人々の生活に寄与している。
「で、まあ……聖国っていうのはずーっと昔から「仲裁者」として機能してるらしいね。何か国同士の揉め事があると聖国が中立の立場として間に立つ、と。そういう国って覚えとけばいいよ」
「あ、そういえば聖戦規定っていうのは何なんだ?」
確か防衛戦の際にイリスがそんな事を言っていたと思い出しカナメはそんな質問を投げかける。
「知らない。どうなの、エリーゼ」
だがアリサは質問をそのままエリーゼに丸投げし、エリーゼはこほんと咳払いをして口を開く。
「聖戦規定というのは、聖国がその武力をもって他国内で一定規模以上の武力行使をする際の宣誓であり条約ですわ。私も詳しくは知りませんが、モンスター被害などがそれにあたることがある……そうですわ」
「だってさ。まあ、それ以上はいいか。聖国はそういう変な国。で、連合だけど……あー……」
アリサはそこで言いよどむように黙ると、「うーん」と唸った後にこう説明する。
「よく分かんないものは大体「連合かな?」って言っとけば「ああ、そうかもな」って笑い話になる所かな」
「何それ」
ジパン国家連合……つまり連合は、元々は「ジパン連合国」という一つの国であった。
といってもそうであった時期は短く具体的には英雄王トゥーロの時代と、その後の少しの期間だけであった。
「まあ、元々トゥーロ王の作った国なんだけどね」
「へえ……」
カナメとしては何やら国名が気になるのだが、とりあえず相槌を打つだけに留める。
「元々は王国だったり帝国だったりした地域なんだけど、色々あったり色々やったりしてジパンという国にトゥーロ王が纏めたわけだね」
「色々って」
「色々は色々だよ。吟遊詩人が酒場で一杯歌ってるよ。本当かどうか知らんけど」
まあ、簡単に言えばとんでもない問題を当時は王ではなかったトゥーロがズバッと解決したりラブロマンスしたり色々乗り越えたりとまあ、そんな感じの大活劇をやったあげくに国を作ったらしい。
その辺りはアリサはどうでもいいので知らないし知っても意味がないと思っている。
「で、纏めたはいいけどトゥーロ王というカリスマが没した後に子供達が「我こそトゥーロを継ぐ者なり」ってんであっという間に中小国家群に分裂したわけだね」
聖国が仲裁した結果、現在の「国家連合」という国の代表者が議会を作り話し合う形に纏まっているが……それでも、国同士の諍いが絶えず小国家同士での分裂。合併、併合、革命……ありとあらゆる紛争の種が転がる状況が今でも続いている。
「ジパン連合国だった頃はトゥーロ王が提案したっていう変なものとか新しいものが溢れる国だったらしいけど、今じゃそれもねえ」
「断絶しちゃったわけだ」
「まあ、また新しいものが出てくるような状況じゃないのは確かかな」
「まあ、そうだろうなあ……」
ともかく連合ってのはそういう場所、と締めるアリサにカナメは頷いて答える。
「なんとなく分かった、ような気はする」
「うん、それでいいよ。知らないよりはうろ覚えの方がそれっぽくもあるしね」
アリサが頷くと、ハインツがタイミングを計ったかのように冷たい飲み物の入ったグラスをカナメとアリサに向けて差し出す。
「お、ありがと。果実ジュース?」
「リンゴジュースです。喋りつかれた喉には丁度よろしいかと」
すでにエリーゼも同じようなグラスを持っており、しかしカナメ達を待っていたのか口はつけていない。
「うん、じゃあちょっと休憩しようか」
「え、休憩って……まだ何かあるのか?」
「あるに決まってるじゃない。知ってて当然の事をカナメが知らないってのもあるだろうし、休憩したらガッツリ詰めていくからね」
「うへえ……」
言いながらカナメはジュースを一口飲み……その横に、エリーゼがすっと近寄ってくる。
「今日明日というわけではありませんが、文字の勉強も始めていきましょうね」
「ああ、文字かあ。まだ書けないもんなあ」
読むことに関しては看板を見つける度に教えてもらうことでなんとなく察することは出来るようになったのだが、それは「読める」とは言わないし書く事も無理だ。
「なんかこう、頭が爆発しそうだよ……」
「ちょっと、やめてよね。魔力多い人がそれ言うと結構洒落になってないから」
「えっ、爆発した例とかあるの?」
思わず聞くカナメにアリサが「あるよ」と答え、心の底から嫌そうな声をカナメがあげたりと……そんな事もありながら、ゆったりとした一日は過ぎていくのだった。
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