出会いの真実

 ビリビリと響いた声にカナメはクラクラし、アリサは素早く耳を塞ぎながらも迷惑そうに振り返る。


「な、ななな、なんで……大体、なんでそんな所にいるんですの!?」

「ああいう方ですから。丁度西の方に行かれていたようですし、今回の件を受けてじっと待っている方でもございません」

「え、どういうことなんだ? そのえーと、なんとかって人と知り合いなのか?」


 疑問符を浮かべるカナメの反応にハインツはちらりとエリーゼを見て……それにエリーゼは気まずそうな顔を浮かべる。


「……お嬢様」

「だ……だって。言おうと思った時に限って邪魔が入りますし。復興作業もひと段落した今夜にでもと思っていたのですけれど」

「えーっと……」


 置いてきぼりになっているカナメの裾をエリーゼがぎゅっと掴み、しかしオロオロとハインツとカナメの顔を見比べている。

 明らかにパニックになっているが、その姿がなんだか珍しくてカナメは思わずエリーゼの頭を撫でてしまう。


「え!? な、なんですのカナメ様! 今のは一体どういう意味が」

「お嬢様、落ち着いてください。私が全て説明いたしますから」

「あ、で、でも」

「カナメ様、申し訳ありませんがお嬢様の口を塞いでください」

「へ? こ、こう?」


 カナメがエリーゼの口を適当に手の平で抑えると、エリーゼは真っ赤になって黙り込むが……それを絶好の隙とばかりにハインツは口を開く。


「アリサ様は薄々お気づきでおられるようですが……我々は、レイシェルト商会などという宝石商ではございません」

「え」

「やっぱり」


 驚きの表情を浮かべエリーゼの口を塞いでいた手を離すカナメとは逆にアリサはそう呟くが、カナメはエリーゼに視線を向け……しかし不安そうに自分の口を塞いでいたカナメの手を掴むエリーゼの姿に何も言えず、再びハインツへと視線を戻す。


「こちらに向かっておられるハイロジア様とはラナン王国第十六王女のこと。そしてお嬢様の本当のお名前はエリーゼ・ラナン・ラズシェルト。このラナン王国の第十七王女であらせられます」

「てことは……エリーゼって……お姫様?」

「……一応、そうですわ」


 ふへー、と変な声をあげるカナメから不安そうに視線を逸らしながらも、エリーゼはカナメの手を離さない。


「あれ。でも、なんでそんなお姫様が旅の宝石商なんて……?」

「はい。それは我が国の事情が深く関わっております」


 この大陸にある国家は大きく分ければ四つ。

 ラナン王国、ラーゼルク帝国、ルシェル聖国、そしてジパン国家連合。

 ジパン国家連合……通称「連合」は正確には中小の国家群だが、とりあえずそれはさておき。

 ルシェル聖国の「人間同士で争うべからず」という仲裁によって国家間の大規模な争いは起こってはいないが、何処も裏では緊張状態にある。

 いつ「いざという時」が起こるかなど誰にも分らず、しかも国家間のバランスを崩しうるものがこの世界には存在する。


「それって……」

魔法装具マギノギアでございます」


 ダンジョンの奥深くから発見される魔法装具マギノギアは、その性能こそ様々だが物によっては凄まじい力を秘めている。

 そうしたものは高値で取引されるし、それを厳しく規制するつもりもない。

 というよりも、規制すると「こんな国では夢が叶わない」とばかりに優秀なダンジョン探索者が国外に流出するからなのだが……かといって扱い方によっては危険な魔法装具マギノギアが国外に流出されても、やはり意味がない。

 そこで王国……というより各国では強力な魔法装具マギノギアの超高価での買い取りを宣言し、その囲い込みに必死なのである。

 だが当然国庫とて無限に金を生み出すわけではない以上、限界はある。

 そこで貴族達がそうした魔法装具マギノギアを買い取り、王家に献上することでそれなりの見返りを得ようとしたり……ということが流行ったりした時代もあった。

 だがそこまで強力な魔法装具マギノギアが簡単に出てくるはずもなく、国庫が空になるような事態もなく現在に至っている。

 

「ですが、それはそれで不安というものです」


 ダンジョン探索者はたくさんいるしダンジョンも各地にあるのに、どうして強力な魔法装具マギノギアが中々出てこないのか。

 もしや、ダンジョン探索者が自分で使ったり貴族がこっそり買い取って隠蔽しているのではないか。

 そうした疑念が数代前の王の中で広がり、ならばどうするかと考えた王は一計を案じた。

 それはすなわち、強力な魔法装具マギノギアを持つ者を自分の子供達と結婚させて魔法装具マギノギアごと王国に取り込むということである。

 それが貴族であれば反乱の原因になりかねない強力な魔法装具マギノギアを奪うことができるし、ダンジョン探索者であればそれを成しえた強力な者を王家に取り込むことになる。

 更に言えば、そうなるという事実を餌にして集まった適当な者を結婚という形ではなく魔法装具マギノギアごと優遇した地位につかせることで王家に取り込まずとも自国の戦力として保有することができる。

 ……まあ、そういう事をやったわけだが……これがとてもよく釣れたらしい。

 結果として今の代に至るまでその風習は続き、その手駒として王子や王女の数もうんざりするほど増えているわけである。


「……てことは」

「はい。カナメ様の弓に目を付けた。それ故に金で買い取れないかと近づいた。これが私共とカナメ様の出会いの真実でございます」

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