準備2
「ダグマ鋼……?」
そういえば、あのクラートテルランもダグマ鋼という言葉を言っていただろうかとカナメは思い出す。
この剣もそれと同じだというのだろうか?
「ちょっとハイン。不必要なところで気配を消すなと言ったはずですわよ」
「申し訳ありません。お楽しみのようでしたので邪魔をしないようにと気を遣っておりました」
「それはいいけど。ダグマ鋼って確か流通量が相当少ない金属だったと思うけど」
「その通りでございます」
ラナン王国では、様々な金属が出回っている。
銅、鉄……金や銀といった価値はともかく広く出回っている「普通の金属」と称されるもの。
そして鋼、ヴェルデ鋼などと呼ばれる特殊な材料を使ったり加工をされた金属の数々。
他にも希少金属とされるものもあるが……ダグマ鋼は、この希少金属と加工金属の両方に入るものだ。
つまり希少であり、かつ特殊な加工をされた金属ということなのだが……。
「ダグマ鋼は「神々の虹」の先で多く作られていたとされる金属です。手に入りにくいのは当然でございます」
神々の虹。その言葉にアリサとエリーゼは緊張したように身を震わせるが、カナメはそんな二人の反応を見てハインツと二人の顔を交互に見る。
今の発言の何処に緊張する要素があるか分からなかったので当然なのだが、ハインツはそんなカナメを見て軽く咳払いをする。
「神々の虹とは、この大陸の東端……連合の支配域に存在する、巨大な橋の事でございます。神々の時代に作られたというものですが、かつてゼルフェクトに滅ぼされた「もう一つの大陸」に繋がっているのです」
今となっては草一本生えぬ呪われた地となっており、何度か派遣された調査隊もろくな成果は持って帰ってきていない。
ダンジョンの発生する気配もなく「此処には何も生まれない」という結論が下されたのが百年以上も前の話になる。
それ以降は神々の虹は神々の時代を想う為の観光資源となっており、「渡る」事こそ厳しく制限されてはいるがそれだけのものだ。
「それは分かったけど……そんな貴重なものを随分揃えてたんだな」
「それだけ今回の侵攻に賭けていたか……あるいは、貴重と思わなかったかですね」
ダグマ鋼の製造技術は、すでに失われているものだ。
あるものを加工することは出来ても、ダグマ鋼を新しく生み出すことはできない。
非常に硬く頑丈であるが故に防具としての需要も高いものだが……「新しく手に入らない」だけに恐ろしく高い。
そんなものを一定の数用意できるとなると、これは尋常ではない。
「……ゼルフェクト神殿の連中が、ダグマ鋼の製造技術を持ってるってこと?」
「分かりません。未確認ですが、ダンジョンの中でダグマ鋼の武器を見つけたという報告もあるそうです。決壊と侵攻の事を考えれば、案外そちらかもしれませんしね」
「うーん……」
アリサは考え込むと、剣を一振り手に取って眺め始める。
「まあ、とりあえずはこれ使って……他の剣を大きめの街に持ち込んで打ち直してもらうのもいいかもなあ」
「それがよろしいかと」
「問題は鞘だけど……まあ、ちょっとバランス悪いくらいはいいか」
それも次の街でだね、と言うアリサにカナメは首を傾げる。
「え? ここで買えばいいんじゃないのか?」
「ここの武器屋、小さいからなあ……品揃え悪いんだよ」
冒険者が元々然程いる町でもないし、護身用程度に大層な武器を持つ必要もない。
そんな町では当然武器屋も小さい。
つまり、品揃えも最低限の「売れるもの」に限定してしまうため、「痒いところに手が届く」ような商品は置いていないのだ。
ここで買うよりも、レシェドのほうがまだ安くて品質の良いものがたくさんあるくらいだ。
「それならば、丁度良いものがございます。どうぞ」
「……どうも」
何処から出したのか剣鞘を差し出してくるハインツからアリサは受け取ると、それに剣を納める。
丁度よいものだったようで、アリサは実に微妙な表情を浮かべるが、ならばとベルトの鞘の付け替え作業を始めてしまう。
「ところでカナメ様、あれは……」
「え、ああ。なんか消えなくて。ハインツさんはああいうの消す方法って何か知ってます?」
「そうですね……恐らくは私の知識もエリーゼ様と似たようなものかと」
明らかに落ち込むカナメにハインツは「ですが」と続ける。
「あくまで伝聞になりますが、魔力を使い切った
「それでも消えるわけじゃないんですね……」
「形あるものを消すというのは困難でございます、カナメ様。ですがまあ……法に違反しているわけではないのです。いっそ割り切られては」
「うう……つくづく調子にのるんじゃなかったなあ」
カナメがそう呟いて天を仰ぐのを見ていたエリーゼは、思い出したようにハインツへと振り向く。
「そういえば、ハインは何の用事ですの? まさかダグマ鋼の話をしにきたというわけでもないのでしょう?」
「ええ、勿論でございます」
そうしてハインツが紡いだ言葉に、エリーゼの絶叫じみた声が重なった。
「……王都からの援軍に先んじて、ハイロジア様の部隊がこちらに向かっております。強行軍のようですので……恐らく到着は明日かと」
「な、なんですって……!?」
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