ミーズ防衛戦7
「……くそっ!」
準備はした。上空を舞う竜鱗兵達も、連発する
だが、それでもまだ足りていない。
壁砦に取りつこうとする敵が増え、町中も大混乱の最中だ。
カナメの矢で倒す事は簡単だ。だが、数が多すぎる。
壁砦の上という場所にあっては新たな矢の材料の選択肢も少なく、かといって
効果の分からない新たな矢を作成するなどというのが正解とは、カナメにはとても思えなくて。
「……そうかしら?」
そんな声が、カナメの正面から聞こえてくる。
「え」
はたして、いつから其処に居たのか。
黒いドレスと、長い銀髪。
壁砦の縁に腰掛け足をぶらぶらとさせるその少女は……見間違いようもなく、死の神レヴェルだ。
何故、このタイミングで。そんな疑問を口に出す間もなく、レヴェルはひょいと身を翻すようにしてカナメの元へとやってくる。
「カナメ様?」
手の止まったカナメのことが気になったのか、エリーゼもまた魔法を撃つ手を止めるが……それにカナメは問題ないと手を振る。
やはり、エリーゼにも……ハインツにも見えてはいない。
とすると……やはりこのレヴェルは、カナメの死の運命だというのか。
「新たなレクスオール。貴方はまだ、自分の弓の事を何も理解していないのね」
「何も、って……これは神様の武器なんだろ?」
独り言を言っている変な人に思われたくなくて、カナメは積んでる矢を選ぶフリをして後ろを向くが……その正面にレヴェルは回り込んできて首を横に振る。
「違うわ、新たなレクスオール。それは神の武器ではなく、貴方の武器。貴方の弓、貴方の剣、貴方の杖。貴方の振るう力を顕現させる為だけに貴方の中より浮かび上がった形」
「え、でも。これってレクスオールの弓なんだ……ろ?」
「そうよ。それこそはレクスオールの弓。だからこそ貴方はそれに囚われている。それは昔のレクスオールの武器ではなく、貴方自身の武器だというのに」
「どういう……」
どういう意味だとカナメが最後まで言うその前に、レヴェルは戦場をすっと指差す。
矢と魔法が降り注ぎ、イリスが暴れまわる其処へとカナメは視線を向け……レヴェルは、カナメに弓を構えなさいと告げる。
「え、でもまだ矢が」
「私の言う通りにしなさい」
早くしろと言わんばかりのレヴェルにカナメは渋々と何も番えていない弓を戦場へと向け……すると、レヴェルが「私の後に続けなさい」と告げてくる。
「
「……
レヴェルの動きに合わせるかのように、カナメは空へと手を掲げて。
「
「
体の中から大量の魔力が抜けていく感覚と共に、カナメの手の中に一本の矢が生まれる。
この矢がどんな矢なのかは、カナメには分からない。だが
ならばと祈りを込めてカナメは巨人に向けて矢を放とうとして……しかし「天に向けて撃ちなさい」というレヴェルの声に慌てて弓の向きを変えて空へと矢を放つ。
勢いよく空の彼方へ向かって飛んでいく矢をカナメは見送り……しかし、矢は突然無数の光の束に解け地上に降り注ぐ。
「うわ……っ!?」
「なんだ!?」
「光が……!」
事情を知らぬ者から見れば、突如天から無数の光線が撃ち下ろされたかのような光景。
壁砦前の戦場を埋め尽くすような光線にカナメはイリスの事を思い顔を青ざめさせるが、そんなカナメの心を読みでもしたのかレヴェルは「問題ないわ」と答える。
「アレは貴方の敵のみを選別する光。さっきから下で暴れまわってる子が貴方の敵でないのなら、光はあの子を穿たない。それよりさあ、次よ。こざかしくも森の中で出番を伺っている連中を慌てさせてやりましょう」
「あ、ああ」
レヴェルに続けて、カナメは「
続く詠唱は、やはりカナメの中からごっそりと魔力を奪っていくが……それでも「たいしたことはない」と思える程度だ。
「
現れた半透明の捻じれた矢を番え、カナメは弓を引き絞る。
すでに目の前には動く敵はない。
そして、誰もがそれを成したのが濃緑のマントを纏う男……カナメであると気付いていた。
故に、そのカナメの一挙一動を全員がシンと黙り見つめる。
その不思議な静寂の中で、カナメは
目標は、目の前の森。そのカナメの意思に応えるかのように
響く悲鳴と共に竜巻の中に巻き上げられる敵の姿が見え……慌てたように森の中から飛び出してくるモンスターの群れをクスクスと笑って眺めながら、レヴェルはカナメへと語りかける。
「さあ、次よ新たなるレクスオール。大丈夫、心配いらないわ。あの程度の雑魚の群れを蹴散らすのなんて、貴方にとっては息を吸うより簡単な事だわ?」
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