闇色の森
森の中に、二つの影がある。
今となっては人間は誰も来ない森の中はしかし、ざわざわと何者かの声の響く場所となっている。
それが何者であるかは、その緑色の肌と長い耳、子供のような小さな姿を見れば……人間の分類でいうところの
明確に人間の敵である
森の中に座り込んだ二人は服を新しいものに取り換えており、太い木を背にして休んでいた。
「……チッ、あのクソ人間が。言いたい事言いやがって」
「……」
二人のうちの男の名前は、クラートテルラン。女の名前はアロゼムテトゥラ。
自称「
「気にするこたねえぞ。あんな連中に俺達の何が分かるってんだ」
「……でも、私は」
「あ?」
耳のいいクラートテルランには当然その呟きの内容は聞こえているが、チッと舌打ちして鏡を投げ捨てる。
「まぁた弱気の虫が出たかアロゼムテトゥラ? 辛気臭ェからやめろって言っただろ」
「……だって。アイツの言った通りだもの。だから私は」
「やめろ」
クラートレルランの短い言葉に、アロゼムテトゥラはビクッと震えて黙り込む。
怯えるようなその様子にクラートテルランは長い溜息をつくと、リンゴをガブリと齧る。
咀嚼し、飲み込み……ふうと息を吐くと、クラートテルランは「あー」と言葉を探すように宙を見る。
その視線の先に何かあるのかと
「いいか、アロゼムテトゥラ。よぉく聞け。お前はこの俺が選んだんだ。自信を持て」
「でも」
「でも、じゃねえ。俺のする事に間違いなんかねえ。俺は正真正銘、ゼルフェクトの息子達の一人だぞ」
ゼルフェクトの息子達。
それはハインツが「ゼルフェクト神殿」と呼んだ組織の使う言葉の一つで、所謂ダンジョンから生まれたモンスター達の事を指す。
そしてそのモンスター達は総じて人間に敵対的であり……こうして「ゼルフェクト神殿」が本物の
「忘れたなら何度でも言ってやる。俺はあの神殿の連中は気に食わねえ。だがお前が気に入ったから力を貸してる。ま……世界が滅ぶまでの戯れみたいなもんだがな」
「……滅んだら」
「あ?」
「世界が滅んだら、私も幸せになれる世界がくるのかしら」
「ハッ、どうかね。滅ぼしてみりゃあ分かるんじゃないか?」
投げやりにも思えるクラートテルランの言葉にアロゼムテトゥラはじっとその顔を見つめ……やがて、ニッと笑う。
「……そうね。それしかないわよね」
「ああ」
「よしっ!」
アロゼムテトゥラは意気揚々と立ち上がり、体についた葉や土を手で軽く払う。
「気分転換に水浴びでもしてくるわ」
「おう、そうかい」
水場の方へと歩いていくアロゼムテトゥラを見送ると、クラートテルランは再度の溜息をつく。
そんなクラートレルランに
「哀れな女だ。ゼルフェクトがそんな甘いもののわけがないだろうに」
「ギゲギギイ」
「おう、そうだよ。全部ブッ壊して、俺達もまた滅ぶ。それが俺達に本来与えられた運命さ」
「ゲゲギゲゴア」
再度何かを喋った
「……何を考えてるかだとォ? お前、いつから俺を監査できる立場になったんだ。それともゼルフェクトの忠臣気取りか。一山幾らの雑魚が気取ってんじゃねえぞ」
「クラートテルラン様、オヤメヲ」
「あ?」
かけられた声にクラートテルランは反応し……左横にローブ姿の少し大きな
「ああ、お前か。準備は出来てんのか?」
「ゴ命令通リニ。イツデモ行ケマス」
「おう、そうかい。ったく、ドラゴンが死んでなきゃあ煽るだけで済んだってのに。余計なことをしてくれたもんだぜ」
一通り悪態をつき終わると、クラートテルランは掴んでいた
「アロゼムテトゥラが戻ってきたら、最後の作戦会議を始める。隊長共にそう伝えろ」
「ハイ」
齧りかけのリンゴを再度齧りながら、クラートテルランはカナメ達の事を思い出す。
「……不安要素があるとしたら、あの三人か。だがまあ、あの程度じゃ止められやしねえ」
すり潰してやる、と。
クラートテルランはそう言って暗い笑みを浮かべた。
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