宿場町にて3

 レクスオールは狩猟の神であり、弓の神である。

 主に世間では狩猟の神として知られており、狩人やその他、森に入る者……旅をする冒険者や、獣除けや厄除けの効果があるに違いないと小さな村々でも広く信仰されていたりする。

 ……だが、神話を紐解けばレクスオールの本質は「戦いの神」であるアルハザールに勝るとも劣らぬ戦神である。

 破壊神ゼルフェクトとの戦いでは真っ先に矢を放ったせいで「始まりの神」などと呼ばれる程だし、その後もアルハザールに負けず劣らずの大暴れをする神として描写されるのがレクスオールという神である。

 そしてレクスオールは何度も言うが「弓の神」……つまり弓を主武器とする神だ。

「いつかの戦い」に自分も参加する事を神官騎士達は夢見て腕を磨くが、レクスオール神殿とアルハザール神殿は少々違う。

 彼等は神官自体も結構な武闘派が多く、たとえばアルハザール神殿は普通の神官でも並の戦士より武器の扱いに長けていることが多い。

 そしてレクスオール神殿はどうかというと……「レクスオール神の盾になる」と宣言し盾を自分達の身分証明に採用してしまう程である。

 流石にアルハザール神殿程ではないが格闘術にも長けており、そういう意味でも辺境では「戦える神官」が多いレクスオール神殿かアルハザール神殿が歓迎されたりもする。


「……で、そういう武闘派の神殿の「神官騎士」がどういう連中かっていうとね。まあ、分かるでしょ?」


 一言で表現するならば「荒くれもの」である。

 アウトローな冒険者ですら、この二つの神殿の神官騎士の前で諍いを起こしたいと考える者は中々居ない。

 笑顔と拳で神の愛を説き争いを収めるという非常に現実的で迅速な仲裁を受けたいなどとは思わないからだ。


「……確かハインツさんも神官騎士なんだよな? あれ、バトラーナイトだったっけ?」

「バトラーナイトはまた特殊ですわ。ヴェラール神殿の神官騎士自体は、別にいますもの」


 どちらにせよ野蛮ではありませんけど、とエリーゼは付け加える。

 つまりレクスオール神殿とアルハザール神殿の神官騎士は野蛮なのだろうか。


「野蛮っていうか、拳を振るうことに一切躊躇いがないよね。特にレクスオール神殿は先制攻撃の大切さを教えてるし」

「……」


 それは神殿ではなく道場か何かではないかとカナメは思うのだが、レシェドの街であった神官はそこまで武闘派には見えなかったな……などと思い出す。

 まあ、全員がそうというわけではないのだろう。


「えーと。それで、なんで「あの人」が神官騎士だと思ったんだ?」

「色付きの神官服着てたんでしょ?」

「あ、ああ。緑色の」

「確定ですわね」


 アリサとエリーゼの確信に満ちた言葉にカナメは再度疑問符を浮かべるが、アリサは自分の服を軽く引っ張って示して見せる。


「シュルトの服の色は覚えてる?」

「えーと……服は白でマントは」

「そう、白だね」


 マントは重要じゃないとばかりにアリサはカナメの言葉を遮り、説明を再開する。


「何処の神殿でも神官服は白なんだけど。神の威光の体現たる神官騎士は、その神殿のイメージ色の神官服を着てるってわけ」

「緑の神官服なら間違いなくレクスオール神殿の神官騎士ですわね」

「へえ……」


 感心したようにカナメは頷き、無限回廊での光景を思い出す。

 すると、あの少女が復讐を成し遂げたのも神官騎士としての強さあってのものなのだろう。


「復讐を成し遂げたってとこから判断するに、相当激情的な性格だと思う。何しろ、法の裁きより私的制裁を選んだわけだからね」

「そう、なのかな。エリーゼはどう思う?」

「今のところ否定する材料はありませんわ。聖国でならともかく、王国内で優先されるべきは王国の法。それを無視して私刑に走った辺り、神官騎士としての未熟さも感じますわね」


 二人の意見にカナメは自分の中での少女のイメージを修正する。

 どうやら単純に悲劇の少女というわけではなく、相当にクセのある人物のようだ。

 ……が、だからといって関わらない理由にはならない。


「……それなら、そうならないようにシュルトさんをしっかり送り届けないとな」

「そういえば、それも疑問だよね。まさか無限回廊が関係ない風景を連続で映すはずもないから、間違いなくその女とシュルトさんは関係があるはずだけど」

「恋人とかではありませんの?」


 復讐に走る動機としては充分ですわ、と言うエリーゼにカナメは「兄妹じゃないかな」と答える。


「なんか、妹がいるって言ってたし。苦手とも言ってたけど」

「……まあ、シュルトさんの性格を見るに武闘派とは合わなそうだけど」


 アリサも納得したように頷き、エリーゼも「そういえばそんな事も言ってたような言ってなかったような」などと呟く。

 騎士に意識を向けて集中していたアリサはともかく、エリーゼは余程シュルトに興味がないようである。


「……で、話が大分ズレたけど。カナメの意思に変わりはないってことでいいのかな?」


 アリサの問いに、カナメはアリサを正面から見て「ああ」と答える。


「その、アリサ達を巻き込む形になってるのは申し訳ないんだけどさ」

「別にいいよ、それは」


 小さく溜息をつくと、アリサはそう答え……エリーゼもまた、大きく頷く。


「ただ、一筋縄じゃいかないと思うよ。私も「来る」と知らされていながら変えられなかった。そういう類のものが、ミーズでは待ってるはず。それは……覚悟しといてね」


 そう言って、アリサは少し冷めたスープを口に含んだ。

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