森を抜けよう2
散らばったモンスターと聞いて要は慌てたように辺りを見回すが、そんな要の様子を見てアリサはくすっと笑う。
「心配いらないって。ドラゴン並にヤバいのがいなきゃ、なんとかなるから」
そのドラゴンも倒したしね、とアリサが言うと要は安心したような顔をするが……実のところ、安心できる要素など一つもなかったりする。
ドラゴンがダンジョンから出てきている、という事実は相当な段階まで「決壊」が進んでいる可能性を示唆している。
もしかすると、ドラゴンと同等か少し下程度に恐ろしいモンスターが地上に出てきている可能性は充分にある。
恐らくは一番近い騎士団詰め所も空飛ぶドラゴンを見た以上は村の状況を見て同じ判断をするだろう。
生き残りのアリサ達がその場に残っているか出会えば余裕を取り戻すかもしれないが、居ない以上は早々に調査を打ち切って支部への報告となるはずだ。
そして、そうなった方がいいのである。
「ドラゴンを倒したかもしれない」要のことが知れれば義務だのなんだのと言葉遊びで協力させられることは目に見えているが、アリサから見た要の「ドラゴンを倒した力」は多用できるものではない。
ひょっとすると、慣れれば出来るのかもしれないが……少なくとも今試すようなものではないのは間違いない。
ダメだったら死ぬ。そんな状況下に要が置かれなければならない理由が何処にあるというのか。
「とにかく、気をつけて森を……」
「うごぁ」
バキバキと……木々を砕いて、灰色の大男……
咄嗟に避けようとしたアリサだが、砕かれた木々が丁度アリサの周囲に展開するように倒れてきていて「避ける」スペースがない。
目の前には
「……ああ、もう!
アリサは凄まじい勢いで地面を蹴り跳躍すると、
だが人間相手ならばともかく、一瞬の爆発力のような
ならない、が……顔面に足をつけたアリサに
そして、アリサが
「
アリサは自然の摂理に従い地面に落ちるその前に、
地面を蹴り高く跳ぶ
「ほら、今のうち!」
「あ、ああ」
地響きが起こる中で着地したアリサは要の手を引き、思い切り走る。
巨人と呼ぶには小さい程度の大きさの
あの程度では死なないし、アリサの今持っている剣ではあの筋肉の塊を斬るには相当の労力が必要になる。
というか、基本的に剣士が相手にするような敵ではないのだ。
要の「あの光の矢」であれば森ごと消し飛ばせるかもしれないが、そんなことをするわけにもいかない。
「ああ、もう! こんなクズ仕事受理して! だからギルドは嫌いなのよ!」
「さ、叫んだら別の来るんじゃないのか!?」
「硬い奴以外ならぶった斬ってあげるわよ!」
言いながらアリサと要は走り……その途中で、アリサはピタリと足を止める。
後ろを走っていた要も慌てて止まるが、止まりきれずにアリサの背中に抱きつくように止まり、その勢いと重みにアリサがグラつきよろける。
「ちょ、カナメ!」
「ご、ごめん! でもなんで突然!?」
アリサにぐいと腕で押しのけられた要が慌てたようにそう言うと、アリサは真剣な表情に戻って左のほうへと視線を向ける。
「……なんか光った気がしたのよ」
「光った、って……」
幾つかの可能性をアリサは素早く思い浮かべる。
盗賊。
いや、有り得ない。
この森に居たとして、この状況で獲物をのんびり待っていられるほど楽天家ではないだろう。
充分に有り得る。連中には弓を使う知恵もある。
そして厄介な事に夜襲をすることもあるが故に見つけたならば、最優先で狩ったほうがいい対象である。
「……行くよ、カナメ。弓は使わなくてもいいからナイフ、準備しといて」
「あ、ああ」
あの騒動の中でも無くさなかったナイフを要は握り締め、アリサの前に出ようとして……アリサに腕を伸ばして止められる。
「そういうのは今後に期待しとくから、今は私の後ろで警戒」
「……分かった」
剣を抜き放ち、木々を盾にして進むアリサの動きを真似て要も同じように進む。
今はあまり頼りにならなくても、近いうちには絶対に。
そんな事を考えながら、要は周囲を用心深く見回し進む。
だが……先を進んでいたアリサは何を考えているのか、突然長い息を吐いて木の陰から出てしまう。
「えっ」
「カナメも隠れなくて大丈夫だよ。違ったみたい……まあ、ちょっとばかしアレだけどね」
言いながらアリサが指し示す先。
そこには地面に突き刺さった剣や、転がった盾。
……そして、複数の人間の骨があった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます