森を抜けよう
アリサの後を追うように要も森の中に入っていき、あちこち木々が倒された中を進んでいく。
といっても全部倒されているというわけでもなく、アリサは木が密集した中にも躊躇い無く入って行き、要も必死でその後を追う。
そうしてしばらく進んでいった後に、アリサは「うん」と呟いて止まり、要はその隣に追いつき「ふう」と息を吐く。
「結構動けるようになってるね、カナメ」
「へ?」
「あんまり疲れてないんじゃない?」
言われてみれば、と要は自分の変化に気付く。
村に行く途中の平坦な道でもヘトヘトだったのに、今はこんな場所を通っても「まだいける」といったような感じである。
いきなり筋肉がついたわけでもあるまいし、どういう事なのかと要は試しに力こぶを作ろうとしてみて……しかし、やはり変化を感じられずに溜息をつく。
「肉体的な話じゃなくて、魔力の話。身体を動かす力が一つ増えたっていえば分かる?」
「魔力……」
当然だが、要の居た世界では魔力などという概念は言えば「夢見がち」と笑われる類のものである。
だがこの世界に魔法があるのは要もしっかりと見ている。
見ているが……そんなものが自分に増えたと言われてもいまいちピンとこない。
「簡単に説明するけど、どんな人の中にも魔力は流れてる。でも魔法という形で外に出す方法を覚えない限りは、身体の中で無駄に循環するだけなの。で、魔力を使うことを覚えた身体はそれを自分自身の強化にある程度使おうとする。通常は全体量からすれば大した割合じゃないからあまり変化は感じないんだけど……カナメの場合は、少し多めに使ってるのかもね」
分かりやすく言うならば、見えない二つ目の筋肉を纏っているようなものである。
どちらかというと「補助」なのでサポーターという表現の方が正しいのかもしれないが……とにかく、「少し動きやすい」とか「少し力強くなる」といった効果をもたらすのである。
ちなみにアリサの魔法の
「……そっか。ならひょっとして今なら……」
今なら、自分もアリサのように戦えるかもしれない。
そんな事を要が考え自分の手を見ると、アリサにぺしっと頭を叩かれる。
「言っとくけど、私に格闘で勝てると思ってるんなら甘いからね?」
鍛えてるんだから、というアリサに要は「そんな事思ってないって」と返す。
どちらかといえば、アリサは要にとっての目標だ。
アリサのように、強く。
それが当面の要の目標といったところだろう。
「……あ」
「ん?」
「そういえば今って、何処に向かってるんだ?」
そう、何も知らないまま要はアリサについてきてしまっている。
地名など聞いたところで要に分かるはずもないが、何も聞かないままでいられるほど楽観主義者でもない。
「んー……カナメにも分かるように言うと、街を目指してる。具体的には騎士団の詰め所じゃなくて支部のある大きめの街」
「騎士団? ギルドじゃなくて?」
「そ、騎士団。報告しとかないと面倒だからね。ギルドは後回しでいいよ、あんなの」
今にも唾を吐きそうな顔をしているアリサに要は何があったのか聞こうにも聞けず「そ、そうか」と答える。
「なにしろダンジョン絡みだからね、報告しないと相当面倒になる」
「面倒って……」
「決壊起こしたのが私達って疑われる可能性があるって事。支部に行くのもそういう理由。詰め所レベルだと変な騎士もいるからね」
騎士団とは国や領地持ちの貴族が組織する軍隊ではあるが、同時に治安維持機構でもある。
だが騎士も務め人である以上は当然出世欲もあり、できれば地方の詰め所で揉め事解決しているよりは中央に上がって華々しい生活や活躍をしてみたいと思うものである。
そこにドラゴン絡みの案件など飛び込めば、アリサ達自身を手柄として成り上がろうとするダメ騎士がいないとも限らない。
実際、地元の悪人と癒着する騎士の話など情報屋が叩き売りするほどにある。
そういう意味では、「自分の器はこのくらい」と安穏とする地方支部のほうが「良い騎士」が揃っていたりするのである。
「幸いにも、この森を抜けた先に大きい街が一つある。あそこはシュネイル男爵の騎士団の支部があったはず。時間的にも丁度いいかな?」
「時間?」
「そ、時間。いくら支部がいいからって、時間がかかりすぎると「近くじゃダメだったのか」と疑いがかかるからね」
実に面倒だが、そういうものなのである。
そういう意味で「決壊に遭遇して森を抜けた」ということにするには丁度いい距離なのだ。
「街道じゃダメなのって……」
「うっかり騎士団に遭遇して金にもならない現場案内したいの? 私はやだ」
しかも説明するとなれば、かなり面倒な事態になる。
必然的にカナメの事も色々と説明せねばならず……何処からボロが出るか分からない。
そもそもからして「無限回廊を抜けてきた」という話をした時点で「可哀想な人」扱いされる可能性すらあるのだ。
レクスオールの弓を出せば説得力はあるかもしれないが、「可哀想な人」扱いされたほうがマシだった事態に発展する可能性がある。
「……とにかく、行くよ。散らばったモンスターがいるかもしれないから、気を抜かないようにね」
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