回収
歓待用の屋敷だった場所には火は回っておらず、静まり返ったこの場所には人の気配もモンスターの気配もない。
村の中でも端の方に位置しているのが幸いしたのか、それともドラゴンの登場によってモンスター達も逃げ出してしまったのか。
そのあたりは不明だが、余計な戦闘を避けられたのは不幸中の幸いであったといえるだろう。
……そう、不幸中の幸い。
歓待用の屋敷「だった」場所は瓦礫に変わっており、その前で要は呆然としていた。
アリサはというと「あちゃー」とでも言いたげに額を手で押さえており……恐らくは放置した
しかし、そんな原因に思いを馳せたところで今更である。
何よりあの状況ではああする以外に方法も無いし、重たい荷物を抱えて移動するのも問題外であっただろう。
つまり……こうなるのは必然だったわけだが、逆に言えばこれもまた「不幸中の幸い」であっただろう。
「まあ、下手に屋敷が無事でも火事場泥棒出たかもしれないしね……これでよかったのかしら」
「え、いや。そんな余裕ないだろ」
「その考えは甘いよ、カナメ。余裕がない時は倫理の鎖も脆くなる。俺が有効活用してやるとかいって金目のモノを根こそぎ持っていこうとする奴の話なんて、両手両足の指でも数え切れないよ」
アリサは言いながら瓦礫を見回し「この辺かな」と呟いて瓦礫をどかし始める。
まさか瓦礫の中から荷物を探そうというのだろうか。要は無謀だと止めようとするが、そんな要をアリサはキッと睨みつける。
「カナメも手伝って! 私の全財産なんだからね!?」
「え!? あ、ああ」
言われて要も慌てたように瓦礫の山に足を踏み入れるが、正直見つかるとも思えない。
こんな事をしている間にモンスターが戻ってくるのではないかと気が気ではないのだが、そんな要の表情の意味を見抜いたかのようにアリサはふうと溜息をつく。
「モンスターなら、しばらく戻ってこないわよ。この村にはドラゴンの魔力の気配がまだ残ってるからね……大抵のモンスターはビビって近づこうともしないはず」
それ以上の奴がいれば話は別だけどね……と言いながらアリサは瓦礫をどかし、要もそれを手伝い始める。
「ならいいんだけどさ。なんていうか……そういう大事なモノを預けとく場所ってないものなのか? あれば儲かりそうだけど」
イメージとしては、ゲームでいう「倉庫」だ。
いらないけど捨てたり売るにはもったいないものや、使うけれど持ちきれないものを預けておく場所があれば相当需要がありそうなものだが……と要は思うのだが、アリサは「無いわよ」と言って否定する。
「その預かる奴の信用が問題ね。そいつが変な奴と繋がってたら、預けた物を裏で売られかねないもの」
「そ、そこはほら。信用商売だし最初はそうだろうけどさ」
「仮に、信用を積み重ねたとして」
アリサは言いながらも瓦礫をどかし、「おっ」と声をあげて大きめの袋を引っ張り出そうとする。
しかしどこかでしっかりと挟まっているのか上手く取り出せず、アリサはその周りの瓦礫を取り除きながら話を続ける。
「その預かり屋として信用を積み重ねたソイツの商売が軌道にのったとするわね?」
「ああ」
アリサはようやく袋を引っ張り出し、穴が開いて無い事を慎重に確かめ始める。
「まず間違いなく、盗賊かこそ泥か……場合によっては金か権力にモノを言わせて、干渉しようとしてくる輩が出てくるよ。あ、騎士団連中も何かあるごとにチョッカイかけてくるかな?」
場合によっては「盗品倉庫であったが故に全て没収」などという事態にもなりかねないだろうとアリサは説明する。
まるで冗談のような話であるが、本当に可能性がある話だ。
「でもまあ、着眼点はいいと思う。あんまり価値のあるものを預からないなら商売としては回るかも」
「うーん……」
なんだかレンタル物置みたいな話になってしまったが、そういうものかと要は納得する。中々現実は甘くないということなのだろう。
「それでアリサ。これからどうするんだ?」
「ん、そうだなあ……とりあえず私達は「依頼を受けて村に行ったけど、「決壊」が発生したので依頼を放棄し脱出した」ってことにする。ドラゴンに関してはとりあえず黙っておこっか」
「え、なんでだ? それに、ドラゴンだって色々回収できるんじゃないのか?」
せっかく倒したのだから誇ればいいのにと要は思う。
それにドラゴンといえば、牙やら爪やら鱗やらと「強い装備」の材料の代名詞のようなものじゃないのだろうか?
そうでなくとも、売るだけで相当な稼ぎになりそうなものだ。
「えーとね。場所と状況が問題なの。ダンジョンで会ったならともかく、ここは「決壊」の真っ只中。間違いなく騎士団が介入してくるし、あの馬鹿ドラゴンは飛んだから、ひょっとすると目撃者もいる。そんな中でドラゴンの身体の一部なんて持ち込もうもんなら、間違いなく面倒事になるよ?」
どこかに持ち込めば、それだけで噂になるだろう。
「倒した」などといえば「どうやった」と探られるのは間違いないし、たまたまドラゴンの死骸を見つけたのだといって納得して語るのを止めるほどの人格者は居ない。
どう転がるかも分からない噂話の種になれば、やはりそれを口実に騎士団が絡んでくるだろう。
後ろ暗い所など何一つありはしないが、要の一件に関してはアリサの勘が「言わないほうがいい」と告げている。
「……とにかく、まずは此処を離れるよ。道を行くと騎士団と鉢合わせするかもしれないから、森を抜けよう」
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