神様の話

「……結構立派な家だね」

「そうね」


 要の言葉に頷きながら、アリサは荷物の袋を床へと下ろす。

 誰も使っていない家にしては綺麗に掃除のされた部屋の中には質素ながら家具が置いてあり、二階に続く階段が部屋の隅にあるのが見える。

 更には部屋の中には装飾だろうが剣やらなにやらも飾ってあり「それっぽい」雰囲気をかもし出している。

 平屋が多かった村の家々を思えば、不自然なほどに立派だが……アリサは、特に気にした様子も無い。


「まあ、ここは行商人を歓待する為の家でしょうしね。村で一番立派な家にするのもまあ、当然ってとこかしら」


 これは人の心理の話になるのだが、特別扱いとは気持ちがいいものだ。

 旅の最中神経をすり減らしている旅商人がそんな中、立ち寄った村でまさに貴族か王が来たかのような「村で一番」の扱いを受けたとしよう。

 勿論貴族や王の生活のような豪勢なものではないにせよ、村で一番偉い人であるかのような歓待を受ければ行商人とて悪い気はしない。

 損をする気はないが、多少は手心を加えた良心的な商売をしようか……というくらいの気にはなってくれる場合が多いのである。

 多い、というのはそうではない行商人もいるという意味だが、それはさておき。

 とにかく、そうした「歓待」の為に用意された家だということだ。


「てことは、俺達って歓迎されてるのか?」

「んー……」


 だが、要の質問にアリサは難しい顔をしてしまう。

 そんな変な質問だったかと要は首を傾げるが、アリサは「間違ってはいないんだけど」と前置きして長椅子に腰掛け、その隣辺りをタンと叩く。

 呼ばれていると分かった要がその近くに座ると、アリサは頷き話を再開する。


「たぶん歓迎はされてる。最初にこっちの条件を渋るふりして丸呑みしたのが一つ。その後、交渉の時にもほぼこっちの条件を呑んだので二つ」


 大体の場合、そうはならない。

 なんだかんだで値切ろうとするのが普通であり、当然だ。

 それをどうにかするのが冒険者の手腕であり、アリサも最初に少しばかり吹っかけたのだが、意外にも村長はそれを呑んだのだ。

 これは妙な手応えだと更に吹っかけてみたのだが……多少の交渉の真似事の末、ほぼ希望通りで通ってしまった。

 夢の出来事でもあるまいし、普通は有り得ない事態だ。


「え。でもさ、たまにはそんな事もあるんじゃないか?」

「無い」

「あの村長さんが本気で困ってて、それで解決出来るならいいやと思ったとか」

「本気で困ってるのはたぶんその通り。だからこっちの要求呑んだんだろうし」


 なら、それで解決ではないかと要は思う。

 他に何があるというのだろうか?


「……たぶんだけど、何か隠してる」

「何かって?」

「分かんない。でも、ロクなことじゃない。ひょっとすると、未発見ダンジョンが絡んでるかも」


 未発見ダンジョン。その言葉に要が訝しげな顔をして聞き返すと、アリサは「そっか」と呟く。


「そういえばダンジョンの話はしてなかったね。ついでにちょっと、神様の話もしようか」

「え、その二つって関連性あるのか?」

「あるよ。とはいえ、私もうろ覚えだから詳しくは説明できないけど。えーと、昔々の話なんだけど……」


 それは、遥か昔としか言いようが無い程の遠い時代。

 この地上に神の威光が今より満ちていた時代の話。

 世界に突如現れた邪悪な神とその眷属を神々が討ち果たした。

 邪悪な神の欠片は世界中に散らばり、これがダンジョンの始まりであると言われている。


「おしまい」

「ええっ!? いや、絶対何かもっと詳しく説明できるだろ!?」


 幾らなんでも略し過ぎだ。もっと何か説明のしようがあるはずだし、今のではダンジョンの始まりの理由もふわっとし過ぎだ。

 だが要の抗議に、アリサは面倒くさそうにするばかりである。


「それだけ覚えてれば大丈夫だってば」

「いやだ! なんかもやっとする!」

「ええー……仕方ないなあ」


 それは、遥か昔としか言いようが無い程の遠い時代。

 この地上に神の威光が今より満ちていた時代の話。

 世界に突如現れた破壊神ゼルフェクトとその眷属が全ての生命体を滅ぼすべく動き出し、これを神々が討ち果たした。

 ゼルフェクトは砕かれ無数の欠片となっても未だ力を失ってはおらず、しかし神々も力のほとんどを使い果たしていた。

 それ故に神々はゼルフェクトの欠片を地中深くへ封印し、天上の世界へと帰っていった。

 だが……そうなってもゼルフェクトの欠片はその破壊の意思を捨てず、復活を夢見ている。

 それがモンスターを生み出す「ダンジョン」であり、その始まりである。


「と、こんな感じ。分かった?」

「その神々の一人がアルハザール、なんだよな?」

「そういうこと。そこに飾ってあるのはアルハザールの剣をイメージしたやつね」


 そう言ってアリサが視線を向けたのは、壁に飾ってある剣だ。

 やけに装飾過多な剣なのはそういう理由か……と要が納得していると、アリサは辺りを見回し「ないなー」と呟く。


「ないって……何が?」

「レクスオールの弓。こういう村だと、レクスオールの方が人気あるんだけどね」

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