第18話「奇跡をつくる者達」
お茶を
「七海
「ありがとう、ミィナ。
「提督、
「ん、じゃあ……またいつか学校で。これでお願いするよ」
「了解」
ミィナは
緑色の
再び会うために、別れた。
その繰り返しで、再会を
そうすれば、いつか別れる必要がなくなる
そんなことを思っていると、部屋のドアがプシュッ! と
イシュタルは、両手で
「やあ、二人共。お疲れ様。……えっと、イシュタルさん、その子は」
「うむ、ワシが今回
「なるほど」
リーチェアもイシュタルの赤ん坊に
そんな彼女の横顔を眺めて、ふと七海は気になった。
常日頃から表情が多彩な方ではなく、学校などでは
燃え盛る
だが、今日のリーチェアは少し
「ね、ねえ……イシュタルさん。そ、その……だっ、だだ、抱いて、みても、いい?」
「
「あ、ありがと! わぁ……ふわふわしてて、温かい。何だか、怖いくらい柔らかいのね」
七海はこたつに
赤ん坊はつぶらな瞳でじっとリーチェアを見上げて……不意に、表情をくしゃりと
不思議とイシュタルは、優しい顔をしていた。
あわあわと取り乱すリーチェアに、見かねたミィナが立ち上がって駆け寄る。
「リーチェア艦長、私が」
「あ、うん……ご、ごめんなさい。何か、ご機嫌ナナメみたい……わたし、嫌われちゃったかな」
「いえ、単に抱き方が
「そ、そう。やっぱり、心臓の音が安心するのかな?」
「因みに、私達ヴァルキロイドには心臓に相当する内臓がないため、効果は得られません。……やっぱり、駄目ですね」
ミィナも少し残念そうな顔をした。
イシュタルが再び抱いてやると、その声が徐々に静まってゆく。
これには七海も、ホッとした。
そして、少し残念そうに苦笑するリーチェアと目が合う。彼女は七海を安心させるように、小さく舌を出して肩を
イシュタルがあやしながら抱いて歩くうちに、赤ん坊は寝入っていったようだった。
「駄目ね、わたし。でも、赤ちゃんって凄い……守らなきゃ。そうでしょ? 七海」
「うん。とりあえず、今回出産した
「それと?」
「リーチェアもきっと、いいお母さんになるよ。多分、今がその時じゃないだけさ」
「っ! ……ま、またそういうこと、言う、し……そんな、
「さて、作戦会議を始めようか」
こたつに入ったリーチェアは、真っ赤になって
イシュタルとミィナも座り、四人で
すぐにミィナが、お茶やみかんの籠をどけて
「さっきトゥアンナとも確認したけど……
「それに対して、我が軍の聯合艦隊はほぼ全戦力を総動員した数です」
ミィナの言葉に、七海も頷きを返す。
機構と皇国、その国力差はあまりにも膨大だ。
しかし、トゥアンナの決意と覚悟は
今回は、トゥアンナの提唱する機構の
惑星スナイブルで意思表示をした、機構の支配をよしとしない民を捨て置けない。もし見殺しにすれば、トゥアンナの大義名分は崩壊する。
「さて……現在、僕達は惑星グラン・プールを出港し、スナイブルへ向かっている。けど、
「ほう? 何か考えがあるのじゃな? 提督」
イシュタルが面白そうに
大きく頷いて、七海は自分でも額の量子波動結晶に考えを念じる。
すぐに、七海達の
「スナイブルもまた、機構の支配領域……そして、グラン・プールからは距離がある。トゥアンナが考えたのは、スナイブルから反機構の意志を持つ民の救出なんだ。超大型輸送艦1,000隻からなる脱出船団を編成、彼女自身が指揮してスナイブルに向かう」
そのことも海図に表示させると、リーチェアが血相を変えた。
イシュタルも
だが、淡々と七海は言葉を続けた。
他ならぬ七海自身が、一番危険を感じている。そして、正気の
だからこそ、奇跡的な戦いの連続を、後の歴史に奇跡そのものとして
皇国でもトゥアンナに反対する一派に対して、常に実績を示す必要があるのだ。
「機構側に通告の上で、武装解除したトゥアンナのアーティリオン、および非武装の400隻でスナイブルに入港する。そして、順次避難希望者を乗せる予定だよ」
「待って、七海! ……武装解除? そんなことしたら、トゥアンナは」
「もし、機構の本国から来た艦隊と交戦すれば、一方的に
「無茶だわ! せめて護衛の艦隊を」
「ん、それは無理かな。それに、彼女もいらないと言ったし、僕も駄目だと思う」
リーチェアは三白眼気味の瞳を小さく丸めて、目を見開いた。
七海はそんな彼女を真っ直ぐ見て、言葉を続ける。
「まず、聯合艦隊から艦艇を割けない。今の状態でも危うい均衡だからね。それはリベルタ元帥にも話しておいた。その上で……トゥアンナが単艦で脱出船団を率いると自分で言い出したんだ。敵に攻撃の正当性を少しでも与えぬよう、非武装でね」
「どうして……無茶よ」
「だが、無理じゃない。
リーチェアを安心させるように、七海は
演技ではなく、そうしたくて出た自然な笑顔だ。
そして、作戦の
「はい、提督。まず、聯合艦隊の一部で
機構の領土は広い。
ただ、その広さは攻める時には不利にもなる。
トゥアンナが民を救う二週間の間に、敵の第十四艦隊から脱出船団を守り切れば、勝算はある。次の増援がスナイブルに到着するには、オンステージしているどの機構軍艦隊も遅過ぎる。
その事態も七海は考えているし、
ここまででようやく、イシュタルがミィナの言葉に口を
「七海提督。封印艦隊で子をなした艦、約200隻が今回の編成から外れておるが。……ワシもかや? すぐにでも戦えるが」
「イシュタル様、それについては七海提督が産休だと」
「産休……産後の
「いえ、それは提督がお望みの形ではありません。ですから、イシュタル様……どうか産休を取って待機し、しばらくパートナーと母親をやってほしいそうです。つまり」
「つまり?」
「産休に関しての異議申し立ては、これを却下します。
ミィナがキリリとドヤ顔である。
場が静まり返った。
リーチェアもイシュタルも、目を点にしてしまった。
七海も、ミィナの意外な茶目っ気に驚く。だが、彼女は
「……ミィナ、もしかして……
「はい。
「わかった、僕からそれとなく言っておくよ。色々とね。あまり変な影響を受けても困るけど……でもミィナ、彼は君が言う通り素晴らしい友人だ。仲良くしてくれると嬉しい」
「了解です。……何か私は失敗をしたのでしょうか」
「少しね」
やはり、地球に戻ったら一度秀樹とじっくり話をする必要がある。そう思って、七海は
既にもう、大規模な救出作戦……後に『スナイブルの奇跡』と呼ばれる戦いは始まっているのだった。
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