第17話「激動、暗雲、嵐が来る」
再び
宇宙の底への週末旅行も、二度目となれば慣れたものである。
前回と違うのは、
艦長席でコントロールするトゥアンナが、リーチェアと同じことを言ってきた。
「七海さん、お座りにならないんですか? どうぞ、わたくしの後ろに」
「いや、何か……一番高い場所の座席って、落ち着かないんだよね。ここにいさせてよ、トゥアンナ」
「まあ! また、無自覚にそんなことを言って……ふふ、あいかわらず、ズルい人」
「えっと、それは」
「いいんです、ここにいてください。もうすぐ虚天洋へと
トゥアンナは
リーチェアの
だが、トゥアンナのアーティリオンはまるで
やがて、静かな衝撃が小さな揺れとなって、七海に虚天洋への到着を告げてきた。
すぐに、
「七海
「ん、わかった。ええと……どこにしまったかな」
七海は学生服のポケットをあちこち探す。
ズボンのポケットから、ハンカチと一緒に
「七海さん、そんなところに入れて……もっと
「ああ、ごめんごめん。今度、入れ物を考えておくよ。なにか
「……あとでこちらで用意しますわ。もう、本当に……ふふ。でも、その量子波動結晶の色……姉様との今後、ちゃんと考えてくださいね?
七海が額につける量子波動結晶、その色は特別な人間だけに許された輝きだ。
皇国で唯一、戦闘艦に乗ってもいい男性……
脳裏に念じると、すぐに量子波動結晶から情報が
同時に、艦橋前面のメインモニターに
いつもの軍服姿も
「
『ん? 七海、なにか言った?』
「いや、なにも。それより、相変わらず髪が
『……
小さく笑って、リーチェアは鈍色の
すぐにリベルタが「皇女殿下」と行儀の悪さを
その間も七海は、平日の五日間で起こった出来事、戦況や艦隊状況を頭の中に広げてゆく。こういう時、思考に直結する量子波動結晶はとても便利だ。
「ん、封印艦隊の
『ええ。その、なんていうか……イシュタルさんにも確認したけど……こっ、ここ、子作り、したって。ほ、ほら! ずっと封印されてたし、久しぶりだからって」
「そう。じゃあ……新しく生まれた艦と、その両親。どっちも母親だろうけど、リストアップしておいてくれるかな?』
「うん。でも、どうするの?」
『
真っ赤に塗られた封印艦隊も、一隻一隻は七海と何ら変わらない女の子だ。例えそれが人間とのコミュニケーション用に造られた、
「さて、あとは……
『そうね、小規模な
「困るなあ、そういうの。さて、じゃあ
その時だった。
額に手を当て、ミィナが量子波動結晶の光を明滅させる。
ヴァルキロイド同士の通信が入ったようだ。
同時に、画面に映るリーチェアの背後でも、エルベリオンのヴァルキロイド達が慌ただしくなる。
「七海提督」
「どうしたの、ミィナ」
「ええと……ゴホン、いい知らせと悪い知らせがあります。どちらから確認なさいますか?」
「……
「そう、でしたか。すみません、まだ笑顔に慣れなくて」
「気にすることないさ。トゥアンナ、彼女の情報をモニターに」
すぐに艦長席のトゥアンナが、宙に浮かぶ光学キーボードへ指を走らせる。
まるでピアノを
リーチェア達の映像が少し小さくなって、その横に地球型の惑星が映し出される。
「こちらは機構の領内にある、惑星スナイブルです。
「ふむ……ここでなにが? いや、なにかあったんだね」
ミィナが
七海にだって、予定外なことが起こる。
どちらかと言うと、今までトントン拍子に上手く進んでることの方が想定外だ。機構軍だって馬鹿じゃないだろうし、そもそも物量差を考えれば相手が馬鹿でも七海達の勝算は低いのだ。
なので、あまり
常に七海が聯合艦隊とは別の
「続けて、ミィナ」
「はい。リーチェア殿下とも無時差通信を共有します。このスナイブルで今、
「ふむ……内乱かクーデターか、それとも」
画面の中のリーチェアが、七海の言葉尻を拾う。
『七海、この星は一部の特権階級が資源を管理し、労働者階級は過酷な環境で
「
『
「結構怖いことするよね、機構って」
前から違和感があった。
その答えが、
艦橋のオペレーターの一人が、七海達を振り返って静かに報告を告げてきた。
「トゥアンナ艦長、機構側からの無時差放送です。虚天洋全域に向けての発信です」
すぐにトゥアンナが、再度前面のモニター内に手を加える。
惑星スナイブルの映像も小さくし、新たに一番大きなウィンドウを広げた。
そこには、一人の美しい少女が現れる。
真っ白なドレスは、とても簡素で飾り気が全くない。それなのに、一目で特別なドレスだと知れるのは、少女の美貌を無言で表現しているからだろう。
純白の少女は、
『虚天洋でこの放送をお聞きの、全ての人類同胞へとお伝えします。私は第七民主共生機構、
その少女は、地球の寝物語に登場する姫君の名を名乗った。
あるいは、この虚天洋の物語が太古の昔、地球に伝わったのか。
ともあれ、量子波動結晶で言葉を自動翻訳されて聴く七海にも、確かに日本語ではっきりと聞こえる。それはとても
「第七元老? 元老ということは」
「そうです、七海さん。第七民主共生機構には
「……トゥアンナ、あっちは民主主義なんだよね?」
「ええ。その民主主義で虚天洋を満たすべく、
初めて知る、敵の実態。そして、民主共和制でありながら覇権主義じみた拡大政策を推し進めている、その意味が少し理解できた。
シェヘラザードは言葉を続ける。
『現在、神星アユラ皇国と私達は望まぬ戦争に突入しております。そして今、新たに惑星スナイブルに危機が訪れました。よって、元老院は議会へと艦隊派遣を進言しました。第十四艦隊を派遣し、速やかにスナイブルの安定化を図ります』
有り体に言えば、トゥアンナの決意に触発された人間を鎮圧、弾圧すると宣言しているのだ。そして、他ならぬトゥアンナ自身が、真っ直ぐな瞳でそれを見詰めて一言零す。
それは衝撃の真実で、七海の中のあらゆる算段を修正させた。
「七海さん。第七民主共生機構の元老院は、七人とも高度な人格を持つシステム……ヴァルキロイドとは全然違う、マシーンです」
民主主義を公平に、そして厳正に監視するためのシステム……汚職も横領も、私利私欲もない完全無欠の政治力。それが元老院の正体。民主主義の
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