第7話「異形の邪神艦隊」
その間に、この
艦隊司令用の個室でベッドから起き上がり、身体の気だるさが少し薄らぐのを感じる。立ち上がって側のテーブルに手を伸べれば、就寝前にミィナが渡してくれた
それを額につけると、すぐに必要な情報が頭になだれ込んでくる。
「現在、艦内時間は
他にも、このエルベリオンの
これだけの巨大な宇宙戦艦でも、エーテルの海を進めば波間に揺れた。今も、静かに小さく上下している。それでも、
部屋を出て、
途中、
皇国式の敬礼も、七海がすれば少しぎこちない。
それでも、皆が
「七海提督、ブリッジ・イン」
オペレーターをやっているヴァルキロイドの声で、皆が立ち上がって振り向き、敬礼してくれた。同じように敬礼を返して、すぐに艦長席へ歩み寄る。
今日はドレスのような軍服姿で、とても
「おはよう、リーチェア」
「ん、おはよ……眠れた?」
「少しね。でも、十分だよ。どう? その、
「
リーチェアはすぐにコンソールに触れて、小さな電子音を響かせる。
正面の巨大なモニターが、外の景色を映し出した。
まるで、窓の外の風景で、それも絶景だ。
深い緑色の海が、透き通ってどこまでも続いている。地球では存在が一時期否定されていた、エーテルの海だ。ここは宇宙の底で、無重力なのに海がある。そして、エーテルに満ちた海中は死の世界……あらゆる
エルベリオンが向かう先に、ぼんやりと光る星が浮かんでいる。
北半球の一部を海面に出した、それは巨大な
リーチェアが立ち上がると、彼女の
「両舷減速、そののちにエンジン停止。艦のコントロールを通常モードへ」
すぐに周囲のヴァルキロイド達が復唱し「アイハブ」と短く返してくる。
艦長席からリーチェアが単身でコントロールすることもできるが、その全てをヴァル気ロイド達へと移譲する。そうして彼女は、まるでコクピットのような座席から飛び降りた。
手を取ってそれを助けながら、七海は広がる景色に目を細めた。
「あれが、α417……凄い景色だね
「多分、地球人でこの世界を見たのは、七海が初めて」
「まあ、
「待ってて、すぐに呼び出す。呼びかけて、みる」
そう言って突然、リーチェアは軍服の胸をはだけた。
それとなく目を
どこか老成して見える青白い炎を
「神星アユラ皇国皇女、リーチェア・アユラ・ミル・アストレアが命じる! 我が呼び掛けに応えて、
リーチェアの胸で、あの紋章が光っていた。
小さい頃はなかった、まるで象形文字を集めた不思議な模様だ。
昔はリーチェアは
小学校三年生くらいまで、そうだった気がする。
だが、
誰もが憧れるトゥアンナは当然、地味な眼鏡で自分を隠していたリーチェアもだ。
そんなことを思い出していると、不意に艦が強く揺れる。鳴動と共に、正面の白色矮星α417が震え出した。艦橋内のヴァルキロイド達も慌ただしくなる。
「恒星内部に高エネルギー反応多数」
「信号受信、封印艦隊からです」
「ぞくぞく浮上中、数は5,000以上。現在も増加中」
七海は言葉を失った。
それは、想像していた姿とまるで違う。
地球の価値観で見て、娯楽作品に出てくるような洋上艦そのままのエルベリオンとも違うのだ。
例えるなら、それは異形の龍。
群れなす邪龍の艦隊だ。
「これが、封印艦隊」
「ええ。
恒星から次々と飛び出してくる、
形はどれも違って、同じものは一つもない。
あっという間にエルベリオンは、
そして、オペレーターのヴァルキロイドが振り返る。
「リーチェア艦長、封印艦隊の
「乗艦を許可します。……七海、ここからが正念場だよ? わたしを、支えてくれる?」
無言で七海は頷き、リーチェアの手を握る。
少し驚いた顔のあとで、伏目がちに
程なくして、艦橋の扉が
そこには、これまた以外な光景が広がっていた。
そして、七海には逆にお
「乗艦許可に感謝を。ワシが封印艦隊の族長艦、イシュタルじゃ。お初にお目にかかる、リーチェア
長い長い金髪をツインテールに結った、小さな女の子がそこにはいた。太古の
そして、イシュタルの隣には長身でグラマラスな女性が立っている。
その女性を振り返って見上げ、イシュタルは静かに言葉を
「キュベレー、リーチェア殿下に
「ハッ! 私は大戦艦キュベレー、これより我々封印艦隊はリーチェア殿下の
キツそうな目をさらに細めて、キュベレーは七海を
そして、そのまま
「……
イシュタルが静かに「これ、キュベレー」と
だが、大きな胸を揺らしてキュベレーはさらに口調を強めた。
「封印中もデータ収集はさせてもらっている。双子の皇女は確か、
七海と繋いだ手を、ビクリとリーチェアは震わせた。
だから、七海はより強く優しく、その手を握り締めて言葉を挟む。
「発言をよろしいですか? リーチェア艦長。それに、キュベレーさんもイシュタルさんも」
無言で
「僕は、三笠七海。リーチェアとトゥアンナを救い支えると誓った者です。そして、これまでずっと二人と一緒に暮らしてきました」
「なっ……それでか! ううむ、そうか……ならば男でも乗艦せねばならんな。ふむ」
キュベレーは七海を見て、その額に輝く白金の量子波動結晶を見やる。
だが、不満げに腕組み、彼女は再びリーチェアへと鋭い言葉を投げつけた。
「トゥアンナ殿下はどうした? 我々は皆、皇国のために死力を尽くすよう、創造主に定められている。だが……それだけの力を示してもらわねば、従うことはできない」
「そ、それは……わかってるわ。トゥアンナは今、主力艦隊を集めて行動中よ。敵は、第七民主共生機構。その不当な拡大政策に、虚天洋の星々がさらされている」
「ならば、我々は皇国の剣となって戦おう。すぐにトゥアンナ殿下に合流したい、許可を!」
キュベレーは要するに、自分達を起こした皇女のリーチェアに不満があるらしい。七海も、普段の学校での見慣れたリーチェアならば、同じことを思ったかもしれない。
だが、今の彼女はもう違う。
華やかな妹を陰ながら見守ってきた、地味で内気な姉はもういないのだ。
そして、それを証明せよとイシュタルも無言で見詰めてくる。
ならば、その手助けをするのも七海の役目だ。
「キュベレイさん、そしてイシュタルさん。どうでしょう? 僕とリーチェアが
ふむ、とキュベレイは唸って黙る。
逆に、イシュタル真っ直ぐ七海を見上げて頷いた。
「よかろう、少年。お主はリーチェア殿下が
「ええ。その時はトゥアンナの元へ行くといいでしょう。でも」
「でも? なんじゃ」
「僕は予想は裏切っても、期待は裏切らないつもりですよ」
そう言って七海は、精一杯の虚勢をはった。ハッタリ、
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