サレルマへの道

第32話 ロウェの存在確率操作

 ※性的表現があります。33話に進んでもつながるようにしてあります。









 夜更けに屋根裏に現れたときより成長した大人の姿になったロウェが現れ、アケラのベッドに腰掛けると顔を近づけて覗き込んだ。


 アケラは気づいており、起き上がることもせず、ロウェの顔ををただ見上げる。より実体化が進んでいるのか透けている部分が減ってきている。ソウェが漆黒に染まったかのような、瓜二つの姿であった。

 しかし、所々で霧のように解けては戻るのを繰り返している。その度にロウェの表情が歪む。


『何があった』


 ロウェが苦しそうな表情を一瞬見せる。


『あの子の魔核が急に成長した』

『原因は』


 ロウェは表情を取り繕うとするが再び顔を歪める。


『……貴方よ。あの子は貴方を意識している』

『そうか……』

『貴方もまた変わった』

『かもしれぬ』

『あの子の力を抑えるのは難しくなった』

『ソウェに伝える時期が近いという事か』

『そう。少しづつだけどあの子との繋がりに流れる印象を増やしている。私も強くならなければいけない』


 ロウェはアケラに口付けるとアケラの前歯を舌で割開け、舌を絡め取る。


 腹と胸に柔らかい質感を持った重みを感じる。ロウェを取り込んだときと似たような緑色の光の風に視界が奪われ、優しい光の図柄パターンが波のように揺蕩い、全身が包まれる。


『貴方の思考アルゴリズムはあの人に似ている』

『不死者の男か』


 アケラの感情の中に少し尖った赤い針のような光が生じる。


『えぇ。非の中からも理を求められないかと世界を見つめている』

『普通ではないのか』

『そうなのかもしれない。でも私は特別と感じる』


 ロウェはアケラの瞳の奥まで見透かすような目で見つめる。


『彼は不死を呪っていた。呪いを私に預けて死を望んだ』


ロウェの頬に涙が落ちた。


『でも貴方は非情と有情を行ったり来たり。迷っていないようで迷っている。貴方は本当に特別』

『そう思うのであれば、それで良い。人の心の在りようは……』

『ありがとう……貴方は貴方』


 アケラの鼻に朝霧のような質感が満ちると、ロウェの孤独、寂寥、くすぐるような笑う感情、恥じらう慈しみたくなるような戸惑い、狂おしいくらいの衝動が押し寄せてくる。


 その一つ一つをアケラは丁寧に寄り集め、抱きしめ、指先でそっとなぞるように包み込んでゆく。


 冷たく深く沈んでいたロウェの中の温もりが表層に現れ光に覆われて行く。

 生れ出る光の粒となったロウェの感情や記憶をアケラは優しく解いてゆく。


 家族との記憶、監禁された場所から眺めるシエナの山々、不死者の男への想い、死を決めた覚悟、屋根裏部屋での長い日々、楽しそうに遊ぶ幼いソウェ……


 ロウェは苦痛に耐えるように目を固くつむっている。記憶が解かれるたびに恥じらいの感情が現れては消えて行く。


 様々な色をした小さな光の粒に同じ律動をアケラは与え続ける。


 ソウェへの嫉妬、憎しみ、愛情が最奥に隠されるように在るのをアケラは見つけた。ロウェの負の感情でソウェへの想いが一番強く大きく育ち、数多の黒い蛟がそれらに絡みまとわりついている。

 アケラは蛟の塊に手を伸ばす。ロウェが激しく狼狽え、抗うような刃に似た感情が芽生える。

 アケラの手に蛟が食い込み内側から喰らい尽くそうと体をくねらせる。激しい痛みに襲われ苦痛に顔が歪む。黒い蛟を引き抜いて握りつぶすと、逃れようと暴れながら溶けるように流れ落ちていった。

 淡い光を放つソウェへの想いが詰まった大きな光球が残った。

ロウェの意識が慈しむように負の感情だった光球に触れると、子供に帰ったかのような無邪気な表情を浮かべアケラを見つめている。

 ロウェを見つめながらアケラが最後の光球を解くと、堤が途切れたかのようにロウェの感情に力強さが戻る。


 今、ロウェの綻びは薄れ、より実体化している。ロウェの存在確率がアケラの認知によって急激に上がった。

 アケラは背を起こし座位を取ると、ロウェの実体化した裸体を膝に乗せ正面に向き合い、背からうなじに手を回し包むように抱きしめる。


 そっと、目を固くつむったロウェの髪をかきあげ、耳を軽く噛むと、ロウェが驚くような声を上げ、アケラを横目で追う。

 アケラは耳を放し、何かを訴えるかのような目をしたロウェの唇を奪う。


 ロウェの後頭部に回した手とは反対の手をロウェの背後に回し、赤子の様なキメの細かい肌をした肉付きの良い双丘の中心を探る。会陰から陰唇の隙間へと指を這わせるとロウェは体を丸めるようにびくっと動く。既に熱く湿った感触をなぞり、隙間を広げ陰核をあらわにすると、中指と薬指の間に挟み、優しくしごきながら、親指で陰唇を広げ、掌の月丘で露になった部分を愛撫する。

 驚きと苦痛のような快感がロウェの中から押し上げてくる。

 再び耳を軽く噛むとロウェが大きく仰け反りアケラの頭をかきむしるように抱きしめる。

 アケラは指使いを柔らかくし同じ工程をなぞり、ロウェが激しく舌を求めるのに応じる。


 何度も背を反らすロウェの反応が少なくなったのを見て、アケラは陰核を挟んでいた指でロウェの陰唇をそっと開き、浅く突き入れる。

 ロウェは痙攣のような震えを一瞬起こした後、両手でアケラの頭を抱える。アケラの顔に小さめな胸が押し当てられた。

 その桜色の小ぶりな乳頭を口に含むとロウェが声を上げてまた仰け反る。

 ゆっくりと深くロウェの中に入り、両手をロウェの背後に回し双丘を鷲掴みにして、腰と腕の力で律動を始める。


 アケラは呑み込もうとするロウェの内襞を突き上げては優しくなぞり、繰り返し突き上げる。

 ロウェはすべてをアケラの前にさらけ出し恍惚に浸っている。

 次第にロウェの感情が白く変わり、乳輪の周りの肌が桜色に染まりだしたのが見えた時、ロウェが激しく震え始めた。

 ロウェの感情が白い世界からさらに輝きを増す。アケラは一層深く突き入れ、長い律動を与える。ロウェは一段と激しく痙攣し、白い世界は光に満たされた。アケラはロウェの中へロウェから溢れだした光の粒たちを解き放つ。

 光の粒たちは溢れる光に溶けて消えて行く。


 ロウェの最奥がうねりながら擦り付けるようにアケラを刺激すると、ロウェは大きな愉悦に満ちた叫びを残して散り、光の粒となって散る。


 ロウェがあった場所に黒い核が残って浮いていた。

 

その核に散った光の粒が集まり人の形を作ってゆく。


 一段とまばゆい光を放ったあと、そこには安らかに眠る純白のロウェの姿があった。


 アケラはロウェと融合すると、黒い霧となり、窓を抜け、シエナを照らす月の光の中に躍りだす。ロウェの思うがままに駆け抜ける。


 ロウェの弾けるような感情を感じる。

『貴方で良かった』


 アケラに口づけをするとロウェは去っていった。


 ソウェの中へロウェが戻った瞬間、ソウェが上掛けを撥ね上げ身を起こす。

「何このエロい夢! 何このエロい夢!」

 あたりを見回してもしわぶき一つなく、暗闇だけが広がっている。


「……んもう、ママがあんな服着せるから……あぁ、もう寝る!」

 ソウェはベッドの中で何度も寝返りを打っていた。

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