第23話 長い一日の終わり

 アケラ達は御料林差配のクーペに乗り、アファリの屋敷へ向かう。クーペの後ろをイスロが手綱を取るキャブリオレが着いてくる。


 マンシッカがクーペの中で何度も頭を下げていた。


 アケラは予想した範疇ですべてが片付いたので気分は悪くない、寧ろマンシッカが可哀そうなくらいに思えた。

「マンシッカ様、お気になさらずに、これまで通りで良いではありませんか、差配様もそのように仰っていましたし、こちらにも異存はありません」

「そうだなマンシッカ殿、手打ちも致したことだし、これまで通りと行こうではないか、ソウェも分かったな」

「父上に言われると何も申し上げられません」

「という事だ、マンシッカ殿、気持ちは伝わった、しかし謝礼は頂くぞ、はっはっは」

 サウリの笑い声が響いたころアファリ家にクーペは滑り込んだ。


 ジーマとベガが屋敷の入り口にが現れ、3人を迎え、マンシッカに軽い会釈をすると、クーペは走り去った。


「さてと、無事戻れたという事で、詳しいは話をヒューゴ殿に聞かせてもらおう」

「あら旦那様、気がせくのはわかりますけど、夜は長いのです。食事の後、汗を流してからお話をしたらよいでしょう、ベガお願いします」

「では、また風呂でも入りながら語り合おうか」

「長風呂禁止です、私もアケラ様から話を聞きたいのです」

「旦那様、今日は紅茶でも飲みながら皆で語り合いましょう、いい物があるのですよ、さぁ冷えてきました屋敷に入りましょうか」



 汗を流してサウリと居間へ降りる。

 ソウェとジーマが林檎の香りがする紅茶を喫していた。

「さて、何から話しましょうか……」

「御料林差配のお屋敷で何があったの? ギルドに戻ったら連れて行かれたって聞いて、もうわけがわからなくって……」

 ソウェが素のまま話しているのを、サウリとジーマがおやっという表情で見た。


「はっはっは、わしが家に戻ったら、凄い剣幕で捲し立てられて、走り回されたわ」

「ご心配おかけしました。自分でもここまで早く動くとは想像していなかったもので……」

「で、なにがあったの?」

「まだ解決しないといけない問題はありますが、とりあえず山岳狼の件は無事解決の道筋ができました」


「先ずは御料林差配のリュフタ様に山岳狼の件で、ある報告が上がったことから端を発します。リュフタ様は家令に報告の内容を伏せ、探るようにとの指示を出されました」

「あのマンシッカってやつね」

「はい、彼は部下が山岳狼をギルドにまわしてしまった責任を感じ、それを隠蔽しようと企みました」

「そして、自分を拘束し、冒険者ギルドの会員ではないと証言させようとしたのです。がしかし男同士の会話の結果、リュフタ様に直接お目通りすることになりました」

「ほう、どのような会話だったのか気になる……まぁそれは後で良いか。どのような話をリュフタ様としたのだ?」

「口外を避けていただくことを約束願えますか?」

「無論だ」

「では、アドニシエナリニスはご存知でしょうか?」

「シエナ原産の薬草でもあり毒草でもある危険な植物、採取はもちろん持ち出しも固く禁止されているあれよね」

「見たことはありますか?」

「えぇ、春に黄色い花を偶に見かけるわ」

「自分がラニを助けた時、彼は背嚢を絶対に手放さなかったのを覚えていますか?」

「ボロボロになっていて、アケラが綻びを縛ってあげていたあれね」

「はい、あの時、背嚢から独特の苦い香りがしたのです、それがアドニシエナリニスだと知ったのはギルドのファンニさんに教えてもらった時でした。と同時に、法を犯していない自分に彼らが拘る理由がそこにあるのでは無いかと考えたのです」


 アケラは一息つき話を続ける。

「アドニシエナリニスに気づかれているとしたら、自分が無実を証明すると、ラニが罪に問われることになるのです。それではラニを助けた意味がなくなります。ラニの家は治癒士も頼めない経済状態で、母親は病を託っている事を勘案すれば、ラニが法を犯してでも母親のために薬を作ろうとしたと推測できましたから」

「ラニがラサにと言ったのはそのことが原因だったのね」

「思い起こせば、背嚢の綻びを繕った時、とラニが言ったのも、助けてもらったことではなかったのだろうなと……」

「自分は全て灰色で収める方法があるとしたら、御料林差配と交渉するしかないと判断し、丁度クーペが来ていたので連行される事にしました。で、地下牢のようなところで1対2の男同士の会話があってと……話が戻りましたね」


「リュフタ様と忌憚のない話をさせて頂き、彼の懸念がやはりアドニシエナリニスであることがわかりました。山岳狼が背嚢に噛み付いた時、草の汁が移ったのでしょう。御料林差配の下働きが山岳狼の死体から香る匂いに気づいたそうです。ただ公にすると事が事だけに影響が大きいので、まずはその事実は伏せ、内偵する形にしようと考えていたようです」


「リュフタ様の慎重さがラニを救ったか。ふむ。謝礼はまけておくことにするか……」


「はい、リュフタ様の慎重さのお陰でラニは救われました。リュフタ様の懸念を払拭する代わりに、ラニの罪を問わないよう持っていけましたし。丁度その話が終わったところへ、アファリ様とソウェが乗り込んできたのです」


「ふむ。うまく事が済んでよかったが、今度はもう少しアファリ家を頼ってくれ。それなりのことは出来るはずだ」


「では、国王と交渉する際に……」

「無理ぃぃっ!」


 アケラが言い終わる前に、悲鳴を上げ拗ねたサウリを見て、ジーマとソウェが吹き出しそうになっていた。

 アケラは自分が普通の家に生まれてきたら、このような団欒もあったのだろうな思惟しいふけった。

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