第21話 聴取という名の拷問

 アケラ達を乗せたクーペは御料林差配の屋敷の門をくぐり、裏手の入り口に着けられた。

 家令が素早く降りると、アケラの横を固めていた従者が左右の腕をつかみ引き立てる。

「おいっ降りろ」

「これが見聞改めの召致という待遇でしょうか」

「うるさい、さっさと言う通りにしろ、痛い目には遭いたくないだろう」

「シエナは物騒なところですね、痛い目とはどのような目なのか聞いてもよろしいでしょうか」

「こうだ!」

 言葉と同時に背の高い大柄な従者の方が拳でアケラの腹を殴る。アケラは後ろ手に縛られているため何もできずに倒れこむ。倒れこんだところにわき腹に蹴りが入り、頭を踏みつけられる。歯が当たって口の中が切れたようで舌に血の味を感じた。


「抵抗しないのか腰抜けが」

「抵抗したらどうするつもりでしょうか、気になりますね」

「減らず口をたたくな!」

 つま先がわき腹に再び突き刺さる。


「おい、ヤルマリ、やりすぎだ、こんな話は聞いてないぞ」

もう一人の従者が止めに入る。


「ふん、お前は引っ込んでいろ! 流民が舐めた口を利くのを改めためるよう、諭しているだけだ」

ヤルマリと呼ばれた背の高い従者は再びアケラの頭を踏みつけた。


「これからは聞かれたことだけ答えろ、わかったな、おい連れて行け」

 集まってきていた下働きに担がれて地下の部屋に連れ込まれ。外から鍵がかけられた。


 暫くして足音が近づいてくるのが聞こえた。足運びの癖から先の家令とヤルマリという従者だけなのが分かった。

 ヤルマリが、のぞき窓からアケラが担ぎ込まれた時のまま後ろ手に縛られているのを確認した後、鍵を開け入って来た。アケラに近づき大腿を足蹴にする。


「おい、話を聞かせてもらおうか、こっちを向け」


「蹴らなくても話はしますよ、何が聞きたいのでしょう」


「生意気な口を聞くな、立って壁に背をつけろ」

 ヤルマリが足蹴にしようとするのを家令が止め、立てと目配せで指図する。


「まぁ話すというのであれば話してもらおう、おいオマエ、本当は冒険者ギルドに登録していないただの流民だろう、正直に言えば痛い思いをせずに済む」

「いえ、ギルドに登録された冒険者です、なぜそうではないと言わせたいのか聞かせ……」


 アケラが言い終わる前にヤルマリの拳が横顔に入る。


「聞かれたことだけ答えろと言ったはずだ」

「あくまで冒険者だと言うのだな、聞き間違いではないか?」

「そのとおり、登録された冒険者です」

「このまま押し通すつもりか、死んでも死体が見つからなければ良いのだぞ、帰らせたがその後は知らんというだけで終わりだ」

「それは御料林差配の意思という事でよいのか、生き残った際には糾弾するぞ」

「こ、このようなこと差配様がなさる筈がなかろう」

「ふん、素が出たな、馬鹿だなお前は」

「マンシッカ様に対して不遜な口をきくな」


 ヤルマリが激高して蹴りを入れてくる。


「うぐっ……なぁんだ、この馬鹿はマンシッカっていうのか、馬鹿に従うお前も馬鹿なんだろうなヤルマリ、どんどんさえずれ、はははは」

「うるさい、この場で今殺してやろうか」

 ヤルマリが無詠唱で炎をちらつかせる。


「まて、今はまずい、差配に報告のしようが無くなる、完全に我らの落ち度になってしまう」

「はっ」

「おい死にたくなければ、ギルドに属してないのに狩りをしたと、差配の前で証言しろ、そうすれば回復させて領の外へ逃がしてやろう、当座の金もやる」

「なるほど、悪くはない取引かもしれんな、だがその通り証言するとは限らんぞ」

 ヤルマリがアケラの顎を持ち上げ、耳元でささやく。

「お前がギルドに入るとき連れていたアファリの娘がどうなってもいいのか」

「ほう、大した関わりもないが、可哀そうなものだな、どうするつもりだ」

「さぁな」

 時間を気にしているマンシッカがしびれを切らせる。

「おい、言う事を聞く気になったか、報告を早く上げないといかんのだ、適当にまとめてお前を消してしまうというのも無くははないぞ、連れていた娘は美人らしいな」

 マンシッカが下卑た笑いを浮かべる。


 アケラはおおよその流れをつかんだので、ここが潮時と感じた。

「うむ、差配は今回の騒ぎには直接指示を出していない、お前の独断でこのような状況になっているという事でよいか、では今度はこちらが話を聞かせてもらおうか」


 アケラは縄を抜けると、ヤルマリに殺到する。

「なにおっ」

 驚愕したヤルマリは思わず無詠唱で火球を打つ。

 アケラは防御魔法が間に合っていないのを見越して、火球を避けつつ壁を蹴り、ヤルマリに駆け寄り縄を首にかける。

 ヤルマリに巻き付いた縄を軸にアケラは宙を飛びマンシッカのこめかみに蹴りを入れ、意識を一気に刈る。

 ヤルマリは体力強化魔法を無詠唱で発動させ首に巻かれた縄に抵抗している。

 アケラはヤルマリの後ろに回り込むと鼻に指を入れ、鼻孔を爪で削る。

 一気に溢れ出た血が鼻腔を満たしヤルマリは口を開けて血を吐こうとする。体力強化魔法に意識が回らず解除され、縄が一気に首に食い込む。10秒を待たずヤルマリは崩れ落ちた。

 ヤルマリが持っていた小刀で、ヤルマリの腕の静脈を切る。縛ってここに放り込んでも意識が戻れば火属性魔法で縄を抜けてしまうだろうから、血を抜き気絶状態を保つことにした、なるべくならこちらで人を殺したくはない。


彼らを救うために来たのだから。


 

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