第17話 まっくろくろ

 宮守みやもりさんが、休日に一人ドライブをしていた時の話。

 赤信号で停車した際、何気なく道路の左手の方へ目をやってみた。

 そこには見慣れたスーパーがある。その脇、小さな郵便ポストに、今ちょうど、郵便局の制服を着た回収員の女性が鍵を突っ込んでいる。

 やがて、パカッとドアを開けるようにポストの前面が開いた。

 ああいう構造なのか、と宮守さんは感心した。


 刹那、ボボボボボ・・・とものすごい量の〝黒い綿毛のような〟何かが、ポストの中から雪崩を打つように飛び出した。


「ンッ?!」


 何だ今のは、と目をしばたかせる。

 見えたのはほんの一瞬だったが・・・ 宮守さんは、「某有名アニメに出てくるススのお化けにそっくりだ」と感じた。

 それが完全に出なくなると、回収員の女性は胸ポケットから小さな瓶のようなものを取り出し、中に入っている粉末状のものを、ポストとその内部に振り掛けはじめた。

 塩、かな―― と思った瞬間、後ろからクラクションを浴びせられた。

 信号を見ると、とっくに青だ。慌てて宮守さんは車を出した。

 最後にチラリと横目でポストの方を見ると、既に郵便物の入った袋を取り出して何事も無かったかのように車の方へ向かう女性の姿が見えた。


 何の仕事も大変だなぁ、と彼は心底 思ったという。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る