通常国会

 年が明け、1月から定例の通常国会が行われていた。

 通常国会は、補正予算成立・来年度予算成立・政府提出法案成立が主な内容となっている。


 最近の政府提出法案は、一つの法案の中にいくつもの法案をセットする抱き合わせ法案が常套化しており、都合の悪い部分は良い部分で隠し通す事になっている。

 与党は都合の良い部分のみ喧伝し、野党は都合の悪い部分を追求する事となっており、連日、各委員会で質疑応答が行われている。


 国会答弁で、新聞記事を引き出して質疑応答が行われる際に、その記事に対して真偽を議論している場合があり、日奔国の新聞記事はセンセーショナルな事件報道やゴシップ報道に重きを置いている事を暗に仄めかしている状況がみてとれる状況になっている。


 今国会を「働き方改革国会」と高々に宣言していたが、抱き合わせ法案の中に含まれていた裁量労働制についての部分が問題となった。

 「裁量労働制で働く方の労働時間の長さは、平均的な方で比べれば一般労働者より短いというデータもある」との国会答弁により、国会での質疑応答は紛糾していった。

 「そろそろ何とかしないと・・・」阿部慎太郎は、連日の野党からの質問に辟易していた。


 統計学を学んだ者であれば、本来比較対象すべきデータの前提がそれぞれ異なっている事は理解しており、「裁量労働制で働く方の労働時間の長さは、平均的な方で比べれば一般労働者より短いというデータもある」との結論は導き出せないものであった。

 また、統計データに異常値や外れ値が含まれる事は、起こり得るものであり、その部分は統計的手法により調整されるものであった。


 優秀と云われる省庁幹部職員がそれを理解していないはずはなく、それを声高に叫ぶ事はなかったが、数日後に、厚労省がまとめている統計データを分かりやすく「厚労統計のあらまし」として公表した。


 阿部慎太郎は、公表された「厚労統計のあらまし」の意図を汲み取り、抱き合わせ法案に含まれていた裁量労働制法案を撤回したのであった・・・

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