「立憲民守党」

 江田野雪夫は、「ついにこの時が来たか・・・」と大きく溜め息をついた。

 民心党議員は、今回の選挙に民心党議員として出馬せずに、希望党議員として出馬する予定であった。しかし、全ての民心党議員が希望党議員として受け入れられない事は明らかになりつつあった。


 前田誠次と江田野雪夫は、初当選以来ずっと同じ党で政治活動を共にしてきており、お互い政策の考え方について異なる部分は多少あるが、竹馬の友に近い関係であった。


 前田誠次と江田野雪夫は、民心党両院議員総会の数日前に、とある料亭で今後の選挙における状況について話し合いをしていた。

 「民心党の看板では、今回の選挙は明らかに惨敗するな・・・」と前田誠次は、江田野雪夫に語りかけた。

 「確かに、前回等京都選挙結果を考慮すると、その通りだな。」と江田野雪夫は大きく頷く。

 お互い顔を見合わせ、各々の額には、皺が深く刻まれていった。

 沈黙が暫く続いた後、前田誠次はおもむろに口を開いた。

 「今回の選挙に勝って阿部政権を倒すためには、民心党議員は、希望党から出馬するしかない。」


 江田野雪夫は、大きく目を見開いて、まじまじと前田誠次の顔を見つめた。その顔は、明らかに本気である事が見てとれた。


 「しかし、希望党が民心党議員全てを受け入れるとは限らないと思うが。」

 「可能な限り努力はしてみるが、江田野さんのいう通りになるかもしれない。その時は・・・」と言葉を発した後、前田誠次は一瞬天井を見上げ、その後自分に語りかけるように呟いた。

 「保守とリベラルが一緒の現在の民心党では、一つにまとまろうとするのがそもそも無理な話だ・・・」

 受入れ側の希望党にとっても、リベラル派の民心党議員を受け入れない事はほぼ間違いないと、前田誠次と江田野雪夫の両者共通の認識であった。


 「江田野さん、恐らく希望党は、民心党議員全員を受け入れる事はないと思う。混乱が生じると思うが、時期を見て江田野さんにリベラル派を吸収できるような政党を立ち上げて欲しい。時期と方法は、江田野さんに一任する。」

前田誠次は、江田野雪夫に対して、深々と頭を下げた。


 江田野雪夫は、「う~ん」と唸った後、「分かった。」と軽く頷いた。

 国会議員初当選から共に同じ道を歩いてきた二人には、多くの言葉を交わさずとも、お互いの事がかなり分かっており、今回の選挙で阿部政権を打倒する事は二人の共通の目標であった。


 江田野雪夫は、民心党議員の混乱が頂点に達したのを見極め、記者会見を行い「立憲民守党」を立ち上げを宣言した。


 「立憲民守党」の立ち上げにより、今まで共に歩んできた二人は、袂を分かつ事となった・・・

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