第11話 嫌悪(パート2)

「お電話代わりました、真田です。」

「あー、君が真田くんか?はじめまして。アタシね、今日から鹿原村しかばらむらのシステム担当を任されることになった、明智秀雄ってもんです。どうぞ、お見知りおきを。」

 知らない人物だ。鹿原村は東京の西の外れにある村で、ランプノートの顧客の一つだ。真田の担当するクライアントなのだが、先方のこれまでの担当者は小池という人物だった。

(ずいぶんと急な配置換えだな・・・?)

 電話の声色から察するに中年、おそらくは四十代くらいと感じた真田だが、それ以上に口調に強い癖、なんというか、厄介そうな人物像が浮かんでくる。だが、それでも”損しない一次応答”の心得で、真田は努めて誠実なトーンをキープする。

「あぁ、そうでしたか。ご担当者様変更について前任の小池様から伺っていたなかったもので、お名前を存じておらず失礼致しました。こちらこそ、宜しくお願いいたします。」

「小池?あぁ、アイツな。真田さんも小池にはさんざん苦労させられたと思いますけどね、こっからはアタシと円滑にやっていきましょう。ハッハハ。」

 なんでそんな事を言うのか。小池はいろいろと気遣いをしてくれる好人物だっただけに、明智の言い方には違和感を感じる真田だった。

「いえいえ、滅相もございません。こちらこそ至らぬところもあるかと存じますが、何卒宜しくお願い申し上げます。」

「ま、今日のところは挨拶だけで。」

「ええ、わざわざありがとうございます。今後とも、何卒宜しくお願い申し上げます。」

「はいはいー。それじゃあ、よろしくたのみますよー。」


 電話を切った後もしばらくの間、得体の知れないざわめきが真田の胸にいすわり続ける。

(なんというか、俺の苦手なタイプだな。)


 ランプノートは、いまから5年ほど前に鹿原村にキャンプ場予約システムを納品し、現在に至るまでそのシステムの保守サービスを提供している。保守サービスというのは、対象システムの仕様に関するクライアントからの質問疑義に回答したり、万が一障害が発生したときに緊急対応をするサービスのことだ。要するに、何かあったときの安心を提供していると理解して差し支えない。


 真田は、いかにも人の良さそうな小池の顔を思い出していた。

 真田と小池とは年代も近く気があった。アウトドア好きの真田は、実際に何度か鹿原村にキャンプに訪れ、その都度村内の小池と合流して焚き火を囲んで酒を飲んだりしていた。東京都とはいえ、鹿原村のあたりは澄んだ清廉なる川に沿った峡谷の中にあり、秋ともなれば山々の影からたくさんの星空を仰ぎ見ることができる、知る人ぞ知る秘境だった。


(小池さんと仕事できないのは、残念だな。)


 胸騒ぎを感じながらも、この日の真田の感想はそんなものだった。


 その翌朝。

 明智から真田あてに一通のメールが届いた。

 そのメールの内容は、予想だにしない激烈なものだった。

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