第8話 一次応答(パート3)
リバートした先は2度目のコリドー街。真田は例の男女のやり取りをもう一度観察していた。
(状況を考えれば、この女性の反応はまっとうだ。少し損をしたかもしれないけど。しかしそれより、この親切男は大した人間だな。)
リバート前の自分の対応の数々がいかに子供じみていたかを反省しながら、日比谷駅へと急いだ。
(明日は、俺もしっかりやるぞ。)
翌日。
真田がオフィスで業務をしていると、付き合いの深い顧客から、今日中に見積もりを出してほしい旨の電話があった。真田はつとめて快活にこう答える。
「ご相談、いつもありがとうございます。お急ぎということなので、こちらも精一杯頑張ってみます!」
「いつも無理ばっか言っちゃってゴメンね。ほんと助かるよ!」
電話の相手も満足そうだ。実際、この見積もりは、やってみたら最初に真田が懸念してたほど大変ではなかったのだ。それによらずとも、お仕事のご相談をいただける顧客に、わざわざ悪い印象を与えてプラスなどなにもない。最初の返事は、ポジティブに。真田は心に刻んでいた。
「やれやれ、今日はなんだか忙しいな。」
リバート前と同じセリフだが、表情も声色も違う。真田の口から自然と出たそのセリフを、美女木ありさがキャッチして投げ返してきた
「とか言って、楽しそうじゃないですか。」
(あれ・・・美女木さんの反応も変わった・・・?)
そこにまた、別の顧客からメールが入ってきた。使用しているシステムで不明な部分があるので教えてほしい、という内容だった。
(まずは、先方へ拝承の返信だ。)
”お問い合わせの件、承知致しました。確認の上、追ってお知らせ差し上げます。恐れ入りますが、しばらくお時間をいただけますと幸いです。”
そんな内容のメールをすぐに返す。リバート前はこのメールを返さず、回答の出揃った数日後になってはじめて連絡をしたことで、先方のご不興を買っていたのだ。
”調査してくれてるのかどうか、わからないじゃないか”と。
飲食店で、従業員を読んだのに返事がない時がある。その実聞こえてて、遅れてこちらにやってきて、「ご注文は?」と聞いてくる。あれと同じだ。呼ばれたらまず、「はい、ただ今参ります。」だ。真田は客の気持ちになって、そうあるべきと学んだ。
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