第7話 一次応答(パート2)

 その翌日。真田がオフィスで業務をしていると、付き合いの深い顧客から、今日中に見積もりを出してほしい旨の電話があった。

「え?今日中ですか?ちょっと今日はいろいろあるんですよねぇ。え?絶対に?ああ、それじゃあしょうがないですね。わかりました、わかりました。なるべく善処します。」

 電話を切って真田は天上を見上げる。

「やれやれ、今日はなんだか忙しいな。」

 誰に言うでもなくため息とともに放り投げたそのセリフを、美女木ありさがキャッチして投げ返してきた。

「普段がひまだからそう思うんじゃないの?」

 真田はムカっときた。

(どうしてこの女はいちいち・・・)

 真田は聞こえないふりを決め込むことにした。

 そこにまた、別の顧客からメールが入ってきた。使用しているシステムで不明な部分があるので教えてほしい、という内容だった。

(次から次へと、なんだなんだ。今日はそういう日か。)

 その顧客への返信は後回しにして、ともかく見積もり依頼、問い合わせ対応という2件のチケットを自分宛てに発行しなくてはと思っていたところに、社長の春山田から声がかかる。

「明日のY社との打ち合わせ、同行してもらえるかい?」

 せわしない状況に、思わず曇った表情と声色が出てしまう。

「え?明日?Y社さん?Y社さんってどちら様でしたっけ?」

 春山田はにこやかな表情のままだったが、周りで聞いている社員たちは肝を冷やしていた。

 その後トイレに行こうとする真田に、尾形が声をかけてくる。

「あの、真田さん。」

「なんだよ?」

 なかば八つ当たりの反応に、尾形もすこしムッとした表情で言う。

「いや、忙しそうなんで、なにか手伝いましょうか?って言おうと思ったんですけど。」

 その流れでも、真田の中で、気まずさより苛立ち、というより傲慢さが競り勝った。

「必要だったら、俺が声かけるからさ。俺、トイレ行くとこなんだよ。わかるだろ?」


 結局真田は銀座のコリドー街までリバートし、この日の至らない5箇所の自分の修正を行うはめになった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る