第6話 一次応答(パート1)

 顧客との打ち合わせの終わった夕暮れ、真田は銀座のコリドー街を歩いていた。ここはサラリーマンのナンパスポットとして有名な場所で、真田もその目的で何度か訪れたことがある。ナンパするために男性が集まり、ナンパされるために女性が集まる。ちょっとした異世界だ。


 そんな異世界で、軽薄そうな茶髪の男が前からこちらに歩いてくる。

(歳は俺と同じくらいなのに、随分洒落た格好をしているな。ナンパしに来たのかな?)

 そんなことを考えていたまさにその時、茶髪男が近くにいた女性に声をかけた。

「ね、おねーさん。」

(あぁ、やっぱりナンパか。)

 声をかけられた女性を見ると、ショートボブのなかなかかわいい娘だった。歳は二十代中頃だろうか。茶髪男が目をつけるのも納得だ。しかし、女性は明らかな不快感を顔に出し、軽薄男から逃れるように足早に去ろうとする。

「いや、ちがうよ、ちょっと待って。」

 女性の進む先に回り込む茶髪男。

「わたしそういうのじゃないです、迷惑なんで本当にやめてください。」

 女性は茶髪男の顔も見ようとしない。実際に迷惑なんだろう。あまりしつこいようだったら、女性を助けてあげよう・・・などとは真田は思わない。真田は他人のナンパに介入しない主義だ。

 だが、茶髪男と女性の展開は意外な方に進んだ。

「ほら、ハンドタオル、落としてたよ?」

「えっ?」

「これ、おねーさんのでしょ。」

(なに・・・落とし物を拾った親切男だったのか?)

 女性はこのときになってようやく茶髪男の顔を見た。気恥ずかしさのせいだろうか、頬を赤らめながら言った。

「あ・・・、そうです。ごめんなさい、わたし・・・。」

 きまり悪く弁解しようとする女性のセリフを遮って茶髪男が言った。

「あー大丈夫大丈夫。こういうの慣れているから。」

 親切男は爽やかな笑顔で言う。きっとスポーツマンなのだろう。よく見ると、親切男の身なりは、嫌味のない高級感の中に、凛とした清潔感がある。

 女性は両手の指先で口を隠して笑った。いっときの緊張から緩和されたせいか、女性の表情は最初とは別人だった。

(あれ、なんかいい雰囲気じゃないか。あっ)

「じゃ。」

 白い歯を見せて茶髪の紳士は立ち去っていった。


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