第10話

「皆、今日は集まってくれてありがとう。私は今まで悩んでた。今回出された紙本製造禁止令。私もこの法律に反対している。しかし、この法律を出したのはステラ様、逆らってはいけないと思った。しかし、皆の意思を希一から知った。そこで私は、決意を固めた。皆とともに戦う。」

「ダリア様。あなたは、私と胡蝶の師匠、尊敬する紙本作家。貴女が紙本作家としての活動をやめた理由を知らない。でも、貴女が紙本を好きでいてくれる限り私と胡蝶は貴女と共に戦います。」

 私と胡蝶、ダリア様は紙本会の集会で声高らかに皆と共に戦うことを宣言した。そして、ダリア様は自分の過去を語り始めた。それは、壮絶ともいえるものだった。


『貴方たちと共に戦うために一つ話しておかなければならないことがあります。それは私の過去。私が活動をやめる事になった理由。……私が生まれたのは、紙や鉛筆、紙本を売る書店を経営する一族だった。両親はいつもあわただしく働いていた。当時はもう紙なんて廃れていて高かったから買う人なんて少なくて、家計は厳しかった。でも何とか大人になって、私は紙本作家 ダリアとして活動を始めることができた。でも幸せな日々は続かなかった。実家の書店は潰れ、紙本作家だった私の本の売り上げでは実家の借金は返せず、私たち家族は自己破産寸前までいった。しかしそこで、ある資産家が手を差し伸べてくれた。彼と私は、彼が私の家族を資金援助によって救ってくれることを条件に結婚した。それと同時に私は作家活動をやめた。すぐに子供ができた。それでも、夫となった資産家とは仲良くなくて、次第に本が書きたくなった。でも、夫は作家として活動を再開することを認めてくれなかった。だから、私は逃げた。まだ幼い息子を置いて。私は実家に逃げ込んだ。最初は、夫が捜しに来るかもしれない、夫の資金援助のおかげで立ち直った家業に復讐してくるかもしれない、びくびくしながら、生活していた。でも、半年たっても夫は私を探そうとはしなかった。それどころか実家も今まで通り経営できていた。一年たってやっと新作を書く気力がわいてきた。でもいざパソコンの前に座ってみたら、書けなかった。多分、息子への罪悪感からだと思う。夫婦関係は最悪でも、息子のことは愛していたから。以来、私は紙本好きの集まる会、紙本会代表 牡丹として、一個人として生きてきた。』



 ダリアさんの過去は壮絶だった。私たちが出会ったダリアさんの過去の一部分にしか過ぎなかった。それも『いい時間』の。ダリアさんが自由に本を書いて、自由に生きていたころ。そして、きっとダリアさんが置いて行ってしまった幼い息子とは、ステラ様のことなのだろう。



「みなさん、息子を、紙本を救うため共に戦ってください。お願いします」

 ダリア様は頭を下げた。その姿は、紙本を守るための作家というよりも、息子に謝りたい、憎しみに包まれた息子を救いたいというお母さんの姿そのものだった。




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