第3話 情景



知らない、風景。





真理亜は、斜めになっている地面に座り込んで、その目前に広がる景色を見ていた。



茜空が広がる河川敷。

所々に生えているススキが風に吹かれてサワサワと揺れる音と、穏やかな川が流れている音だけが辺りに広がる。


身体に吹きつける風は冬の気配を感じさせるような冷たさで、真理亜は思わず縮こまった。



知らないはずの、光景。

それなのに、胸の奥がツンとして泣きそうになる。


そんな感傷的な気持ちに浸ろうとしていた矢先、ポン、と後ろから肩を叩かれた。





『やっぱり、ここかよ』



見上げると呆れ顔の男の子が、真理亜を見ていた。






『お前なぁ、兄貴と喧嘩する度に家出するの止めろよ』





知らない男の子のはずなのに、真理亜は疑うことなく、男の子を自分の兄の友人だと理解していた。

彼に何と返事を返すべきか逡巡していると、「よかったー」と男の子は真理亜の隣に座り込んだ。




『お前、最近物騒なんだから、ひとりでこんな時間に出歩くなよなー。』








『・・・お兄ちゃんは・・・』




真理亜の口から、自分の声とはかけ離れた幼い少女の声が発せられる。

それに違和感を感じることなく、真理亜は言葉を続けた。



『お兄ちゃんは、わたしのことなんて、嫌いだから意地悪するんだ』




三角座りしている膝に顔を埋めながらそう言うと、彼は諭すように頭を撫でてくる。






『お前の兄貴は、お前のことを可愛いと思いすぎて意地悪するんだよ。』



『・・・うそ』



『ほんとだって。じゃなかったら、毎回俺と遊ぶのすっぽかしてまで、喧嘩して飛び出したお前を探したりしないって』



『え?お兄ちゃん、いつも探してくれてたの?』





驚きの事実に、真理亜は思わず顔をあげた。

兄はいつもそんな素振りはいっさい見せなかったし、心配されたことなど一度もなかった。

まさかのことに嬉しさと戸惑いの混じりの表情で彼を見ると、彼は笑いながら真理亜の前髪をワシワシと撫でた。



『まぁ、見つけるのはいつも俺の方がはやいんだけどね!・・・だから許してやってよ、アイツのこと』




な?と顔を覗きこんでくる彼に、真理亜は小さく頷く。

それを確認すると、よしっ!と彼は元気に立ち上がった。



『暗くなる前に、帰ろうぜー!アイツには俺から説教してやるからさー』




そう言って男の子は明るく笑いながら、真理亜に手を差し延べた。

大人というにはまだ幼い雰囲気のある彼を頼もしく感じながら、真理亜は躊躇することなく、その手を取って立ち上がった。






―――握った手はあたたかく、そのぬくもりを、真理亜は遠い昔から知っている気がした。

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