第五十一話 陽動部隊
「行ったわね」
七海さんが零す。愛とみくりさんがいなくなって、いよいよ始まるみたいだ。
「風利、イブ、ごめんね」
不安そうな顔。七海さんが打ち立てた計画が間違いだなんて思ってない。でも。やっぱり優しい人だから、私の顔を見てしまうと心が揺らいでしまうようだ。
私とイブを抱き締めて、耳元で呟く。
「ずっと考えてた。他に方法がないか。美空ちゃんだけでも一緒に行かせてあげられないかなとか。でも、無理なの。一緒に行けば、貴方達以外はみんな死んでしまう。風利ちゃん、一番辛い場所に送る私を恨んでもいいんだよ?」
『ちゃん』付けだ。なら、これは魔法少女じゃない七海さんの本心。
でも、心配はいらないよ。
「私が、私たちが、一番強いから」
「イブもそうおもうー」
イブと一緒に抱き返して、大丈夫だよって気持ちを込めた。すると七海さんは、歯を食いしばって立ち上がる。
「さぁ、貴方達も行きなさい。派手に暴れて全戦力を集中させるのよ!」
「了解」
「りょうかーい」
リトルガーデンから飛び降りる。最後に見えた美空が泣きそうな顔で親指を立てるから、私たちは笑顔で親指を立てた。
上手くやるんだよ。
私たちも、大暴れするから。
魔王城は真ん中が大きな空洞で、煙突みたいな穴がどこまでも続いている。そこを目掛けて落下して、何となく地球のおへそみたいだなって思った。
ふと気配がする。私たちに気付いた気配。穴の中で沢山の魔力が大きくなって私たちを撃ち落とそうとしているみたいだ。
「イブ」
「ん?」
「ギリギリまでかわすよ。一時間しか保たないから」
「おっけー」
イブと手を離し、雨のように打ち上げられる遠距離魔法を避けていく。
電気、水、炎、大きな岩、レーザー、氷、羽、数え切れない量の魔法がマシンガンのように広がっている。だけど、どれもそんなに強くないし速くない。きっと弱い悪魔に撃たせて様子を見ているんだ。まだ穴は遠い。ここまで届くくらいだから、やっぱりそこまで弱くはないのかもしれない。
煙突の入口付近に到着する。まだ雲の上だけど、私とイブは魔力を高めて身構えた。
強い。強いのが出てきた。
「イブ!」
「??」
一際目立つ魔力を感じた瞬間、イブの身体が真っ二つに切られた。斬撃だ。頂上に立っている侍みたいな悪魔。アイツはマズイ。
「大丈夫だね」
「もっちろん」
イブは千切れた身体を持って元の場所にくっつける。
「行くよ! 心を合わせて!」
「風利とひとつになる!」
私の手と、イブの手が重なる。眩しいほどの光が二人を包み、その光は炎の卵になって、私たちを近付ける。
一時間なら絶対に死なない。
七海さんから貰った言葉で、七海さんから貰った技で、私たちは熱を上げる。
身体が溶ける。溶けて混ざっていく。二つの身体が、二つの思考がゆっくりと混ざりあっていく。波長の近い、魔力の近い私たちだけの奥義。
包んでいた炎は弾け飛び、身体中に力が漲っていく。成功だ。
「「合体! 不死身の魔法少女イフウリート!」」
七海さんのように、イブと合体することで強大な力を手に入れた。決めゼリフもバッチリ。でも名前はちょっと言い難い。
「なんだ! 合体しやがったぞ!」
「「カッコイイでしょ?」」
お侍さんは大きく踏み込んで五月雨斬りを放つ。でも、今の私たちにはそんなの止まって見える。
返す刀で首を切り飛ばし、私たちは更に落下を続けた。辻斬りみたいで悪者気分だ。
「「【デッドカーテン】」」
両手を広げ、魔王城の壁に向かってマグマを放つ。壁一面を埋め尽くすと、思いっ切り下に向けて振り下ろす。カーテンのように垂れ下がるマグマが壁面に待機していた悪魔を高速で飲み込んでいく様子はまるで地獄だ。炎に耐性がある悪魔ですら、マグマの熱には耐えられない。
阿鼻叫喚が広がっていく。突然火山の中に放り込まれた彼等に成す術はなく、アレだけ打ち上げられていた放出魔法はピタリと止んで、一息の度に敵の気配は激減していく。
『数千は倒せたかな?』
『だけど、まだ強いのいっぱいだよ』
『一番下にも届いてなさそうだね』
『深いねー』
脳内でイブと会話して、しばらく滞空して様子を見る。どうやら今の攻撃に耐え切った強敵は降りてくるのを待っているみたいだ。
一匹以外は。
「んだコラぁ!! 熱ぃんだよテメェ!!」
『誰?』
『アトラスだ。強いから送ろうよ』
あっという間に目の前まで迫ったアトラスさんの拳をギリギリで避ける。そのまま上に飛んで行きそうだったから。イブと編み出した魔法を使ってみた。
「「【インビジブルゲート】」」
「うぉ······」
限りなく透明にしたフラッグゲートに勢い良く飛び込んだアトラスさんは、問題なくさくらの所に送られたみたいだ。あっちで袋叩きにあって成仏してください。
『やっぱり、使えるね』
『どんどん送っちゃおー』
それから、危ない感じにもならずに何匹も送って塔の中腹くらいに来たかなって時だった。そこからはやっぱり奥に進むほど敵は強くなって、当たり前のように被弾も増えて少しだけ疲れてきた。
「「【ブレイブダイブ】」」
「くっ! この! 止まらない!」
「「【フラッグゲート】······っ痛」」
芋虫みたいな悪魔を強引にゲートに押し込んだら、その隙をついて集中砲火されてしまう。さっきのタイミングでもそうだ。ほんの少しでも無防備になったら沢山殴られて、斬られて、撃ち抜かれてしまう。イブの能力で死なないとは言っても、痛いものは痛い。不死身であっても体力は無くなる。七海さんの言う地獄はすでに幕を開けていた。
『風利、大丈夫?』
『ん、大丈夫······だけど、速く降りよう。強いのだけ、倒しながら』
『うん』
ど真ん中にいたら好き放題撃たれて避けられない。落下の軌道を変えて壁に張り付いて、走りながら下を目指す。さっきよりはかなり避けやすくなったけど、強いのと戦う時に接近戦になっちゃうのはどうしようもなかった。
「マグマだろうと氷漬けは辛かろう?」
『風利、あのお爺さん強いよ。魔界でも有名な魔力量の氷使い。送らないと』
『駄目、まだ五分じゃない。何とかしよう』
『イブのマグマじゃ燃やし切れないよ?』
神器をクナイにして先制する。でも、クナイはお爺さんに届くことなく青い光に飲まれ、その光は私たちすらも飲み込んでいき氷塊の中に閉じ込めた。
「よくやったヒュードル!! 砕けろ化け物!!」
「「!!」」
氷ついた私たちの目の前に、身体よりも大きな拳が迫る。マズいと思った頃には頭を粉々に砕かれ、いくつもの電撃の槍が胴体を貫いた。
痛い。
痛い、痛い。
痛い、痛い、痛い。
不死身とわかっているのだろう。頭を飛ばした後も貫通力のある魔法が全身を抉る。復元した傍からまた削られ、気が遠くなっては意識を引き戻されるような強烈な感覚に殴られ続ける。
熱い。
熱い、熱い。
熱い、熱い、熱い。
傷口が燃えるように熱い。痛い。火なんて温く感じるほどの暴力。何回死んだんだろう。なんで死ねないんだろうと。ぐにゃりとした黒いナニかが私の頭に張り付いている。
『風利! 風利!』
『······い············ぶ』
『気絶しちゃダメ! 不死身解けちゃう!』
泣きそうなイブの声。わかってる。心が繋がってるから。代わりたいって、思ってくれてるんだね。
復元した歯を食いしばって痛みに耐える。私がしっかりしなきゃ。イブは表に出れないんだから。主導権を完全に私に移すことで成り立っている技だ。彼女が出てしまうと合体が強制的に解ける。守りたいのに守れない事が死ぬほどツラいって思ってくれてるんだね。なら、その気持ちに答えなきゃ。
『イブ······、あれ、やるよ』
『うん! うん! やろう! 魔力はまだ無くならないから! 風利!』
完全に復元した頭をもう一度砕こうと拳が迫る。やっと見えた。アトラスさんみたいな鬼っぽい悪魔がいたんだ。
力の入らない顎を精一杯動かして、一つの魔法を唱えた。
「「【白銀】」」
視界の全てが白く燃えた。
「「げほ、げほ」」
『大丈夫?』
『うん、ちょっと疲れただけ』
抉れた壁にもたれかかって息を整える。静まり返った塔の中はどこもかしこも焼け焦げ、私の吐血する音が反響して落ちていった。
みくりさんの黒い炎をヒントに生み出した特別な魔法。白い炎である【白銀】は扱いが難し過ぎて自分も焼けるから凄くダメージが残る。それでも、永遠に八つ裂きにされる事を考えれば擦り傷程度のものだ。後一回くらいなら使っても倒れないと思う。
『無茶はしないで』
『わかってる』
心を読まれ、イブに釘を刺される。精神が繋がると考えていることも丸裸みたいで恥ずかしい。
それにしても、あのお爺さん達と戦ってる間にかなり落ちてきたみたいだ。もう一番下が薄ら見えている。誰もいないのは気持ち悪いけど、きっと罠だろうし直ぐに囲まれるんだろうな。
分かっていようと止まるわけにはいかない。ゆっくりと降下して平らな最深部に足をつけ、辺りをよく観察する。沢山の横穴があって大小は様々。どこからでも敵の気配はするけど、特別強いのは無い。数が減っているというのもあるけど、本当に強かったらまず魔力を隠すと思うから油断は出来ない。
「「【アポロンフール】」」
炎の分身。みくりさんみたいに百体近く自在に動かすなんて出来ないけど、十体くらいなら私にも出来る。それに、マグマで出来ているから破壊されてもそこそこの被害は残せる。
分身は適当な穴を選んで入っていく。横穴は三百ほどあったけど、別に正解を見つける必要はない。察するに相手は隙を見つけて袋叩きにしたいのだろう。分身を細かく動かしているフリをすれば勝手に出てくるはずだ。出てきた瞬間に分身は爆発させて、上昇しながら引き撃ちで対処しよう。
でも、少し甘かった。
『お嬢さん、随分暴れてくれましたねぇ』
「「!!」」
頭の中で声がする。その瞬間、全身を縫い合わされたような強烈な硬直が起こり、立ったまま何にも触れてないのに自由を奪われた。
『申し遅れました。私は影魔法を得意とするパピルザクと申します。冥府をお届けに参りました』
『何······私たちの、中に』
『何でパピルザクが! 風利······っ、風利まずいよ! 周りから凄い数!』
このタイミング。やられた。頭の中に入り込んできた邪悪な気配は洗脳系魔法だ。迂闊だった。美空が食らったことのある魔法を全く考慮していなかった。これなら絶対に隙が作れる。早く叩き出さないと魔力そのものが乱される。
ここぞとばかりに襲い来る数百の強者達。身体をズタズタに引き裂かれ始める地獄の再来を耐えながら、私はイブに願う。
『イブ······ぐっ! そい、つ······倒し······っ』
『うん! パピルザク自身はそこまで強くないよ。三十秒で殺すから!』
『なるほど、中に居たのは不死の魔人イフリートですか。これは勝てませんね。しかし、私が死ぬまで耐え切れますかな?』
炎上する身体に魔力槍の雨が降り注ぐ。四肢を貫く度に脳が千切れそうな痛みが走り、涙を流そうとその目ごとカマイタチに引き裂かれる。握る拳は巨人にあらぬ方向へへし折られ、腰から下が空を泳ぐ鮫に噛み砕かれた。
『あぁあああぁぁぁぁぁぁぁぁぁああっ!!!!』
声すら出ない。声帯が抉り出された。瞬間的な回復が更なる苦痛を運び、まだ十秒と経っていないのに永遠を感じる恐怖と痛みの波。どこが復活して、どこが無くなったのか分からない。分からない。分からない。
もう、分からない。
痛みって、なんだろう······。
『風利! 風利!』
『············』
『風利! やったよ! 倒した! もう駄目逃げよう! 私たちに出来ることは······』
「「【白銀】」」
白く、透明に焼けていく。
全部、燃えていく。
まだ足りない。もっと。
もっと燃やさなきゃ。
声が聞こえる。焼けて悶える苦しみの声。私を苦しめた声が、苦しんでいる。色んな所から、私の代わりに叫んでくれている。ありがとう。みんなありがとう。私が出したかった声も、涙も、恐怖も、全部全部やってくれる。
もっと、もっとだよ。私はもっと痛かったんだよ。
『風利!!!!』
『ぁ············』
魔力が遮られる。イブの手が私の手に触れる感覚。貴方が止めたの?
『風利! イブはここだよ! ちゃんと見て!』
『イ············ぁ、······わた、し』
『お願い! 意識をしっか、り······』
イブの声が止む。私の視界に映るアレのせい? 何だろう。分からない。アレは何なの?
「おいおい酷ぇ有様じゃねえか。セルケトの軍団が全滅かよ。俺様のパピルザクも死んじまうし大損害だな!」
『ヴ、ヴェイダル······』
ヴェイダル、聞いたことあるような。
「美味そうな奴だぜ。見たところ魔法少女か? 昔見た奴らよりずっと楽しめそうだ······ん? 誰かがゲート開こうとしてんな。コイツが地味に消してたのはどこかの仲間に送ってたのか」
「どうします、俺たちが行ってきましょうか?」
「いや、これが作戦だとするとあっちの方が強いヤツいんだろ。お前ら十三界将は残って炎の小娘を絶命させろ。俺様は隠れた鼠を潰す」
「了解、我が主」
大きな龍がいなくなった。どこへ行ったの? この十二匹の悪魔は、誰なの?
『風利、もう駄目。合体が解ける前にゲートで逃げよう。覇王直属部隊【十三界将】がみんないる。さっきのパピルザクもだけど、戦闘力、イブよりずっと強いのがいっぱい』
「「【白銀】」」
『風利······』
悲しい気持ちが流れ込んでくる。
なんで泣いてるの?
倒して、強いのは送って。
やること、やらなきゃ。
みんな、殺すんだ。
三十路なのに魔法少女とかもう許してくれよ! 琴野 音 @siru69
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