日帰り異世界バスツアー
和銅修一
日帰り異世界バスツアー
無職。
そう、寺嶋 俊太は職に就いていない。正確に言うと不況の荒波にもまれてリストラされてしまった。
今は貯金を切り崩して次の職を探しながらパソコンの前で趣味のウェブ小説の原稿を書いている。
だが新作のファンタジーものを書こうとしているがどうにも筆が進まないでいた。そんな時に電話が鳴り、ふと開くと発信者は親友の関 陽一となっていた。
「はい。もしもし」
執筆も全く進んでいない状態で無職ということもあるので今はあまり知り合いとは話したくはなかったが、親友である陽一なら別だ。
「よお、俊太。お前リストラされたんだってな」
「初っ端なから痛いところを突いてくるな。冷やかしか?」
「いやいや、仕事の紹介だよ。ほら前にバスの運転手してたって言ってたからお前が適任かと思ってな。まあ、お前さえ良ければだけど」
陽一は外交官的なことをしていると言っていた。昔からコミュニケーション力がズバ抜けていて突然外国人に話しかけられても動揺せず、ジェスチャーだけでどうにかする男だ。今もその長所を遺憾無く発揮しているのだろう。
「助かるよ。流石にもうカップラーメンの日々には飽き飽きしてたところだ」
「そいつは良い。うちで働けばトリュフとかキャビアよりも珍しいもの食えるぞ。んじゃあ、詳しいことはメールで送るからよろしくな!」
この短時間で就職先が決まったのは幸いだが、それと同時に不安もある。親友の誘いではあるがどんな仕事なのかはまるで聞いていない。
「まあ、なるようになるか」
だが彼にとってはそれは些細ことだった。
無職というのはそれだけで親戚やら友達に変な目で見られる。本人は執筆する時間ができて暫くこのままで良いのかも知れないとは思ったが預金通帳を見ているとそうも言っていられない。
しかし、彼は後悔することになる。
この親友の誘いを受けてしまったことを。
***
集合場所である倉庫へ行くとそこには黒服を身に纏った親友が立っていた。
約三年ぶりの再会だが全く変わっていなかった。むしろ変わる方が驚きだが。
「時間通りだな。朝早くてすまんな。色々とこっちにも事情があってな」
「別に慣れてるよ。それでメールにはここに集合としか書いてなかったけど結局、何をすれば良いんだ?」
「バスの運転だよ。日帰りバスツアーのね。ただし客と行く場所がちょっと異質だかな」
何とも怪しい雰囲気が漂っているがここで引き返すのも癪なので俊太は関の後を追い、倉庫の中へと入るとそこには一台のバスがまるで彼の来訪を待っていたかのように佇んでいた。
「おお! 結構、綺麗なバスだな。けどこんなの見たことないな」
「それはそうだ。何たって俺ら異世界外交官が作ったこの世に一つだけのバスだからな」
「いせ……何だって?」
「言い忘れていたーーというのは嘘になるから正直に言うけど実はお前のことを騙してた。俺はただの外交官じゃねえ。異世界と日本の関係を良くする仕事してんだ」
「い、異世界ってラノベじゃないんだから」
「じゃあ、その目で確かめてみるんだな。お前、こういうの興味あるだろ」
興味があるどころの話ではない。特に今はファンタジーものの小説を書こうとしていたところだから実物を見たら何か思いつくかもしれないが……。
「マジ……なのか?」
「それはこれから自分の目で確かめるんだな。ほら、これがバスの鍵だ。ナビがついてるからそれに従って運転してくれ」
受け取ったら後に引けない。
そんな雰囲気が漂っていたが俊太は迷わずにその鍵を受け取った。それは仕事がないからというのもあるが、好奇心が勝った。
とりあえず、真偽を確かめるためにナビに設定されている目的地へとバスを走らせる。だがそこで違和感を覚える。
「な、なあこのバス速すぎないか?」
少し踏んだ程度なのにまるで高速道路でランボルギーニにでも乗っているのかと錯覚してしまうほど速い。というかメーターに表示されている最高速度があり得ない。
「ああ、特注のバスだからな。最高マッハで走れるぜ。マッハで」
無邪気な子供のようにはしゃいでいるが、運転している本人はそれどころではない。運が良いのか悪いのか、道はきちんと整備されていて真っ直ぐだからこそ事故になっていないがもしそうでなかったら大惨事になっていただろう。
目的地の地点へ着くとそこは倉庫がいくつと立ち並ぶ何処かの施設らしく、その中で最も厳重に保管されているものの前にバスを停車させた。
「いや〜、やっぱりこのバス凄いな。まあそれをものの数分で乗りこなすお前も凄いけどよ」
「そりゃあどうも。それでこのモンスターマシーンで異世界に行ってどうするつもりだよ」
「そりゃあ観光だよ。日帰り異世界バスツアー的な」
「無理だろ」
あの速度ではバスツアーどころではない。まだレースに参加していた方が自然だ。
「むしろ異世界はこれくらいじゃないと駄目なんだよ。ほら、あっちには色々と危険があるから」
「このバスの方がよっぽど危険だと思うけど……」
「まあ、その辺はあっちに行ってみたら分かるさ」
と関は懐に隠していたリモコンで目の前にある倉庫のシャッターを開けた。するとそこには見たことのない紋様が刻まれた何かが聳え立っていた。
「何だこの馬鹿デカいのは?」
「異世界とこの世界を繋ぐ門だ。一応、国家機密だから知らないと思うけど、二年前にここで突然出現して大変だったんだぜ。まあ、平和的に解決したから良かったんだけど」
「でも、色々と大丈夫なのか?」
「お前は細かいこと気にせずにバスツアーを成功させるように頑張ってくれれば良いさ。もうすぐ客が来るぜ」
「客って、異世界のことは国家機密なんだろ」
「まあ、客といっても政府関連の人だからな。その前にバスガイドを紹介するよ」
「バスガイド?」
「ああ、バスツアーには必須だろ。それと用心棒役として異世界から二人雇ったんだよ」
「異世界人か。それは興味あるな」
「俺はナグリだ。お前が運転手って奴か。まあ、よろしく頼むぜ」
俺という一人称であるが性別は女性だ。男勝りな性格らしく、その肉体は素人の俊太でも分かるくらい鍛え上げられている。更にその金髪はまるで宝石のように煌めいており、より一層その美しさが際立っている。
そしてもう一人は空のように青い瞳と髪が特徴的な少女で寝不足なのか目が半開きで眠たそうにしている。
「ノルン……です。眠いので寝ます」
急に不安が倍増したが今更後には引けない。
俊太は二人のバスガイドに挨拶をして客が来るのを待つことにした。
***
ひょんなことから異世界バスツアーをすることになった俊太。
異世界人のバスガイドと共に客を待つこと数十分。金持ちが乗っていそうな胴体の長い車が到着し、そこから黒髪の少女が現れた。
「あんたが異世界に案内するの? 冴えない男だけど本当に大丈夫なの?」
「おい、何だよあの子供。まさかあいつが客か?」
「西条アリア。俺たちの組織に何かと援助してくれる金持ちの子供さ。今回は異世界が安全な場所だってことを他の奴らにも知ってもらうためだから正直、誰でも良いんだよ」
「なるほど、異世界バスツアーの目的はそれか。けど、まさか我儘少女が相手とは」
「それと要望としては妖精が見たいということらしい。妖精が住んでる森は特定してるが道中危険らしいがバスガイドの二人がいるから多分大丈夫だ」
「多分ってそれはまた投げやりだな」
「いやいや、これはかなり重要な任務なんだぜ。まあ妖精は気まぐれだから会えるかどうかは運次第だから適当に案内して無事に帰って来てさせくれればそれで万事OKだ」
案内と言っても異世界に何があるかなんて知るはずもないし、そこはバスガイドの二人に任せるとしよう。
「じゃ、じゃあアリア様。俺……私が今回異世界バスツアーをさせていただく寺嶋 俊太です。これからよろしくお願いしますね」
「はいはい。分かったから早く出してくれる。本当はこんな平民が乗るようなものには乗りたくないけど、今回は我慢するわ。ほら早く行くわよ」
怪物並みのパワーを持つバスを運転するだけでもストレスなのに更に漫画でもそうはいない生意気お嬢様を相手しなくてはいけないと考えると俊太は自然とため息が溢れる。
「はぁ……これは先が思いやられるな」
***
「さて、それじゃあ出発するか……って、もう片方はどうした?」
「ノルンか? あいつなら下で寝てるぜ。まあ、基本俺一人で十分だからお前は運転に集中してな」
初っ端からサボりが出るとはこの職場は本当に大丈夫か? それとも異世界人にとってはそれが普通なのかと俊太は疑問に思ったがそれよりも目の前の門を通って本当に異世界に行けるのかという方が気になってアクセルを踏めないでいた。
「どうした出発せぬのか? 平民と違って私は忙しいのだぞ」
客は煩いし、目の前は空間がねじ曲がっているかのようだが意を決してバスで門をくぐった。
「うおっ! 話は聞いてたけどこれは凄いな。まるで空飛んでるみたいだ」
周囲は辺り一面青色に染まっていた。ここは世界と世界をつなぐトンネルのようなものらしい。
「お前が感動してどうすんだよ。悪りぃなお客さん。けどここで驚くにはまだ早いぜ。お前らが言う異世界はお前たちの世界にはないもんがウジャウジャあるぜ。まあ、それはお互い様なんだけどよ」
「あっそ。興味ないですわね」
「その割には妖精が見たいっていう具体的な要望があるみたいだけどそこはどうなの?」
「か、関係ないでしょ! 平民は黙って仕事を全うしなさい」
そうこうしているうちにトンネルを抜け、ようやく異世界へと到着した。
「おおっ、ここが異世界か」
見たことのないものばかりで目移りしてしまう。半信半疑だったが先ほどのトンネルとこんなものを見せられたら流石に異世界は存在したのだと思い知らされる。
「そうだ。妖精を見るならここから東に行った森に行くしかねえ。このバスなら片道一時間くらいだ。けど、関の野郎はこっちには長く滞在できないから三時間で帰って来いって言ってるから妖精探しは一時間だけだ」
「一時間……意外と短いのですね」
日帰りなのだから俊太もてっきり普通のそれと同じように要所要所止まり、そこを観光して最後に妖精を探すものだと思っていたがそこは大人の事情というもので出来ないそうだ。
「こっちはお嬢様が思ってるよりも危険なんだと。俺がいるから大丈夫って言ってるんだけどよ。まあ、こればかりはどうしようもならねえ」
時間は短いがその決められた時間内でどうやって楽しくなるかを考えるのがプロだ。俊太はバスにあった地図を広げて最短ルートを見つけ出し、安全運転でそのルートを進む。
再三、危険だと聞かされていたのもあり俊太は一体どんな地獄絵図が待っているのかと心構えをしていたが道が整備されていないところ以外は特に文句のつけどころはない。
むしろ他では見たことのない建物や生き物が多くて景色を見ているだけでも楽しいが、バスガイドが雑な説明しかしてくれないのが残念だ。
しばらくファンタジーな風景を楽しみつつ、目的地まで安全運転していると下の隠し扉からずっと寝ていたもう一人のバスガイドが姿を現した。
「おっ、やっと起きたかノルン。ってことはお告げが出たんだな」
「お告げ?」
「何だよ、あいつから聞いてないのか? ノルンは未来が見えるんだと。けど自分で制御できないし、いつ出るかも分かんねえからそんな便利なもんでもないが必ず的中するぜ」
未来予知。
それが彼女が持つ能力で関がこの異世界バスツアーのバスガイドとして雇った要因でもある。
この異世界とは平和協定を結んでいるが、それを良く思っていない者やそれと関係なしに襲ってくる理性のないモンスターがいる。それを事前に察知するために彼女はいる。
「穢れある者、妖精の森を通るべからず。さすれば番人は怒り狂うであろう」
いつもの眠そうな口調ではなく、何物かに取り憑かれたかのように淡々とその予言を言い終わるとまた下に戻っていった。
「これが予知?」
「ああ、こいつが言うには神様の声を聞いてそれを代弁してるんだと。けど、こんなナゾナゾみてえな言い方しかしねえから面倒なんだよ」
「穢れある者……。番人ってのは多分、森を守ってる何かなんだろうけど要はそいつを怒らせるなってことなんだろうけど、サッパリだな」
「正直、俺もだ。妖精とは色々あって犬猿の仲だからわざわざ森に行ったことなんてねえから番人がどうとかも知らん」
関なら何か知っているかもしれないが、連絡手段がない。事前にもっと話を聞くべきだった俊太は後悔するがそんなことを見透かしたように最後列の真ん中に鎮座している少女が不満をまき散らした。
「何をしているの? 予言がどうしたのよ。番人が出るならその番人を倒せば良いだけの話じゃない」
まるでマリー・アントワネットの「パンがなければお菓子を食べればいいじゃない」という一言に似たものがあるが一理ある。
これを依頼した関としては客を無傷で帰還させれば成功だが、俊太の場合は違う。彼にも彼なりにプライドがあり、このバスツアーを完全に成功したいと思った。
元バス運転手であるからというのもあるが、今回の客はわざわざ危険である異世界に来てまで妖精をその目で見ようとしているのだ。それなりの事情があるに違いない。
そう思うと適当に誤魔化して終わらせるなんてことは出来ないのだ。
「このバスで体当たりしたらもしくは……」
「何言ってんだよ。この俺がいるんだぜ。そんなことしなくてもこれで蹴散らしてやるよ」
とナグリは何処からともなく取り出した赤い装飾が施された剣を掲げる。
「そ、そんな物騒なもの何処から出したんだよ」
「俺も知らねえ。出ろって思ったら出てくんだよ。まあ、勇者の特権ってやつだよ」
「ゆ、勇者⁉︎」
「あ? 言ってなかったか。俺は勇者だぜ。まあ、魔王を倒しちまったから元なんだけどよ」
「そうか。けどそれを聞いて安心したよ。じゃあ、番人が出て来たら頼めるか?」
「ああ、任せとけ」
これで迷う要素はなくなり、俊太はアクセル強く踏み込んだ。
***
「着いてから言うのも何だけど予知で番人に出くわさない経路とかって見つけられなかったのかな?」
「今更何ビビってんだよ。てか、それは不可能だぜ。予知にも限界があるし、こういう門番ってのは道を変えたところで変な意味なんてねえよ」
一人の客を乗せた異世界バスツアーは危機に直面していた。なんとノルンの予知が的中し、目の前に全身緑色の番人が道を塞いだ。
後ろにある大木が小さく見えるほどの巨躯で俊太はその姿を見て関に「ランプから出て来た魔人みたいだった」と報告することになる。
「この森に邪な人間を通すわけにいかん。即刻、立ち去るのだ」
「いやいや。邪だなんてそんな……。俺たちはただ見学をしに来たんですよ。ただ妖精さんのお姿を一目見れたら〜なんて……ね!」
番人のプレシャーに負け、何故か敬語で言い訳をして挙げ句の果てに同意を求めるがここにはそんな者はおらず、むしろ
「いつまで待たせるつもり? 私はそんな筋肉隆々でキモいのには用はないわ」
「同意見だぜ。ほら、さっさとかかって来いよ。返り討ちにしてやんよ」
と言い返す者と下で熟睡する者しかいない。
「せめてバスから降りてから言ってくれナグリ。それだと俺たちも巻き込まれるだろ」
「っと、いけね。んじゃ俺はこのデカブツの相手してるから先に行け」
「けど、殺したらマズイんじゃないか? それが原因で戦争なんてことになっても俺は責任取れないぞ」
「ちっ、面倒だな。じゃあ殺さない程度に時間稼ぎするからその間に終わらせろ」
何とも慌ただしい形で目的地に到着し、二人は森の中へと走り出した。
***
流石に森の中をあのバスで爆走するわけにもいかないので咄嗟に降りてここまでアリアを連れ出して来たがまた何か文句を言われるのではと俊太は不安になって顔色を伺うが彼女は真剣な眼差しで妖精を探していた。
「よっぽど妖精に会いたいんだな」
「何? 私が妖精で必死になってるのがそんなにおかしいわけ⁉︎」
「い、いや……ただ気になってたんだよ。どんな理由があって妖精が見たいのかなって。何となく君にとって大切なことみたいだから成功させたいと思ったんだ」
「あんたって意外と馬鹿なのね。あそこに残った元勇者と同じくらいに」
「な⁉︎」
心外だと講義しようとするが、彼女はそれを無視して自分の話をする。
「いいわ。疲れたし、休憩がてら話してあげるわ。私が妖精を探している理由を。それは昔、お母様が読み聞かせてくれた絵本がきっかけなの」
「絵本?」
「内容は一人の少女が不思議な森に迷い込んで妖精が助けてくれるってものよ。丁度今の私たちみたいにね。実は最近、お母様が亡くなって色々と大変な時期なの。だから思い出であるその絵本を探したんだけど見つからなくて……でも思い出したの。お母様との約束を」
「それが妖精を見つけること?」
「ええ、いつか一緒に妖精を探しに行きましょうって。それで偶然耳にしたこのバスツアーに参加することしたの。これは最後の我儘」
「最後の我儘?」
「お父様は健在だし、仕事も出来る人だけどお母様が亡くなって空いた穴は私が埋めないといけないから……」
まだ子供だというのに先を考えた彼女のそれは痛いほど伝わった。それに引き換え自分は何をしているのだと昨日まで無職だった男は奮起する。
「そうか。それならより一層に見つけないといけなくなったな……ってうわ!」
立ち上がり、探索を再開しようとしたが派手に転んだ。アリアはそれを追いかけるとそこで探し求めていたものを目にした。
「妖……精」
あまりの美しさにそれ以上、言葉が出てこなかった。だが何故かその妖精が呼んでいるかのような気がして自然と二人の足はその先へと進んでいた。
***
「いや〜、それにしても驚いたぜ。こんなに早く帰って来てくれるとは思わなかった。そろそろデカイのを一発出してそれを目標にしてやろうとしてたところだったぜ」
「それは我ながらナイスタイミングだったな」
あの妖精に案内されて森を抜けるとそこは二人が入って来たところで目の前では元勇者と森の番人が死闘を繰り広げていた。
バスに乗ってこうして逃げて来たから良かったもののもし続けていたら森にも被害が及んでいたかもしれない。
「それで収穫はどうだったんだ?」
「ああ、バッチリだよ」
「そうか。そいつは良かった。じゃあ、後はこのまま帰るだけだな」
「少し寂しいけどな」
色々とあったが異世界は想像以上に楽しかった。
残念ながら小説の方は進みそうにないが彼は一つ成長出来たと自覚しているからそれで良しとした。
「あん? 客はまだしもお前はこれからも来るんだからそんな今生の別れみたいな顔すんなよ」
「これからも?」
「そりゃあそうだろ。一回成功程度で認められるなんて思うなよ。客を変えてまた来ることになるぜ。お前が望んでなくてもな」
そしてそれを断ることは彼には出来ない。否、出来ないようにされている。
親友の頼みであるからと快く引き受けたが、ここに来てようやく彼はそれを後悔した。だが後悔しても何も変わらない。
諦めてただ安全運転を心がけたおかげか何事もなく、門を潜り元の場所へと戻るとそこで関が迎え入れてくれた。
「お疲れさん。無事に帰って来て何よりだ。それにしてもどうだった異世界は?」
「正直、死ぬかと思った。番人に出会った時には一瞬走馬灯が流れたよ」
「ははっ! まあ、こうして戻ってこれたんだから良しとしてくれ。終わりよければ全て良しってな。それと帰って来たばかりで悪いが今後の話を……っと、どうやら先客か」
アリアがこちらに向かっているのを察して関はそそくさと退散する。
「自分から消えるなんて身を弁えてるわね。それに比べてあはたは……」
「な、何か問題でも?」
「いえ、その……確認よ。あれは本当に妖精だったのよね。あんたたちが用意した偽物なんかじゃなくて」
「偽物だったらあんな危険な番人なんて用意しませんって。あれは正真正銘本物の妖精だよ……ってあ! 折角だから俺も確認したいことあったのに忘れてた」
「確認したいこと? 何よそれ」
「ほら、妖精には尻尾があるかどうかってやつ。実際にいるならそれを確かめようかと思ったんだけど」
「馬鹿ね。それならまた見に行けば良いだけのことじゃない。けどその時は私も連れて行きなさい。これは命令なんだからね」
「はいはい。分かりましたよお嬢様」
こうして初の異世界バスツアーは大成功で幕を閉じたがナグリの言ったようにこれで終わりではない。
我儘お嬢様よりも面倒な客が今後舞い込んで、更なる困難が待ち構えているがそれはまだ誰も知らない。
日帰り異世界バスツアー 和銅修一 @ky1108
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