Ⅱ-6 宝の謎解き……

 四つ折になっている紙を破れないように慎重に開けていく。


 その様子を鯨丸と由良が、固唾を呑んで見守った。


 紙は、巻物の一部を切り取ったものだ。


 紙の上半分に、三文字ずつ漢字が並んでいる。


 全部で十七行。


 最後の十八行目だけ、紙の下半分に三文字書かれている。



  訶羅怒

  烏之褒

  珥椰枳

  之餓阿

  摩離虚

  等珥菟

  句離訶

  枳譬句

  椰由羅

  能斗能

  斗那訶

  能異句

  離珥敷

  例多菟

  那豆能

  紀能佐

  椰佐椰

        誉田別



 相当古いもののようだ。


 一行ずつ取り囲むようにして、笹の葉のような染みができていた。


「どうだ、分かるか?」


 鯨丸は眉を寄せて、


「これは……、う~ん」


 と、唸ったまま黙り込んでしまった。


「やっぱり、若さんにも分かるまい」


 鬼羅は、鯨丸が首を捻っているのが、すこぶる愉快だ。


 大の大人が分からなかったのだ。


 こんなガキに分かって堪るかという気持ちだ。


「でも、この最後の文字は……」


 鯨丸は、最後の文字〝誉田別〟を指差した。


「これは、〝ほんだわけ〟ですよね」


「えっ? ほんだわけ? 何だ、それは?」


「誉田別天皇(ほんだわけのすめらみこと)様――応神天皇様のことだと思うんですが」


「その、誉田別さんってのは、どういうヤツなんだ?」


「はるかむかしの天長様です。私の祖先である平家が、壇ノ浦で滅びるよりも遥かむかしの」


「じゃあ、そいつのことがここに書かれているってことか? 例えば、そのほんだ………………なんとかが、隠したお宝とか?」


「さあ? でも、これ……、どこをどう返して読めばいいのか分からなくて……」


「頼む、若さんだけが頼りなんだぜ」


 鯨丸は、右へ左へと首を捻る。


 すると、由良が鯨丸の袖をチョンチョンと引っ張った。


「何だ、由良?」


 由良は、一文字ずつ指で押さえていく。


「一、二、三、四……」


 四文字目にくると、すっと四文字目と五文字目を指で切るような仕草をした。


 そして、続けて、五、六、七と指で押さえていく。九文字目と十文字目で、先ほどと同じように指を横に流した。


「何だ? 何をやってるんだ、姫さんは?」


「もしかして、ここで区切れってことでしょうか? そうなのか? 由良?」


 由良は嬉しそうに頷き、先を続けた。



  訶羅怒烏

  之褒珥椰枳

  之餓阿摩離

  虚等珥菟句離

  訶枳譬句椰

  由羅能斗能

  斗那訶能異句離珥

  敷例多菟

  那豆能紀能

  佐椰佐椰



「それでも全く意味が通じないぞ。どういう意味だ? 烏が怒る?」


 鬼羅の言葉に、由良は首を振る。口をぱくぱくと開けて、何か云いたそうだ。


「姫さん、何だ?」


 由良は、一文字目の横に指を走らせる。字を書いているようだ。


 ひらがなで………………〝か〟


「か?」


「あっ!」


 鯨丸が大きな声をあげた。


「な、何だ?」


「分かりました、これは私たちの村に伝わる歌です」


「な、何?」


 鬼羅は素っ頓狂な声をあげた。

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