Ⅱ-1 門前町で……

 鬼羅たちは門前町に出た。


 山の中腹に寺がある。


 切幡寺というらしい。


 参道沿いには市が立ち、様々な物が売られていた。


 雑穀や山菜、川魚や山鳥まである。


 棚に、猪の顔だけがどんと置いてあるのを見て、由良は酷く気味悪がっていた。


 都からの下り物だという織物の前には、人だかりができている。


 店の主は、


「天長様がご愛用になる何某屋の着物で、かの信長様も……」


 と、盛んに喧伝している。


 しかし、これがどうにも胡散臭い。鬼羅が見ても明らかにまがい物だと分かるし、店の主も柄が悪い。だが、都に憧れる人々は、かなり食いついていた。鯨丸や由良も、目を輝かせて見ていた。


 餅屋の前を通り過ぎると、由良が足を止めた。指を咥えて、もの欲しそうに見ている。


 欲しいのかと訊くと、激しく首を振る。


「じゃあ、行くぞ」


 と歩き出しても、由良は動かなかった。


「やっぱり欲しんだろうが」


 買ってやると、由良は半分ちぎって、足元に纏わり付いていた白い犬に与えた。


 鞠で遊んでやった犬だ。


 由良のことが相当気に入ったようだ。


 川原からずっと付いてきた。


 よっぽど腹を空かせていたのか、白い犬は餅にしゃぶりついた。


 由良も、犬に負けじと目を輝かせてパクつく。


 まだ子どもだなと、鬼羅は鼻で笑った。


 見世物も出ていた。


 琵琶法師が、穴だらけの筵の上で、『平家物語』を吟じていた。その向い側では、物語僧が、『太平記』を朗誦している。お互いに張り合うものだから、段々と声が大きくなり、結局みんな耳を塞いで通り過ぎていた。


 鯨丸は、高足の見事な技に、わっと歓声をあげた。


 由良も、鬼羅が買ってやった餅を食べながら、猿回しを飽きずに見ていた。


「お前ら、そんなに面白いか?」

 

 と尋ねると、二人は目を輝かせて頷いた。


「だって、村では見られませんから」


 なるほどなと、今度は鬼羅が頷いた。

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