Ⅰ-16 鬼の剛力……

 上を見ると由良の体がブラブラと揺れている。空中に投げ出されたのを、鯨丸が妹の手を取って助けたようだ。


 だが、体の細い鯨丸では、自分の体を支えるだけで限界だ。


 とても、もちそうにない。


 彼は顔を真っ赤にして、プルプルと震えている。


「ゆ、由良、ぜ、絶対に、て、手を放すなよ……」


 由良は、何か云いたそうに唇を動かすが、声が出ない。


 代わりに首を振った。


「兄様は大丈夫だから! ぜ、絶対に手を放さないから!」


 鯨丸の言葉に反して、由良の体がズルズルと下がっていく。


「鯨丸、絶対に放すなよ!」


 鬼羅は叫んだ。


 鯨丸が手を放せば、由良が鬼羅に直撃する。


 それでなくとも、下からルイスが迫っているというのに!


「いま、助けに行くからな」


 鬼羅は急いで吊り橋を上る。


「もう……、駄目……」


 鯨丸の手から、由良の手がすり抜けた。


 由良が鬼羅目掛けて落ちてくる。


「おいおいおいおい!」


 鬼羅は、両手で彼女を受け止めた。


「うおっ!」


 吊り橋を両足で保持し、上背だけでもちこたえる。


 だが、さすがの鬼羅でも、この体勢は苦しい。


 ルイスも、「チャンス!」と上がってくる。


「うぐぐぐぐっ……、ぐおっ!」


 最早限界だ。


 全身の力が抜けると、空中にふわりと投げ出された。


 落ちながら、鬼羅は由良をしっかりと抱きかかえる。懐から細い糸を取り出し、崖に生えていた木に投げつける。


 運よく引っかかった。


 鬼羅と由良は、崖の途中に僅かにできた茂みへと落ちた。


「助かった!」


 鬼羅は、由良を見た。


 気絶はしているが、怪我はなさそうだ。


「鬼羅さん~! 大丈夫ですか~?」


 鯨丸の声が響く。


「ああ、妹も大丈夫だ。って、お前のほうが大丈夫じゃねぇだろう」


 ルイスがいまのうちとばかりに、鯨丸に近付いている。


「鯨丸、逃げろ! 早く上がれ!」


 鯨丸は、下を見てようやくことの重大さに気が付いた。慌てて垂れ下がった吊り橋を上り始める。


 しかし、一足遅かった。


「捕マエタゾ!」


 ルイスの手が、鯨丸の右足にかかった。


「くそっ!」


 鬼羅は懐から手裏剣を取り出し、ルイスに投げつけようとした。


 そのとき、何処からともなく一匹の鷹が現れ、ルイスを襲い始めた。


「ナ、何ダ、コイツハ! クソッ、ドコカニ行ケ! コノ! コノ!」


 ルイスは、一匹の鷹に翻弄されている。


 そのうち足を滑らせて、


「ギャァァァァァァ!」


 怪鳥のような叫び声をあげながら川へと落ちていった。

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